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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
外伝
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【外伝】聖夜の事件 前編

 十二月二十四日。

 すっかり秋は通り過ぎ、日が短くなった時期。

 例年通り雪は積もり、道はしっかり凍り付いてしまっていた。街を歩く人々もまるでペンギンのようにヨチヨチと歩幅を狭め、転ばぬように足元を見て、時折他の通行人とぶつからないように視線を前にして、注意をしながら進んでいく。


 午後四時過ぎ――辺りは薄暗くなっていたが、それに抗うように煌びやかな電飾が街中を明るく飾り点けていた。赤、青、緑とイルミネーションが駅や建物、街路樹までもを美しく飾る。

 中にはツリーや星、サンタクロースやトナカイの姿を模っている電飾まである。

 暖かみのある光が寒空の下を照らし始める。

 住宅街も繁華街も、すっかりクリスマスムード一色に染まっていたのだ。

 そして、恋人たちが寄り添いながら、特別な日に特別な想い出を作ろうと外出をする。

 商店の前ではサンタクロースの赤い服、もしくはトナカイの着ぐるみを着込み、看板を掲げて声掛けをしている。商売業はまさに今が書き入れ時――クリスマス商戦はまだ終わらない。

 確かにこの日――『クリスマス・イヴ(十二月二十四日)』に一生記憶に残る想い出は出来ただろう。

 だがそれはきっと、誰も望んでもいないカタチであるに違いない。


 上がる悲鳴はこの日に似つかわしくない。

 幸せに満ちた空気を破るのは他者への暴虐ぼうぎゃくであり、社会への叛逆はんぎゃくでもあった。

 幸福を認めない、ゆるせないといういきどおりが、彼らを暴徒へと姿を変えてしまったのだ。

 装束は黒、顔には正体を隠す覆面ふくめん。警察から職務質問不可避のどう見ても怪しい五人の集団が街を練り歩き始め、遂に行動を起こした。


「ファッ●ュー! フ●ッキュー!」


奇声を上げながら両手の中指を立てながら追い回すようにカップル目掛けて近づいていく。


「ヒャッハー! カップルは消えなッ!」


覆面の口の部分から舌を出しながら挑発的な物言いを繰り返す。視線は相手を見ずに斜めにし、その真逆の方向に舌を向けていた。


「クリスマスはてめぇらのような奴らが闊歩かっぽしていい行事じゃねえ! 帰って家族と仲良くしてな!」


「フ●ッキュー! ファッ●ュゥ!」


気狂いの所業――。


 カップルの男は嫌な顔をしたものの、関わりあいたくないと思ったのか、彼女の肩に手を伸ばし守るようにしてその場を早足で去っていった。

 それを見て一同は満足そうに笑い、さらに大声で勝鬨かちどきを上げる。勝利したと勘違いをしているのだ。


「何がジングルベルじゃい! こちとら独り身(シングル)ヘル(地獄)だっつーの!!」


「聖なる日を穢すんじゃねえよ!」


そんな集団を遠目で覗いてはヒソヒソと話す人々。


「何だアレ……」

「関わっちゃいけない……」

「警察呼んだ方が……」

「いろんな意味で寂しいんだろうな……」


既に完全に触れちゃいけない腫物はれもの扱いを受けている集団はそれに気づかずカップルを見つけては奇声を発して退散させる行為に夢中となっていた。


「うわぁ……」


それを見て、様々な感情を混ざり合って言葉が出なかった男――高校生の立花たちばな颯汰ソウタが呟く。

 颯汰は黒に近い紺のダッフルコートに、赤く暖かそうなマフラーを巻いていた。

 勿論、普段の颯汰であればこんな日に外出なんて進んでするはずはない。精神ココロがもう息苦しくなる。

 ただでさえ冬の寒さが厳しいのに、もう日が沈みだしていれば尚更だ。吹く風も冷気をまとっている。

 イルミネーションも恋人たちも見ていて面白いものとは思えない――だが外に出なければならない理由があったのだ。

 立花颯汰の右手を引く左手――。


 その手の先には、少女がいた。


 背丈は低めで髪は肩に掛かるくらいの長さ、彼女もまた冬らしい防寒対策バッチリの明るい色のコートにもふもふとした白いマフラーを身に着けている。まだ成熟仕切っていない感は否めないが、可愛らしく、美少女と言って差し支えない。


「む? ッ!? カッポー! 新手のカポーが!!」


おそらくカップルと言いたいのだろう。

 変質仮装集団は颯汰たちを見つけて指差し叫んでは氷の道を走り、あわや転びそうになりながらも必死に近づいてくる。

 颯汰は一歩下がろうとするが、掴まれているため踏み止まっていると、男たちは威勢よく叫ぶ。


「やいやいてめぇ! どこ高だぁ?」

「――って、おま……! はぁ!?」


何だコイツはと颯汰たちは首を傾げると、後に続く男が前にのめり、割り込むように彼らの肩を掴んで間に入って気狂いのように声を荒げた。


「は? なんで? 女が二人!? 双子!? 双子ハーレム!?」


さらに驚くべき事に、颯汰の右側だけではなく、左側――颯汰の上着の袖と腰辺りを掴んで隠れるようにもう一人の少女がいた。ひょこっと一瞬だけ隠れていた少女も顔を出したが、やって来る獰猛どうもうな奇人たちを見て恐ろしくなって再び隠れてしまった。

 もう一人の少女は態度こそ右側の子よりも気弱な雰囲気を出しているが、髪型と髪色、顔すら全く瓜二つである。上着の色がちょっとだけ違うくらいだ。

 まさに両手に花。可憐な華が右に誇らしく、左に麗しく――二輪咲いていたのだ。


 それに気づいた集団は正気でいられない。

 ……わりと最初から正気ではないが。


「ふざ、ふざけんなよっ!? そんな事認められるかッ!? こんな子とデートするのも羨ま……罪深いというのに! ダブルだとぅ!?」


颯汰の右手を掴む少女は男たちがやって来た際は不機嫌そうな顔をしたが、今や照れながら自身の頬に触れていた。寒さのせいで赤く、熱くなっている。


「勘違いですよ。妹達! い、も、う、と!」


初対面であるため颯汰は一応敬語を使う。顔が隠れてわからないが、あってほしくないが年上の可能性もある。……人生の先輩がこんな奇行に走る姿は認めたくはないが。


「嘘つけぇ! 騙されんぞ」


「チェック! あいざ……三号! チェックだ!」


逢沢あいざわ……ではなく、三号と呼ばれた男――先ほどから延々と壊れたラジオカセットレコーダーのように「フ●ッキュ! ●ァッキュゥ!」と今も言い続け、視線を斜めで舌を出している不審者ふしんしゃが来る。


「え、何この人。ヤバ……」


右の活発な立花たちばなユズが呟きながら少し不安げに抱き着くように握る手に力が入り、


「お兄ちゃん、知り合い? 数少ない友達?」


後ろに隠れる内気な立花たちばなカエデが兄に尋ねる。


「いや、知らないけど……。待って? 今その数少ないって現実、突きつける意味あった?」


左後ろの妹を見ながら颯汰は予想外の方向から飛んできた攻撃にダメージを受ける。


 やって来た放送禁止用語を連発している逢沢三号がユズと颯汰を交互に見る。頭に疑問符を浮かべて首を傾げてから、


「ノー、ファッ●ュー?」


歯切れの悪い答えを出す。だが先頭に立つ男が颯汰たちが本当に兄妹であると判断し納得した様子だ。


「ノー●ァッキュー頂きました~~!」


 ――いやノーフ●ッキューってなんだよ……


無罪であると言いたいらしい。

 元から罪などないのだが。


「なんだ~。ちょっとカワイイ子ぉ連れてるから勘違いしちまったじゃねえか~。悪かったな。家族で買い物か? 使い捨てカイロいる?」


「いえ結構です」


「そ。じゃあこの辺滑りやすい気ぃ付けてな。家族を大事にしろよ? クリスマスは家族と過ごすもんだからな!」


手を振って離れていく不審人物たち。

 ほぼその場から動けなかった颯汰であるが、嵐の方が勝手に去っていった。


「………………何だったんだ? 覆面はまだわかるが何で頭にトサカつけてんだあの人たち」


「モヒカンもそうだけど、肩パッドも。やっぱ変な人たち~」


寒さ対策と顔を隠す役割をになう覆面の存在は理解できるが、他の装備の意図がイマイチ読めず、困惑こんわくする颯汰。

 ユズも去っていったからか嫌悪感を出さずに、ただの面白集団として頭の中で処理をしたらしく発した声に敵意はない。

 カエデも今はおびえていない様子であった。


「お兄ちゃん、ユーちゃん。予約したケーキ、貰いに行こ?」


「……そうだな」


「寒くなる前に迎えに行こっか。あ、でも雪はちょっと降って欲しいかも~」


「わかる、かも」


「えぇ……? 姉妹の考えわかんねぇ……」


これ以上の寒さと降雪は望まない颯汰は姉妹の考えが本当に理解できないものだと思っている。

 外気が氷点下を超え、吐く息の白さに赤くなる頬。暖かさを求めてれ合う手と手。

 雪空のロマンチックも、冬だからこその得られる温もりも、この男は知らないのだ。

 妹たちは諦観ていかん混じりの嘆息を吐きながら、そういう兄であると知っているからもう何も言わなかった。兄は突き刺さる視線だけが痛かったがそれゆえに何を言いたいか少し思い当たり始めるものの、それに気づかぬふりをして歩き出した。


三連休どころか土曜休み

もない私「シングルヘェエルッ! シングルヘェエルッ!」



……後半に続きます。


2018/02/13

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