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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
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06.5 ある男の願い


――荒野に火柱が立ち昇った同日。

 父さん、母さん。

 俺は今、空を飛んでいます。

 嘘だと思うでしょう?

 俺も嘘であって欲しいです。

 気を抜けばすぐにそちらに行きそうです。

 

 大樹の上層にて血だらけで気を失った偽物の魔王を、妹ルチアが介抱したせいで本物の『魔王』に目を付けられ――どうにかルチアを取り戻そうとアンバードまで行ったのは良いのですが、まさかこんな死にそうな目に合うなんて思いもしませんでした。せっかく役目も終わり帰れると思いきや、次は新王陛下の御勅命により『魔王』の監視も行う事となりました。

 本物の『魔王』は無茶苦茶です。

 規格外とか常識外れとか、そんなのです。

 先日は、王都に到着してはいきなり教会を奪おうと、地主の貴族を強請ゆすっていました。

 アンバードの王都バーレイは、前王にして暗愚なる魔王の暴走により、城も街も甚大な被害を受けてそれはもう酷いあり様です。さらに俺たちが到着した頃、裏で暗躍する謎の者たちの手により、黒泥と呼ばれた兵器が勝手に暴れ出し、それを偽物の魔王が全部倒した直後だったそうです。直りかけた建物や人々の心の傷が抉られてしまい、まだ魔族たちは不安に思って過ごしているのが現状です。それなのに、この魔王は教会を乗っ取るという暴挙に出たのです。

 最初は、俺も思わず悪魔だと非難しました。

 前王の迅雷の魔王が現れてから宗教という宗教は弾圧されていたそうで、だからここには女神教や星界大神教のものも寄り付かなくなって久しく、魔王はマナ教の教えを説こうと思い立ったそうです。きっと裏があるのでしょう。地主である魔人族メイジスの貴族(名前は忘れました。)に廃れたドマイナー教だと暴言吐かれても怒る素振りも見せません。最初はその男は「あ、死んだな」と思いましたが意外にも表立って暴力は振るいませんでした。

 貴族は自称・敬虔な女神教徒であり、ゆえに反発をしていたそうですが……悪辣なる魔王にはその裏の顔さえ既に捉えていたのでしょう。

 魔王が取り出したのは一枚の羊皮紙。

 それを見た貴族の男は青ざめて震えてました。

 書き連ねられていたのは彼の罪状の数々。

 租税の着服、軍需物資の横流し、売春の斡旋、孤児を奴隷として他国へ……等。

 控え目に言ってクソ外道です。

 どうやってその情報を集めたのか気になりますが、魔王は不敵に笑うだけで答えませんでした。

 そして貴族から教会を奪い取る事に成功しました。弱みに付け込む姿はまさに悪魔のそれです。その事を誰にも話さない事を条件として悪魔と契約を交わしましたが、たぶんバラすでしょう。俺もあんな酷い人間が罰せられずに終わるのは認めたくないです。

 だが、今はその時ではないと言ったきり、魔王は彼から奪い取った教会の修繕を始め、ルチアも何故か手伝い、俺も仕方なく協力しました。

 気を良くしたのか魔王は「望みを言え」と言いました。ルチアは一切の間も迷いもなく言いました。「一度家に帰りたい」と。

 その案には賛成でした。

 あのルチアが遂に折れ、本国へ戻れるんだと。

 陛下には大変申し訳ないが、俺たちにはあまりに重荷すぎる難題でした。

 だから帰ると決まって歓喜しました。

 ただ――移動手段がこれだとは思いもしなかったのです。街が、山が、広がる高原までが、小さく見える。感動なんてできるか。

 感じる冷たさに恐怖を覚え、芯まで凍えて――俺は一度、気を失いました。

 だけど、これで家に帰れる。

 またどこかの街で憲兵として働く事になるが、出来るだけベルンの近くで、ルチアから離れないで仕事が就けれるように進言しなければ、と気絶して見た夢の中でも誓っていました。


 で、この有り様です。


 現在は、どこかの空。地面を見るのも目を瞑るのも怖くて、凄まじい風を感じながら空の青と雲の白を見ています。

 最初、何が起きたか理解できませんでした。

 寝起きで回らぬ頭で、ルチアの言った言葉が理解できなかった。いや平常時でも理解を拒んでいたはずです。


『もう、お兄ちゃん寝すぎだよ! とっくに買い物が終わって帰りなんだから!』


 意味がわからなかった。

 何? 帰り?

 ……ほんのちょっとの間、眠ってただけでは?

 言葉を失っていたらルチアは風の音に負けない声で叫んで、残酷な真実を教えてくしてました。


『お兄ちゃんがずっと寝てる間に、本家の伯父様方に挨拶も済ませたけど笑われてたんだから! そんなんでよく憲兵なんてなれたわね! まったく……せっかく魔王様がベルンまで運んでくださって、新鮮な食材が買えたっていうのに!』


 俺は、そのままヴェルミに戻って帰れるんだと思っていました。ルチアもアンバードの生活と雑な食事に辟易していたから。

 だけど、どうやら、単に、……買い物。

 アンバードにはない食材を買ったそうで。

 俺は、再び意識を失いかけています。

 たぶん泡を噴いてます。

 父さん、俺はまだそちらにお邪魔になる訳にはいきません。

 母さん、ルチアは母さんに似て胆が座り過ぎているきらいがありますが、立派に育っています。

 でも、俺は妹を守りたいのでまだ死ぬわけにはいきません。何があっても守り抜きたいのです。

 どうか天国で無事を祈っていてください。

 俺はもうすぐ意識を失います。




 ……目が覚めたらぜんぶ夢だったらいいなぁ。


(タイトル付け忘れて一度投稿してしまいました)

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