第八話 雪の名の双子 後編
続いて雪ちゃんが幼児に話しかける。
「私は、雪よ。ふふ、よろしくね。それでだけれど、このお兄ちゃんの言うこと分かりにくくなかった?」
え、そうなの?
「ちょっと……」
「分からなかったで~す」
あらら……。僕、気遣われてたのね。全く気付かなかった。にしても、ほんといい子たちだなあ。
「ペンギンさんになりきるのよ。そうしたら、うまくいくわ。」
雪ちゃんはしゃがみ込んで目線を合わせてそう言った。すると幼児二人は少し互いの顔を見合わせて、再び雪ちゃんの方を向いて、
「ペンギンさんですね!」
「ペンペンさんっ!」
と、手足をバタバタさせて、ペンギンのモノマネをした。
流石、雪ちゃん!
そうしていると、御老人が降りてきていた。僕たちの遣り取りを暫く傍で見ていたようだ。終わるのを待ってくれていたのだろう。
この子たちのおじいちゃんだろうから、まあそりゃ、気遣いの人ってことか。
「皆様、今日は宜しくお願い致します」
と、頭を下げられた。物凄く丁寧に下げられた。予想を超える御老人の気遣いに、僕は戸惑った。頭を下げるのは、こっちじゃないのか、と。
「こ、こちらこそ、本日は、このような無理に乗って頂き、ありがとうごじゃ……がりっ……ございます……」
僕は咄嗟にそう言ったが、テンパっていたため、豪快に噛む……。変な間ができてしまう。
「連れが、申し訳ありません」
すると、ぺこりとバカは頭を下げた。いいタイミングなんだけど、有り難いけど、でも、なんだかなあ……。
「こんな素晴らしいスケートリンク、用意して頂いて、ありがとうございます。」
雪ちゃんもぺこりと頭を下げた。
するとご老人は笑顔を浮かべ、
「お嬢さん。これ用意したのは私ではありませんよ。そこの彼です。彼があの巨大なシートや、水、凍結材等々、全て揃え、搬入し、氷を張ってくださったのですから。さて、堅苦しくなって申し訳ありません。私はあの上から眺めさせてもらいますので」
なるほど。……、ん? あいつ、誰に頼んでこんな準備したんだろう? 大量の水、大量の凍結材、運ぶとなると、トラック何台要る? それに、片付けどうするんだ?
僕はスマホを開き、今日の天気を確認した。なるほど。昼から晴れ、か。ということは、氷が解ける頃合いを見てあの青いシートを回収するだけ、か。後片付けは。
「ありがとうございました、ご老公」
そう、バカはお礼を言って頭を下げた。
そして、
「おし、みんな、早速滑るぞぉ! 銀花くんと、六華ちゃんはお兄さんと一緒に、まずは、氷の上で立ってみようっ」
バカは号令をかけた。いつの間にか、自身の分と、幼児たちの分、計三足のスケート靴をその手に握って。
「お~」
「お~」
幼児二人はペンギン歩きでそれについていく。既にもう、ペンギンになりきっているらしい。本当に、素直ないい子たちだ。
バカが立ち止まって、振り向く。
「ああ、そうだ。雹に、雪ちゃん。靴あそこに各種サイズ揃えて置いてるから合うやつ選んで履いといて。あ、雹。お前そういや、マイシューズ、ぷっ、ひゃははあは、持ってたよな。ひゃははははぁ」
と、一足先にスケートリンクに向かっていった。
ちょっとぷちんときたけれど、僕はそれをやり過ごした。ぎんかくんと、ろっかちゃんのおかげだぞ。後で憶えとけ、あのバカ。
おっ、どうやら僕の予想は当たっていたみたいだ。二人が履いている靴の踵に名前が書いてある。
"銀花"
"六華"
あのバカのこととか、割とどうでもよくなった。