表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
外伝
108/435

【外伝】聖夜の事件 後編

 世間はクリスマスという中、それを憎悪する五人の集団が(カップルに対して)見境なく襲うという奇天烈きてれつな珍事件が起きていた。


「ファッキ●ー!!」


「クソッ! リア充だ! 〇せ!」


なりふり構わずカップルを襲撃し始める男たち。

 大体が奴らから離れることを選ぶが、人の性格は十人十色――この特別な日でまた大切な人がいるからこそたかぶる感情を抑えきれずにいた者たちだって現れる。


「何だコイツら? ただ誰とも付き合えずにひがんでるだけじゃねーか!」


「ほんとキモ~い! こんな事してるやつが一生女子と付き合えるわけないしー!」


 人は、痛いところを――背けたい真実を突きつけられると大抵は激昂する。

 だが特定の者は、ある一点を過ぎれば、逆に冷めたように冷静さを手に入れる。

 しかし、その怒りが消えるわけではない。

 頭にカーっと上った煮えたぎる血が全身に行き渡り、冷めた脳で熱い身体が動き出すのだ。

 それは特に恐ろしい。

 冷めきっているからこそ、機械的に暴力を行使できるのだから――。


 それに気づかず、動きを止めた覆面軍団を見ていい気になった男女は指さして笑い始める。


「――ハハハハハ! さびしー青春だなオイ!」


「ほんと人生を無駄にしてるわ~! アハハ……」


上機嫌になった二人だが、直後、その顔から笑みと声が途絶える。

 集団の一人が何か背負ったものを下ろし、準備に取り掛かった。即座に響く不穏な轟音。電気で起動し持ち手が震える――すぐに準備は整った。

 長いノズルにトリガーの付いたそれを向けると、彼氏彼女とも顔が引きつった。信じられないと心が叫ぶ前に、それは発射されたのであった。


「――ヒャッハー!! 汚物(リア充)は消毒だ~~!!」


勢いよくノズルから噴出される液体。集団を先導する男が高圧洗浄機のトリガーを引いて恋人たちに浴びせ始めたのだ。鈍い音と共に発射される高圧の液体は凄まじい勢いであり、それを受けた若い女から、


「きゃああああっ!?」


悲鳴を上げて凍った道で転び。


「ミヤコ!? ッこの野郎~~!!」


男は激情し駆け寄ろうとするも――、


「足元がお留守だぜぇ? ヒャー!」


向かってくる男の踏みつける凍った道に液体をかけるものだから、よく滑り男はツルンと足を上げて背中から転んでしまう。さらに倒れた身体に容赦ようしゃなく液体を浴びせられ、全身がびしょれの悲惨な状態となってしまった。

 彼氏が止めろと言おうとするが、液体が口に入り、酷い苦み――明らかに身体が口にしてはいけない反応を起こし、狼狽うろたえながら起き上がり、彼女を起こしてその場を去っていった。

 それを見て集団はさらに大声で笑い始めたのだ。


「アーッハハハハハ!! あの逃げ方! サイコーだな!」


「高圧洗浄機を改造し、出力抑え目。消毒液に念のため不凍液を混ぜた甲斐かいがあったもんだぜ~」


 ――その努力をもっと別の使い道はなかったのか


「そもそもクリスマスもイヴもよぉ! 浮かれて彼女連れて歩くんじゃねえよ! 家族を大事にしとけ! お、そこの一人のお兄さん! 使い捨てカイロいるぅ?」


「大して旨くもない料理を、この日だけ無駄に割高で売る。クリスマス商戦はやはり害悪だ! それに加担するものなどろくでもないさ! あ、足元よく滑るんでお一人様、お気を付けくださいねー」


 ――ろくでもないのはお前たちもだぞ


「だいたい、この日のために必死になって付き合い始める事に何の意味があるってんだよ! 偽りの恋人同士など実に空虚くうきょな人生じゃあありゃあせんか?」


 ――空虚カラッポなのはお前たちの頭ん中だよ!


かなり離れたところでもバカ騒ぎをしているのがはっきりと聞こえ、颯汰が脳内でツッコミ続けていた。お前たちこそがこの時代の“敗北者”であると叫んでやりたいが目のかたきにされると厄介やっかいであるため、ぐっとこらえる。


 ――……しかし、ついにやりやがった、か


颯汰はついに直接攻撃をし始めた暴徒たちへ嫌悪の感情を向けてしまう。気持ちはわからないでもないが、暴力はいけない。それにいくら出力を抑えているとはいえ高圧洗浄機を人に向けて良いものではなく、さらに液体も水ではなく、目や口に入ると危険なモノでもある。

 だが、今の自分にできることは何も無いと颯汰は知っている。


 ――離れてから通報しとこうか


そう決意してスマートフォンに意識を向けるが、両手が未だ塞がっていることに気づいた。店に着いた時にでも警察に通報しようと心に決めたところで、


「お兄ちゃん。はやく」


カエデが颯汰をかす。しかし凍った地面で急ぐといってもちょっとした早歩きが限界だ。


「うん、さっさと用事済ませよう」


「ミユねぇも迎えに行こ」


ユズが悪戯っぽく笑うと颯汰は少し間を開けてから答えた。


「………………そうだな。待たせるとあの生徒会長殿(、、、、、)に悪いし」


「まーたそんな他人行事でー!」


「美雪お姉ちゃんに、言うよ?」


「ぐっ……。いつの間に仲良くなったんだお前ら」


ばつが悪そうに颯汰は呟く。

 彼らの予定は予約したケーキの購入の後、朱堂すどう美雪みゆきと合流して立花家にてクリスマスパーティーを行う、となっていた。

 颯汰はそもそもクリスマスの行事に乗り気ではなかったが、いつの間にかそうなってしまっていた。


「楽しみ、ね? お兄ちゃん」


「……俺だけ部屋でゲームして――」


「――ダメに決まってんじゃん! せっかく女子が来るんだからキチンとおもてなしする! あたし達、ミユ姉だけは認めてるんだから!」


「あと勝手にどっかに行ったらご飯抜き、ね?」


颯汰が知らぬところで、美雪が妹達と本当に仲良くなっていると理解した。認めるの意味を深く考えようとせず颯汰は流し、カエデに行動を先読みで釘を刺されてしまい、もう成すすべがないと気づいた。


「……はぁ、わかったよ。…………ん?」


「………………」


広い路地を曲がり少し歩いたところ、颯汰が気配を感じて振り返ると、先ほどの逢沢三号が突っ立って颯汰達を眺めていた。カエデが驚き、呟く。


「いやな予感……」


二人がそれに同意して頷いた次の瞬間、


「ファッ●ュー! ●ァッキュー!! クリスマスパーティー、フ●ッキュー!!」


中指立てながら警報装置が発狂し始める。


「ッ!! まずい、逃げるぞッ!」


「えぇ!?」


驚くユズを無視し、颯汰は手を引いて双子を連れて走り出す。凍っていない場所に足を置き、なるべく急いで逃げる。

 背後に他の仲間たちが狂ったように声を上げ、合流して追走を始めた。


「クソ! やはり異端者いたんしゃどもだったか! 野郎ども! あのハーレムカポーに制裁せいさいを!」


「「「ヒャッハー!」」」


積もる雪。夜闇の下の冬景色に揺れる赤いモヒカン。変態仮装集団が立花颯汰と妹達をわれなき罪で強襲を始める。射程内に入れば即座に消毒液の餌食えじきとなるだろう。いくらまだ雪が降っていないとはいえ積雪のあるほど寒さは充分にある。まともに食らっては風邪を引いてしまうやもしれない。

 徐々に男たちが距離を詰めてくる。妹たちはまだ女子中学生。大の男の方が体力と運動能力に分があった。


 ――畜生、やるしか、ないのか!


颯汰が考えた妥協策は簡単シンプルなものであった。

 普段の颯汰で、もし妹達以外の人を連れていたならば決してしないであろう手段。


「柚、楓! 先に二人で帰ってろ!」


「!? お兄ちゃん!」

「兄ちゃん!?」


颯汰が彼女たちの手を振りほどき、振り返る。


「ここは俺が抑えてるから、先に帰れ!」


もしクラスの誰かであれば、例え連れているのが女子であろうと、この男はそんな無謀な事をしない。おそらく見捨てはしないだろうがギリギリまで一緒に逃げていただろう。だが家族であれば、例え血が繋がっていなくても守るために立ち向かえるのだ――。


「兄ちゃんそれ映画とかで死ぬやつ!」


「縁起でもない事言わんでさっさと帰りなさい!」


ユズの言葉に颯汰は叫んで返す。


「兄ちゃん!!」

「ユーちゃん、行こ!」


双子の気弱な姉が、今にも泣きそうになりながら兄の覚悟をしっかり受け止め、手を引いて走り出す。

 ちらっとそれを横目で颯汰は見つめ、改めて前からくる世紀末の住人達に視線を移す。

 恐れはある。歯を食いしばり震えを抑え込む。たがが外れて本当の暴力に訴える可能性があるのだ。相手は正常ではない。それに腕っぷしに自信もない。

 だがここで立ち塞がらなければいけないと颯汰の魂が叫んだのだ。

 ならばもう、答えは出ている。

 結果は見えていても引いちゃいけないと――。


「かっこつけてんじゃ、ねえぜ。死ねぇ! ヒャッハー!」


 男は高圧洗浄機のガンを向ける。

 射程距離内――。

 颯汰は反射的に目をつむる。

 男がトリガーに乗せた指を引こうとした瞬間――、


「グゥオッ!?」


野太い、悲鳴――。


 颯汰はゆっくりと目を開くと、男たちの一部が横になって倒れているではないか。

 何事かと目を剥くと、よく見ればすぐ近くに手持ちの看板が転がっており、前方の三人が巻き込まれた事がわかる。では、その看板はどこから――?


いってぇ! 誰だッ!!」

「誰だ誰だ!」


男たちがわめきながら周囲を見渡すと、“それ”は背後に立っていた。

 全身茶色で大きな頭には角。赤い鼻は暗い夜道を照らすためのヒカリ――。

 何処からどう見てもトナカイの着ぐるみである。


「誰ぇ……?」


颯汰を含めて、男たちもそう思ったに違いない。

 トナカイはゆっくりとした余裕のある足取りで集団へ近づいた。


「くっ! 野郎!」


覆面の一人が叫び、近づいてトナカイを殴ろうとするが、


「ぐぼっ!?」


その右拳は左手一本で抑えられ、逆にその手を引かれて足も滑り――身体が斜めに流されて体制が崩れたところを、トナカイはがら空きの背に向けて肘を槌として叩きつけた。

 その衝撃で口の中から唾液を吐きながら地面に激突し、たった一撃で意識を失わせる。

 驚いた仲間たちが高圧洗浄機のタンクや何やらを置いて駆けつけるが、先手で喉元のどもとに手刀で追撃の足払い。迫りくる両腕をすり抜け、ボディに一撃を放ちダウン。日和った相手のあごを的確に殴り抜く。

 最後に残った三号は走って逃げ始めたが、トナカイが看板を拾って投げつけ、後頭部に直撃――。


「――……!」


颯汰は言葉を失う。たった数十秒そこらで、着ぐるみが覆面の男たちを全員倒したのだ。

 トナカイはゆっくり投げつけた看板を拾い上げ、颯汰の方を見つめる。颯汰はびくりとして、身体が硬直して動けないでいた。


 トナカイの着ぐるみは立ち上がり、『クリスマスセール!』と書かれた看板を肩にかけるように置いて右手の人差し指を立てて自身の口元に置いた。

 颯汰はたじろぎながらも、必死に首を縦に振る。

 『内緒にしろよ』とハンドサインを送ったトナカイは納得した様子で、軽く颯汰の方に手を振ると、堂々とした足取りで歩いて路地の奥へ。

 数瞬、放心状態となった颯汰であったがパトカーのサイレンの音で我に返る。頭には逃走の文字しか浮かばず、妹達が走っていった方角へ、彼もあわてて逃げ始める。

 巻き込まれるのと危機に対して本能と経験が身体を勝手に動かしたのであった。



 かくして、クリスマスの珍事件は五人が補導され、またトナカイの着ぐるみが暴れたという伝説が残って幕を閉じた。

 不思議なことに、そのトナカイの正体がわからずじまいで迷宮入りを果たしたのである。



 そんな結果になるとはまだわからない颯汰は、前を涙目になりながら進む妹達とすぐに合流し、念願の目的であるクリスマスケーキを買うことに成功したのであった。

 とっぶりと日が暮れ、辺りはすっかり夜のそれとなった時、颯汰は店を出て、疲労を吐息に乗せて吐き出す。


「ふぅ……なんとか買えた。またなんかあると嫌だし、一度真っすぐ帰ろうか」


特別な日であるからこそ、変わった人物が目につきやすい。また何かトラブルがあってはいけないと、颯汰は早々に帰ることを提案した。

 一瞬、考える妹達だが、兄が本当に自分たちを心配して言ってくれているとわかっていたからこそ納得していた。


「でも、ちゃんとミユ姉を迎えに行くんだよ?」


「だよ?」


「はいはい、わかってますよーだ……あっ」


「あぁ! 雪!」


ついに降り始める白い雪。シンシンと静かで、まだ眺めていても綺麗だと思えるくらいの量である。

 颯汰は降るなよ、と思いつつ両隣で目を輝かせる少女たちを見ては言葉を喉奥に飲み込んで、行こうかと一言かけて帰路を進む。


 夜闇に白がえる。

 地上は暖かみのある光とイルミネーションの輝きが空を照らす。

 今日はクリスマス・イヴ。

 恋人たちは手を繋ぎ街を歩き、家族が食卓を囲む。寒い日々の中、確かな温もりを見つけられる大切な日。



 そしてこれは、朱堂美雪が事故にい、意識不明の重体となる数時間前の物語であった。


トナカイの中の人はちゃんと後に出ます。

次話は本編を更新します。



メリークリスマス!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ