第七話 雪の名の双子 前編
「まあ、駄目元だったんだけどよ。びっくりしたぜぇぇ~。話持ちかけたらよ、すげえ勢いで乗ってくれたんだからよ。即OK出たぜっ」
そう言って、バカがびしっと親指を立てる。
すると、石垣階段を下ってくる三つの人影が。二つは、幼児。防寒装備がっちりした、アイスクライマーっぽい、青い防寒服の男の子と、ピンクの防寒服の女の子が階段を走り下りている。幼稚園児、かな?
残り一つの人影。着物に上着を羽織った、大正ロマンな和洋装な、ふさふさの白い髪の毛の、高齢ながら背筋がやたらしっかりと伸びた背の高い、壮健そうな御老人がゆっくりと階段を降りてくる。
二人の子供は僕たちのところまで来て、立ち止まり、
「ぼくは、ぎんか、っていいます」
「わたしはね、ろっか、っていうの」
そう自己紹介し、
「きょーはよろしくおねがいします」
と、二人は同時にそう言って、全く同じように礼儀正しく頭を下げた。双子のようだ。男女だから、二卵性双生児、か。
で、たぶん、ぎんか君は、銀花君、ろっかちゃんは、六華ちゃんかな? 何となくそう思った。この前、雪っていうワードで色々調べたからだろうな、きっと。
両方とも、雪の別称である。
……雪ちゃんのことを考えながらそんなことをしてたなんてことは、断じてない。
「おにいさんの名前は、しゅう、っていいます。ははは、きょうはおにいさんたちとつるつるすべろうねっ」
因みに、驟、と書く。
バカは、目線を二人の幼児に合わせて、笑顔を浮かべる。ここで、変に、ちいさいのにちゃんとあいさつできてえらいねえ、とか言わない辺り、こいつは分かってる。
素直に関心した。上手いな、って。引率するって感じではなく、同じように遊ぼう、楽しもう、っていう意図を伝えたわけだ。
この年でこんな挨拶が自発的にできる子たちだ。これだけ礼儀正しい子たちだ。きっと、自然とそういうことに見掛け以上に敏感だろう。
その証拠に青とピンクの二人の子は、とっても自然に笑っている。
続けて、僕と雪ちゃんも自己紹介する。
「僕は、雹。よろしくね。そういえば、君たちスケートやったことある?」
「ないですっ!」
「ないでぇっ~す!」
あいつのように、物凄く自然に小さい子に話しかけるってのは案外難しいな。あいつよりも少し堅苦しくなった気がする。とはいえ、この反応を見る限り、問題なさそうだった。
とってもかわいらしくてよろしい。くしくし撫でたくなったけれど、流石にそれは自重する。
「じゃあ、お兄ちゃんがいいこと教えたげよう。氷の上を歩こうとしちゃ、ダメだよ。」
僕は人差し指を立てて、厚く張った氷を指差し、そう言った。
「はーい」
「はぁーい」
掴みはいい感じ、かな。