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春と消しゴム

作者: 百賀ゆずは

公募ガイド掌編小説コンテスト「TO-BE小説工房」第27回課題「消しゴム」に応募したもの。

2017年3月末締め切り。

選外なのでこちらで公開。


400字詰め原稿用紙5枚という制限のもと、禁則処理を駆使して切り詰めたので、かなり読みづらいかと思いますが、そのままアップ。苦労の跡をお楽しみください。

 新学期に備えて消しゴムを買い込んできた。テーブルに山積みする。春を感じる。

 上の子が小学校に入った頃、しょっちゅう消しゴムを無くしていた。苛々する私に先輩ママは「そんなん箱買いしとくのよ」と事も無げ。何か違う、でも夫もお小遣い返上で後押ししてくれる、なので一グロス買ってみたら、不思議に心が落ち着いた。――仕方ないか、私の息子だし。ある種の悟りを得て、以来続いている。おまじないみたいなものだ。

「おまじないって言えば」

 私の唐突な言葉に、夫がコーヒーポット片手に振り返り眉をひそめる。構わず続けた。

「今の子たちもやるのかな、消しゴムに好きな人の名前を書くって、あれ」

 そうして誰にも見せず触らせず、使い切ることが出来たなら、両想いになれるという。

 さあ、チカちゃんに聞いてみれば、と夫。自分はブラック、私の前にはカフェオレ。

 いいえ、娘には特に聞きません。何故ならここまでは前振りで、続く本題は誰にでも話せる内容ではないからです。


 確か小六に上がる春だから、ちょうど今頃ね。私もやってみたの。特に誰って相手がいた訳じゃないけど。――え、岸くん? 無理無理、鈴木さんと牧さんが怖すぎる。

 なので、創作しました。私だけの理想の男の子。考え抜いたその名前を消しゴムに書いて、で、持ち歩いたら絶対なくすから家の中限定で使ったの。専用ノートに彼の設定や絵を書いて、その修正にだけ。特に絵は気に入るまでずっと手直ししてたから、捗ったよ。

 それで、消しゴムが半分くらいになった頃、何と、その男の子が、夢に出てきたの!

 一緒に校庭で遊んでた。どきどきして、でもずっと前から知ってたみたいな安心感と温かさ。今でもはっきり覚えてる。

 起きてみたらノートは枕元に開きっぱなし。私すぐ夢の続きを書いた。他にも見たい夢をぎっしりと書いて、全部消した。消しゴムを使いたくて。消した方が叶う気がして。

 無人島漂流記、悪の組織との戦い、大怪獣襲来、ずっと電車に乗るだけの夢とかもね。

 消しゴムはもう、芥子粒みたいに小さくなって、その夜の夢で彼が言ったの。


「僕は消しゴムの精霊なんだ」

 ……あれ? 私は目をしばたたかせた。オチを先に言われてしまった。

「この話、したことあったっけ?」

 多分初めてだと思う。何故なら。

「しないで、って頼んだことならある」

 そうだ、私は頼まれた。約束したのだ。

 彼は言った。僕のこと、夢のこと、絶対に他の誰にも話さないで。もしも話したら魔法は解ける。君の記憶か、僕自身か、どちらかを消さなくてはならなくなる、と。

 まるで雪女みたいね。私が言うと彼は、消しゴム男は嫌だよ、と珍しく唇を尖らせた。

 夫の白い顔があの日の少年と重なる。

「あ。――ごめん、ごめんなさい!」

 何て、ばか。迂闊じゃ済まない、大失敗だ。

「消えないで! お願い、私の記憶の方を」

 けれど彼は首を横に振り、消えた。微かな笑みだけを残して、消えてしまった。


 冷めたカフェオレと私。ダイニングに差し込む西日。日脚が伸びた。ぼんやりと思う。

「あれ、お父さんは?」

 不意打ちで長男の声がした。扉口に立っている。焦る私を見ても、慣れた様子だ。

「ああ、また実家に帰っちゃったんだ?」

「ちょっ、待っ、やめてよ、もう絶対外で言いふらさないでよね! って……」 

 『また』? 『もう』? 蘇る苦い記憶たち。ご近所中の同情と好奇の目。時時の担任の先生の顔が、三人、五人、浮かぶ。あれ?

「やらないって。もう大人だからね、俺は」

 言いながら卓上の消しゴム山に手を伸ばし、ひとつ摘まんで、ぱくっと、食べた。

 これも外じゃあやらないよ、と澄まし顔。そこへ娘と次男も現れて、お兄ちゃんずるい! ぼくも! などと取り合いが始まる。  

 驚いたのは一瞬。後に来るのは納得と、胸の熱さ。そうだよね。夫と私の、子供たち。

そうだった。こうしちゃいられない。

「消しゴム、お母さんにも一個ちょうだい」

 長男と次男が夫そっくりに眉をひそめた。

「ち、違うからね。食べないからね」

「はい、お母さんこれも」

 一方心得た娘は、筆記具と新品の大学ノートを渡してくれる。太めの罫だ、助かる。

「ありがとう。ええと、今夜は出前とって」

「うん、今月末までのクーポンあるから」

 がんばってと見送られ、寝室へ向かう。今宵はお籠もりだ。この消しゴムを使い切るまで。もう一度出会えるまで。取り戻すまで。

 スリッパを忘れたけれど、そう寒くはなかった。春を感じる。幾度目かの、春を。

夫(私の、リアルの)に読んでもらったところ、不評でした。

終わり方が暗い、救いがない感じ、だそうです。


お?


私としては、「おっちょこちょいで何度も同じ失敗を繰り返す奥様の年中行事の一幕」のつもりで書いたので、意外な感想でした。

いや、確かに、どうだかわからない感じ、どうとも取れる感じでぼやかして書いたのですが、ぼやかしすぎて伝わらなかったようです。

難しいですね。

というか、その「ぼやかしすぎて伝わらない」は私の書くもの全てに言えるような気がするので、この辺りをもう少しわかりやすくするのが今後の課題かもしれません。


この主人公は、多分生来おっちょこちょいでもあるのですが、夫を取り返す代償にちょっと記憶も消されているんではないかと思います。

それで繰り返しちゃってるんじゃないかと。

30枚、いや、せめて倍の10枚くらいにするか、もしくは娘視点で書き直したら、それなり面白くなるのでしょうか。

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