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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
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72 布衣之交

 極寒の北国。囲われた透明なドームの中にはブリキのような金属板の数々が繋ぎ合わされて造られた首都。生活圏を広げるために歪な発展を遂げた街。

 換気などのため人工的に吹いては都市を巡る風、照らされる光さえも太古の技術に頼っている欲望の街。

 膨大な数の配管から溢れ出る煙霧に包まれ、十数ムートから先は白く霞んでしまい、奥の景色の一切は、建物の輪郭すらわからなくなる。

 見るもの全てが、今までとは異なる世界であり、まるで曖昧な夢の中にいるように錯覚する。

 ただ、伝わる感覚、五感がリアルなもの、現実であると正しく認識させた。

 物が動く音。歯車が回る音。蒸気機関による駆動音。人々の生活を送るために生まれる数々の喧騒。

 造られたものでも、決して偽りではない。

 そして、今、立花颯汰が耳にした音もまた本物である。


「――……お~~い!」


「……」


 遠くから聞こえる声と走り寄る影。

 この世界に来てから何度目かの驚きか。

 度合で言えば目眩いのレベルまでは至らなくとも、何故?という純粋な疑問が浮かんできた。

 そもそも、己が住んでいたことわりと幾分かズレている新世界で生きていけば、驚きの連続が当たり前であるのだが。


「あぁ! やっぱりアニキ、ヒルベルトのアニキじゃないですか!」


 変声期前の子どもの声が聞こえた。

 慣れぬたどたどしい敬語からは悪意など微塵も込められていない。子どもなりに敬意を払った態度で、純粋な憧れを抱いた視線が突き刺さる。

 幻聴と流したかったところだが、声が聞こえた方向に颯汰が振り向いて、固まってしまった。


「まぁ! レナート! 何であんたがここに?」


 驚いて口を開けている颯汰の代わりに、皇女が彼の名を呼ぶ。

 逢引……ではなく、せっかくできた友人たちと楽しいガラッシア巡りに興じているというのに、忘れ去りたい田舎からお邪魔虫がやってきたと言わんばかりの、若干の不愉快さが混じった声音であるが、忠実な犬であるレナート少年にとっては甘美な響きにしか聞こえない。むしろ、己の名を呼ぶ声に感激をしてから、遅れてその相手が皇女本人であると認める始末だ。


「い、イリーナ様ァ!?」


「シッ――声が大きいわよ」


「も、申し訳ございません」


 その場で跪こうとするレナート少年に小走りで近づき、イリーナは彼の肩に触れて、座るなと引っ張ることで制した。

 近くに颯汰たちがいなければロイヤルな足蹴が飛んでいたし、どの結果であれ、触れられたことに彼は喜ぶに至るに違いない。


「いわゆるお忍びデー……、ううん、可哀想な子豚ちゃんたちにガラッシアのいい場所だって教えてあげてるところよ。邪魔するなら牢行きよ牢行き」


 シッシと邪魔者を払うように手を振る。

 今更取り繕ってもだいぶ遅いと過敏な女子たちは思いつつも、それをあえて口にする愚者はいない。そこにさらにヒトが集まってくる。


「あ、ヒルベルトちゃんだー」

「いりーなさまー」

「姐さんもげんきか?」

「リザ姉はあいかわらずクールだ」

「皇女サマ、ヒルベルトくんたちと同じ格好だー!」


 元より活気に満ちたニヴァリス帝国の中心地。

 そこに比較的若い――否、幼い子どもによって人だかりが生まれていた。

 テュシアー村の子どもたちだ。

 皆がガラッシア風の今どきの格好で、顔には例の防塵マスクが付けられていた。慣れない衣服と都会に緊張してるように映る。

 まずは最初に語りだすのは女の子たち。

 そして、その後に男の子たちも一斉に話す。

 皆が思い思いに語り出し、再会を喜び始める。

 最初はちょっとムッとしていた皇女であったが、同じ格好と呼ばれたところでパッと表情が変わり、したり顔で鼻を鳴らす。


「ふん。変装のため仕方なく、ね?」


 めちゃくちゃノリノリだったじゃねーか、と颯汰はホテルから出発する前の記憶を思い出すが口にはしない。


「さすがです、イリーナ様。どんな格好でも輝いている……。あ、アニキと、お、お揃いで、と、とっても……」


「ま、まぁね。私くらいになれば、どんな衣装だって華麗に着こなせて当然なのよ」


「アニキじゃないっての。あとみんなマナ教で一緒だ一緒」


 別のベクトルを向いている憧れの対象が、(一方通行で)好意を抱いてるという事実を、まだ若すぎる少年が受け入れるには重すぎる。すべてにおいて、人間……否、雄として勝てない存在である立花颯汰ヒルベルトにこそ、己にとって最上の存在である皇女イリーナは結ばれるのに相応しい、と自分自身に言い聞かせてはいても、拒否感が唇にまで伝い、震えてしまう。

 そんな悩みを抱いているとはつゆにも知らぬ皇女当人は、世辞ではない本気の称賛を受け取り、頬を赤らめて手で顔を扇ぐ。

 複雑な感情を抱いている騎士ナイトと皇女に触れるのが面倒である颯汰は、他の子どもたちと保護者役の青年たちの方に視線を移す。


「えーと……、マルク少年、イサイ、アリサちゃん、アラムさん、ルドルフ、プラトン、ラマン、セルゲイ、シードル、ルカ、アンナちゃん、ヴェロニカさん、レイラさん、ヤーナちゃんにマイヤちゃん……村の子ほぼ勢揃いじゃねーか」


 盛り上がる中、颯汰は一人一人の顔を見て名を呟く。限界集落とまではいかないが、かなり少子化が進んだテュシアーにいた子どもたちの殆どがここにいる。

 男子も女子も、隔てなく颯汰たちの方へ集まっていた。

 イジメを受けていたマルクと雪合戦時に加勢させたイサイ少年、この二人は別として、レナート以外の少年たちはレナート同様に皇女の権力の下に付く奴隷も同然であったが、レナートのレベルまで心酔してはいなかった。

 加えてヒルデブルク王女(ヒルダ)立花颯汰(ヒルベルト)姉弟のおかげで、目が少しばかり覚めたと言える。雪合戦の一件やニヴァリスの魔王の配下たる使い魔の件で、同年代とは思えぬ活躍ぶりをいかんなく発揮した彼らは、今や憧れのまとである。

 さらに彼らは成長した。親の叱責があったにせよ、己の行いを恥じ、二度とイジメなど卑劣な行為に手を染めることはないだろう。女の子たちも、今度こそは見て見ぬふりを止め、立ち上がれるかもしれない。

 彼らの人生を、意図せず良い方向に変えた偉大なマナ教の姉弟。そんな憧れの対象の一人の呟きに、皆が一瞬だけ押し黙った。


「な、なに?」


 慣れぬ理由の視線の意味を捉えられずいると、


「アニキって……全員の名前覚えてたの?」


 レナートが驚いた顔をし、皇女もまた目を見開いていた。

 颯汰は雪合戦時に参戦した男女と半ば保護者枠の青年たちを含め、全員の名前と顔を一致させた。小さな村にはこれだけしか若い子どもがいないという悲しい事実から、名を覚えるのに然程苦労はしなかったが、ほんの少しの間だけ遊んだ憧れの対象から名を覚えてもらったという事に、子どもたちは感動を覚え、アラムなどの青年と此度の意味で本当の保護者である大人の男は大いに感心していた。


「おぉ!」「なんか、うれしいな」

「やっぱヒルベルトくんパネェっすわ」

「さっすがぁ~」「……かっこいい」

「――……」「――……」「――……」


 ただでさえ高まっていた評価が、颯汰にとってほんの小さなことで爆発的に高まる。

 称賛の嵐。人に褒められることにあまり慣れず、他者と極力距離を置く――置いてもある程度は生きていける現代という環境に慣れすぎたせいで、裏のない素直な言葉に弱い。褒められて調子に乗るのではなく、くすぐったくて、調子が狂うのだ。


「あ、いや、あの……――」


 より勢いが増した言葉の羅列に、颯汰は圧倒されていた。狼狽えている少年王。この程度のことでそこまで喜ぶことなのかと口にしても、周りの声に掻き消される。


「それにしても、アニキたちがいるとは聞いてましたが、まさかこんなにすぐに会えるなんて」

「運が良いよな」「安心したね」

「世間ってせまいね」「ほんとにね」


「とちかん? もないし、『がるでぃえるのおんりょう』もでてくるかもしれないし」


 ――あぁ、ニヴァリス領内で起きている児童の行方不明事件のことか。それで……


 まさに拉致の対象となった颯汰が思い出す。彼らが妙にソワソワしているように見えたのは慣れない環境にいるせいではなく、不安がっていたのだ。誘拐されるのを恐れていたからだろう。直接口にしない強がりな子であっても、恐怖を感じて当たり前である。


「ここに、“ガルディエルの怨霊”現れたんだって。さっき大人のヒトが言ってたんだ……」

「え、うそ……」

「お、おれも聞いた……」「ま、まじかよ」


 動揺が奔るのと同時に、颯汰の目から光が消える。

 純真無垢なアスタルテが、優しさから正体を明かそうとするのをリズが止め、目撃者のイリーナが何かを語り恐怖を煽ってしまうのを防ぐべく、ヒルデブルクは遮るために慌てて声を張った。


「ま、まぁ、そんな怨霊なんて。自慢の弟であるヒルベルトがいれば問題ありませんわ!」


 偽姉のファインプレー。

 実際に見たと話せば、怨霊などという曖昧な存在が彼らの中で“いる”と確定してしまう。

 自分より年下がいると途端に頼もしいポジションになる王女のおかげで、なんとかなった。

 徒に不安を煽る意味はない。

 子どもたちから歓声が上がる。

 颯汰の目線が斜めに泳いだ。


「お、おぉ!」「そうか。そうだよね!」

「やっぱヒルベルトくんパネェっすわ」

「あのクマ相手にしてたもんな」「……素敵」

「――……」「――……」「――……」


「いやなんかさっきからチャラい奴いない?」


 浴びる称賛のむず痒さに悪態をつく颯汰。

 村の子どもが、不安げな顔で颯汰に問う。


「ヒルベルトくんならガルディエルの怨霊なんてイチコロでしょ?」


 暫し、颯汰は返答に困ったが、不安を拭い去る方が先決だと結論付けた。


「……イチコロかはわからないケド、大丈夫。みんなが出来る対策としては、まずは基本的に必ず三人以上で行動、それか大人の近くにいること。あと男子は特に気を付けろ。本当、マジで」


「な、なんだか具体的~」


 当事者だからな。と心の中で呟く。

 外で起きている神隠しがすべて皇女姉妹の仕業と断定はできないが、この地においては彼女たちの犯行が何件もあるのは間違いない。

 秘密の部屋に家宅捜索が入った今、彼女たちは何もできないはずだが、本当に恐い思いをした颯汰は注意喚起をせずにはいられなかったようだ。

 さらに活気づく集団。傍から見れば怪しいカルト教の集会っぽく見えるかもしれない。

 近付く子どもの群衆に、ペタペタと軽く触ってきたり小突かれてしまい、立花颯汰はどう対応すべきか困惑していた。

 その姿を見てリズとアスタルテはニッコリと微笑み、ヒルデブルクは満足そうに肯いていた。被ったフードの中、頭部に隠れていたシロすけはひっそりと背中に移動し、颯汰は助けを求める相手がいないことを知る。


「あー! もう! あまり! べたべたと! 触らないっ!!」


 イリーナは群がる子どもたちの間を割って入る。白い肌だから余計に赤く、ワーの民の頭頂部にある耳までほんのり染まる皇女。あの頃であれば誰もが彼女の言葉を本気にして平伏しているはずだったが、今や何をムキになっているのかがわかりきっているせいで、皆が温かい目で対応していた。そんな若干の不敬さに苛つきながらも、見透かされていると察した皇女はワナワナと口を振るわせつつも言葉を探し、「もーっ!」と癇癪染みた声しか出せずにいた。

 そんな微笑ましいやり取りをしている間、ヒルデブルクはアラムたち、保護者と会話をしていた。


「建国祭だから、村の子ども全員がこちらに?」


「残念ながら、何人かは村に残っております。仕事の手伝いや、例の誘拐事件を恐れている者もいるので……。少人数で人目の少ない状態の方が危ないと思うんだけどなぁ……。あぁ、それと……実は名目では来年、ガラッシアの学校に転入予定のマルクの、通う学校の視察と、お世話になる親戚の方への挨拶がてらだったんですがね。彼と僕ら大人だけで来るはずが、君たちが村から出たすぐ後、ちょうど行商のキャラバンのミラドゥ馬車が、帝都へ行く前にテュシアーに寄ってくれて。しかも無料でみんなを乗せてくれたんです」


 ただのマナ教の娘であると信じて疑っていないが、思わず敬語で話すアラム青年。高貴な佇まいや発言から、十近く年下の少女に対し畏敬の念を無意識に抱いていたのだろう。


「へぇ~。気前も良い、優しい方なんですね」


 田舎の子どもも貴重な働き手であるから、本来は建国祭に参加ができないはずだった彼ら。それでも親心から二十年に一度の祭りへの参加を許可したのだろう。行商が今後の取引のために恩を売った、などという発想に至らない王女はただ単純に優しい人がいるものだと感心していた。


「あ、もう、この大所帯で道のど真ん中は迷惑だから、とりあえず……どこかに移動しよう」


 出店の準備があちこちで行われている街頭で大人数でいるのは迷惑だ。颯汰の提案に、誰も異論はなかった。

 少し歩いて、邪魔にならないところを探す。

 黙って移動などこの人数の子どもたちに出来るはずもなく、ゆったりとした足取りで移動する。

 他愛のない会話ではあるが、日常すべてに有意義さを求めるのもナンセンスと言えるだろう。

 目抜き通りから外れていく。建造物が並ぶ路地でも少し賑わっていて、さらに歩いていった。

 

「あの公園なら大丈夫そうね」


 金属の路地を進んでいき、辿り着いた場所。

 敷地は芝生で面積は結構広い。

 巨鳥の形をした遊具が堂々と真ん中に鎮座し、羽を広げていた。どうやら中に入れて、背中から尾が滑り台となっている。両翼には取っ手が幾つも打ち付けてあって、登って遊べるようだ。


「おぉ、なかなかのイケメン」


 キリっとした顔つきのロック鳥と呼ばれる怪鳥だろう。なかなかデザインセンスがよくて颯汰は無心で褒め称えた。


「ふふん。……でしょう?」


 自慢げに胸を張る皇女に、てきとーに相槌を打ち、公園を見渡す。正面から見る限り木製の怪鳥は、たしかに見事な出来栄えではあった。他には石材の枠に囲われた砂場、半円形のドーム状に金属製の棒で覆われたジャングルジムっぽい遊具。小高い丘にトイレに給水所とそこそこ充実していた。

 公園には先客もいた。

 灰色などのジャケットを羽織り、帽子にグラスを付けた“いかにもスチームパンクの世界”な少年たちが遊んでいた。村の子たちより違和感なく着こなせている感じがする。

 服装だけでは若干判断しづらいが、貴族ではないだろう。貴族であれば従者がどこかで待機しているはずだが大人の姿はなかった。

 六人ほどの少年少女たちが現れた集団に驚いてはいたが、接触せずにこちらの様子を窺っている感じであった。


「――……移動したわけだけど?」


 皇女は言う。

 彼女は答えがわかりきっている様子だ。


「せっかくなんで、彼らも案内してくれませんか」


 颯汰の言葉に皇女はため息を吐いた。


「せっかくヒルダお姉さまとあなたたちと一緒だったのに……。というかあなたも質問攻めにぺたぺた攻めで嫌そうな顔してたじゃない!」


「…………面倒だけど、出会って『ハイ、サヨナラ』ってのも気分悪いでしょう?」


「それは、……えぇ。たしかにそう、かも。あの例の怨霊がまた出てくるかもしれないし。独りでいるよりみんなでいた方がいいかもだし」


「…………、……。それに一部の子は除き、大抵は家業を引継ぎ、生涯を村で過ごす子たちがほとんどなんです」


 真剣なトーンで話す颯汰。その声と態度に皇女の顔は引き締まるどころかドキっとしていた。


「そんな彼らに、皇女サマに案内されて帝都を巡ったという貴重な思い出を、どうか与えてくれませんか?」


 将来、女を騙す悪い詐欺師にでもなってしまうのではという心配と、真顔で欺き真意を隠していることへの若干の軽蔑を込めた視線をヒルデブルクとリズから受けていた颯汰。他人の視線に敏感であるからこそ、そういうのを見て見ぬふりをして誤魔化すのは慣れている。


 実際、言ってることはもっともらしいしそこに嘘は無かったが、『団体行動をとれば嫌でも余計に時間が取られる』ということに気づいた颯汰は彼らと共に行動するよう提案した。

 明日のこともあり、皇女も夕方には撤収せねばならない。どうせ時間まで粘るだろうから、できるだけ移動で長引かせて時間を稼ぎ、見回るスポットを最小限にした方が疲れないだろうと考えた。心労については――多人数と行動を共にするのは得意ではないが、裏表がない純粋な子どもや、そもそも学校生活などで長い時間一緒に過ごすこととなるわけでもない人間へ、慎重に気を使う必要もない。つまりはずっと皇女にベッタリされたりあちこち観光名所を忙しなく歩き回るよりは疲れないだろうと判断した。


「……いいわ。乗ってあげる。あなたの提案に」


 その真意を見抜かれたのかと颯汰は一瞬焦る。


「私が子豚ちゃんたちに素敵な思い出を下賜してやればいいんでしょう? このガラッシアならそんなの余裕よ」


 挑戦と受け取った風に、皇女は腕を組んで答える。安堵の息を漏らす颯汰。さらに、掛かったなと内心ほくそ笑む。


「じゃあ、さっそく案内をしてあげる。光栄に思いなさ――」


「もうみんな、公園の遊具に夢中ですよ」


「えっ?」


 すでに、大半の村の子どもたちは怪鳥のオブジェ型の遊具へと向かっていた。無論ヒルデブルクとアスタルテもだ。


「村には広場だけで遊具なんてなかったから、珍しいのでしょう」


「な、なるほど」


 呆気にとられた皇女は颯汰の言葉に納得する。

 これもたしかに街の誇れるデザイナーの一品だと聞き及んでいるし、自慢げであった皇女も実は存在は知っていても初めて見るものであった。

 とはいえ、自分の案内よりもそれを優先することなど彼女は許容できない。

 感情任せに動くと読んでいたからこそ、颯汰は次の一手を打つ。


「俺もあの鳥が気になるんで遊びます」


 言い切る前に脱兎のごとく遊具へ向かう。


「え? ちょ、待ちなさ――」


 イリーナがヒステリックにキレ散らかす可能性もあったが、憧れのヒルデブルクさえ好奇心で遊具に向かった今、怒りを向けられない可能性の方が高いと颯汰は賭けた。


「――あぁ、もうっ!」


 皇女が声を荒げ、追いかけてきた。

 颯汰は既に怪鳥の足の部分から中に入り、螺旋階段を昇ってうなじ部分から地面に着いた尾まで伸びた滑り台に辿り着く途中で、聞こえてくる。


「私も遊ぶっ!!」


 こうして、颯汰の想定していた以上に、かなりの時間を費やすことに成功するのであった。

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