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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
異世界転移
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18 終結

 羅刹と化した鬼人族(オーグ)の男は、今までで一番早い太刀筋でボルヴェルグに斬りかかった。互いに片手で剣を握り、ぶつかり合っては火花が散る。

 憲兵たちが目を見張る速度、苛烈さが増し、もはやこの場にいる誰も止められないと思えた。

 ただ勝負は、一瞬で着く(、、、、、)


今まで()んまりを決め込んでいた男が口を開く。


「貴様の覚悟、確かに見届けた」


「――――!?」


文字通り、命を()した戦いに挑む者へ、怒りも悲しみもない声音で語り掛ける。

 その言葉を理解しているのか、いないのか分からない鬼は鳴き声で答える。他者からはまさに猛獣を相手に問答をしているように映っただろう。だが、猛獣はもう一匹いたのだ。


「だから、『同じ血を分けた者(、、、、、、、、)』として、全力で戦おう……!」


 ボルヴェルグは、本来ユッグを名乗り『ヴェルミ』を含む各地を回っていた。そしてここで正体がバレることは国際的な問題となるだろう。単純に言えば 彼の祖国(アンバード)と揉めるのは間違いない。ヴェルミの国王からの命令であろうともだ。

 あくまでも彼は隠密に事を進めるようにと釘を刺されている。

 だが、この男はその禁を破る。

 理由としては、もうすぐ去る街であるし、兵なら多少は口が堅いだろうという楽観視。耳長族(エルフ)人族(ウィリア)の国であるが、魔人族(メイジス)にも義を持っている者がいると理解してもらいたかったという気持ち。外道に落ちたが目の前にいるかつて気高い戦士であった(と思われる)モノとの戦いに、全力で(いど)むのが礼儀だと思ったからだ。


限定(リミット)解除、『神鬼解放(オーバーブースト)』――!!』


角を持たない男が、そう口に出すと決着まで秒読みとなった。


 外見に二ヶ所以外、大きな変化はない。だが、身体の中を巡る魔力が瞬間的に増大した。

 瞳は紅く輝き、眉間の上、包帯の下で薄い赤色で(ほの)かに光り出していた。

 信じられない光景に、敵側にいる魔人族(メイジス)と眼前の鬼人族(オーグ)驚嘆(きょうたん)した。

 『鬼』はあり得ないと叫んでいるように見える。

 “角を持たない者が、――鬼人族(我が一族)以外がそれを発動できるはずがない”と。



 本来、魔人族(メイジス)は本物の神秘――魔法を司る種族であった。

 体外魔力(マナ)の減少でその神秘は失われつつあった中、魔人族(メイジス)は秘術を完成させた。いずれ完全に体外魔力(マナ)が枯渇すると読んでいた彼らの祖先は、己に満ちる体内魔力(オド)だけで『魔法』を再現する手法を生み出し、(しゅ)に刻み伝えたのだ。

 ただ、その『疑似魔法』は難点があった。個々人で異なる魔法が使えるが、それを他者に伝授しても使えない、要するに固有能力となってしまったのだ。さらに欠点として、体内魔力だけで行うため規模は小さく連続や長時間の使用は身体に掛かる負担も大きい。

 固有の能力であるため、彼らは同族であろうとも能力を明かす事を避けるようになる。()れれば弱点と成り得るからだ。そして次第に、疑似魔法の存在は隠匿(いんとく)されるものとなった。

 魔法に近い神秘を有しているのだから、他種族がそれを求めないわけがない。インフラ整備に利用されるならまだしも、戦争に使われ種族が途絶えるのを避けようと、鳴りを(ひそ)めている者たちもいた。

 他種族でもその事実を知るものは小数だ。魔人族(メイジス)を、魔法が失われてアイデンティティーが消え去ったと笑う者もいたが、彼らは耐え忍ぶ、ここぞとばかりに切ってこその切り札なのだと。



 鬼人族(オーグ)である男は疑似魔法の存在も知らず、更に言えば自身と全く同じ力の奔流(ほんりゅう)を目の前から感じ取って狼狽(うろた)える。

 ボルヴェルグは『身体強化(フィジカル・ブースト)』と“不完全な”『神鬼解放(シンキカイホウ)』を合わせて『オーバーブースト』と呼んでいた。鬼人族(オーグ)魔人族(メイジス)混血(、、)である彼だからこそ可能な、単独による疑似的な結合魔法(レゾナンス・マジック)だ。


「――行くぞッ!!」


ボルヴェルグは(はし)る。石畳の上に剣を滑らせ、火花は散り甲高い音を(かな)でる。放たれた斬撃は、地面から大きく斜め上方向に振り上げられたものであった。

 一瞬で詰めてきた敵の剣に鬼は自身の持つ剣をぶつける。衝撃の反動で互いの武器が離れた。再び振るおうとしたが、ボルヴェルグの一閃の方が(わず)かに速かった。

 腹部を横一文字に切り裂かれ、さらに素早く弧を描く剣閃。それにより鬼人族の角が、斬り落とされた。それが、決定打となった。


「ガ、フ……」


海賊船長は吐血し、膝を突く。斬り落とされた片角から魔力が排気ガスのように噴き出して消散する。ボルヴェルグは剣を鞘に納めたのと同時に大きく息を吐いて能力を止めた。瞳と額の輝きが失われる。

 死に(ひん)した海賊船長は、倒れたが最期の力を振り絞って仰向けとなる。その顔はどこか満足そうであったが、すぐ吹けば消えてしまいそうにも見えた。決着は想像以上に呆気なく着く。

 そこへボルヴェルグが歩み寄ってきた。


「……俺の負けだ」


「あぁ」


「少し、自棄(やけ)になれば太刀打ちできると思ったんだが……。そう甘くはねぇさな」


血を吐いてなお、男は笑った。それを見てボルヴェルグはただ、静かに見つめているだけであった。同情なんてあるはずもない。だが、死に行く者を嘲笑(あざわら)うことも、責めることもしない。

 もう既に目が見えなくなってきたのか虚ろな目で空を眺めながら、彼は言った。


「あのクソガキに、伝え……け、船に何人か、奴隷がいる、とな……」


「何!!」


ボルヴェルグは視線を乗っ取られた交易船へと向ける。何人かの海賊が乗ったまま、船長の敗北に茫然(ぼうぜん)としていた。

 彼がクソガキ(ニコラス)と名指しした理由はおそらく中に街で捕らえられた者だけではなく、船を襲った際に捕らえた者もいると伝えようとしたのだ。――その中に“彼女”がいると。


 ――残った俺の部下は……、あぁダメだ。声が出ねえ。もう迎えかよ畜生……。


血が口腔(こうくう)に溜まってきたが吐き出す力もない。呼吸をする前に、目に映る光が点滅してから、意識が途絶えた。暴虐非道、悪辣の限りを尽くした一人の海賊はここで永久の眠りについた。

 統率が取れず、混乱した下っ端たちに槍や剣が突き刺さる。一気に士気(しき)が低下した烏合の衆は次々と倒されていく。戦況は完全に憲兵側が有利となった。

 ボルヴェルグは、そっと海賊船長から三角帽子を奪いとる。彼の目は開けたままだ。目を(つぶ)らせるほどの同情は持ち合わせていない。

 だが、今を生きている者たちから、これ以上の血を流す事は不要だと感じた男は、奪い取った帽子を掲げて叫ぶ。


「貴様らをまとめあげていた(かしら)()った! これ以上無意味な抵抗はするな! もしするならば、この剣が、貴様らの相手となろう!!」


一瞬の静寂――。残された海賊たちの一部が、憲兵の前で武器を零すように落とした。失意の中、膝を地に着け両手を上げて降伏をした。憲兵たちも問答無用に振るっていた矛を収めるしかなかった。それを破れば、叫んだ鬼神がどう動くか分からなかったのもある。


「クッ……舐めるんじゃねえ! やってや……らぁ……」


海賊の中に抵抗を試みようとした者もいたが、目の前で黒馬が鼻息を鳴らし、やれるものならやってみろと言わんばかりに立ち(ふさ)がって威圧される。黒色の瞳に(にら)まれたその海賊も、その場でへたり込んでは武器を置いて降伏した。

 事態が収拾し、憲兵たちは海賊を次々と縛り上げていく。多くの遺体が転がる凄惨(せいさん)たる現場の処理も彼らの務めだ。――大変だな、と馬上で颯汰(そうた)は他人事を心内で呟いた。

 同じ場所であるから共通した所の方が多いのだが、血や臓物(ぞうもつ)、脳しょうが飛び散り、物は無惨に壊れ、大勢いた人々は消えた。それだけで訪れた頃の様子と何もかもが異なって映った。

 負傷者を運び出す兵士たち、その中には敵味方、市民も関係なかった。さすがに海賊たちは拘束されていた者が殆どであったが、それを見てボルヴェルグは安心したかのように息を漏らした。

 そうして(しばら)くすると、海賊が飛び出してきた船の中へ憲兵たちが侵入を開始する。

 中から人々が救出され十数名もの人々が保護され始めた。街で捕らえられた女子供の他に、街へ商売をしにきた商人、船長の娘――フィリーネの姿があった。


「フィル……」


黒馬の上、自分が酷い事をした少年の腰に掴まっていたニコラスが遠くにいた彼女を見つめて言う。


「ニール、降りるってさ」


少年は黒馬に話し掛けると、ニールは船着き場の前にある段差へ近づく。少し足りないが降りることは可能であったためそこでニコラスを降ろした。


「……お前、あの……」


「別にいいって。大した期待なんてしてないし」


黒馬の上で、立花颯汰はぶっきら棒に返した。紛れもない本心でありお礼の言葉なんて求めていなかった。


「ただ、馬鹿な事をしてたら今度こそぶん殴ってたけど、大事なモノのためだったんだろ?」


過程はどうあれボルヴェルグを助けるためにやったことなのだから謝られる謂れはなく、それにコレを機にニコラスが改心するなどという期待もしていない。

 もし誰かに助けに行った理由を聞かれたら、「助けられたのに何もしないで、見殺しになったら夢見が悪いから」と答えるだろう。

 ウィルマと別れた後、すぐに厩舎(きゅうしゃ)に向かった颯汰はニールに(またが)り、港へと誘導し進んで行った。大きな馬が逆走するから多くの者が自然と避けていくと分かっていた。途中でグレアムとウィルマに何か言われた気がしたが、急いでいたので直進する。

 そして銃声が響いた。この世界に銃があるのかと思ったのと同時に敵か味方のどちらだろうかと考える。味方であってほしいと祈りつつ、すぐにニコラスを捕まえてこの場から離脱をすればいいと甘く考えていた。

 だがやはり、現場に乗り込むと、肩を撃ち抜かれたボルヴェルグに震えるニコラスの姿が映る。それを見て突撃する事に決めたのだ。あのタイプの銃で連射も利かないはず、更に他の下っ端がそれを持っている様子もないとすぐさま判断して走らせた。ニールはすぐに考えを悟り、人馬一体となって戦場を荒らしまわったのだ。


「あ、いや……あ、その……!」


尚も言葉に詰まった少年に、颯汰は愛想なく言った。


「どういう関係かは知らないけど、行けば?」


遠くで兵に保護され、手を引かれる少女を指さして言う。自身に興味や関心を向けるのを拒んでいるかのようにも見えたが、彼なりの配慮だ。

 他人にかまけている暇があるなら、大事な人に会った方が何倍も意味があるだろう。駆けていく少年の背中を視線で追い、颯汰は無意識のうちに少しだけ口角が上がった。

 どうにも能力と包帯を使い傷口を無理矢理塞いだボルヴェルグは歩み寄ってきた。


「ソウタ、今の内だ。街から出よう」


「あ、え、はい」


 ――…………あれ? お(しか)りなし? やった!


そう顔には出さずに喜んだが、どうやらそれを読んでいたようだ。


「説教は落ち着いた頃にする」


「えぇ……、いや、なんでもないっす。はい」


確かに颯汰のお陰で事態は解決に向かったが、だからと言って危険な真似をしたのに違いない。注意するのが大人の務めであるのだ。ボルヴェルグは保護者としてその責務を果たそうと決めた。

 だが、それは街を出てからである。騒ぎに乗じて街から出れば民への説明は有耶無耶(うやむや)に出来(というかそう押し通す)、何故ここに彼が来たのか等は戻ってきた子爵にはきちんと説明をベイルがする手筈となっている。最早、ここにいる理由はない。

 颯汰は馬上の後方へ移動し、前にボルヴェルグが乗り込んだ。何人かの憲兵は気付かぬふりをして職務に集中し、何人かは心の中で敬礼をする。

 そうして黒馬と旅人はカルマンから脱出を始めた。主を乗せた馬は(いなな)きを発し、石畳を蹴る。既にガラガラになった街を吹き抜ける風のように進んで行った。

 進んで行く途中、多くの者が既に避難が終えていたのだろう。疎らには人がいたが、彼らは気にせず直進していく。そんな中、


「お~い! お客さん! それに坊ちゃん! これっ!」


声が掛かり、視線を向けると革袋を持った宿屋の主人が立っていた。どうやら荷物をすべて纏めてくれたようだ。主人は走り抜け横切ろうとする馬へ、ひょいと渡すように革袋を投げた。それをボルヴェルグが掴み取る。


「もし機会があれば、ウチをご贔屓(ひいき)くだせぇ!」


颯汰が馬上で振り向いて手を振ると、前方から何かが三枚、宙を舞った。

 ボルヴェルグが袋から銀貨をチップ代わりにお礼として投げたのだ。

 それをみて主人は慌てて拾い始める。物価がイマイチわからない颯汰であったが、宿泊時に払った銅貨数十枚より価値はあるのではないかと()んでいる。この男、見かけによらずかなり金持ちである。

 銀貨を拾い上げたエルフの主人はめいっぱい大きな声で礼を言う。遠くから、たった一人だけであるが礼の言葉が響いた。

 続いて市街地の門から少し離れた位置に、グレアムとウィルマが立っていた。彼らは迷わず、敬礼をする。その姿を見てボルヴェルグは少し笑う。民に見られたら後で苦労するだろう。怪我をしていない右手を挙げて、街の外へ流れていく。

 すぐそこに、街の外へ通ずる門が見えた。外壁もある立派な造りの門に彼らを知る憲兵であるから制止させず、黙って見送った。

 馬蹄から高らかな音が止まり、土を踏む音へと変わった。潮風に包まれた街から彼らは出発する。


「目指すのは、王都ベルン。エルフたちの王が治める大樹の都だ」


次話は18.5話となります。短いと思います。



2018/01/15 追記

一部誤字を修正しました。

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