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第六話 いいんだよ、ここ私道だからよぉ。

「わっ!」


 そのしつこいくらい聞き覚えのある声とともに、僕の頭から、ぽかぽかが離れていった。いやしの時間は終わったらしい。


「何なの、お前……」


 なんか声を張り上げようと思ったけれど、駄目だった。僕の体が、心が、急速に冷えていっているから。


「反応悪くね? まあ、いいや。おはよう、雪ちゃん」


 むかっときた。


「おはよう、馬引うまひき君」


 そうでもなくなった。


 馬引うまひきというのは、このバカな僕の親友の苗字だ。


 雪ちゃんは、周囲の男たちの中で、僕だけを名前で呼んでくれる。どういうわけか、最初からそうだった。名前を教えたそのときから。


『そっちの方が呼びやすいからよ』って。で、僕もなし崩し的に雪ちゃん、って呼ぶことになった。ちょっと初めは恥ずかしかったけれど、なんかあのバカも知らんうちにそう呼んでるの見てなんかそんなこと考えるのバカらしくなって大丈夫になったけど。


 ……、あれは、感謝すべきなのか、怒るべきなのか。


 ……、怒るって。僕は()()、雪ちゃんの彼氏ではない。



「バカぁぁ……。お前さぁ……、それは無い、だろ……」


「え、邪魔したことか?」


 僕は頭を抱えた。なんか雪ちゃんが顔逸らしちゃったから……。何てことするんだこいつは!


 まあでも、無邪気に楽しそうなこいつを見ていると、怒る気なぞ、散ってしまった。


 とりあえず本題に入ろう。


「なあ、バカァ。雪ちゃんもスケートやりたいそうなんだけどさ、道具ある?」


 色々と予想外だった。僕は、どっか遠出してスケート場でスケートすると思ってたから。でもそうじゃあないらしい。


 こんなことして大丈夫なのか、とか、いつから準備してた、とか、誰かに迷惑かけてないか、とか、分かってて邪魔しやがって、とか、どうやって氷張ったのか、とか。


 色々聞きたかったけれど、今僕にとって一番重要なことを聞く。まあ、こいつのことだから準備しているだろうけど、無かったら、雪ちゃんと一緒に帰ろっと。


 ランニングデートとかしてみたいし。まあ、僕は雪ちゃんと付き合っているわけでもないし、デートなんて付けちゃっていいか怪しいとこだけど。


「当然あるぜ、たっぷりと、な」


 なんか、勿体もったいぶるなあ。


「たっぷりと?」


 だから僕はそう聞き返した。すると、


「そうだ。たっぷりと、な」


 バカはそう、ニヤリと笑った。


「大体50人くらいにお誘いをかけた。用意した靴の数と、この特設リンクの広さから見積もって、それくらいはいけるだろうって、な。まあ、実際に来ることになったのは20人位だけどな。休みの日とはいえ早朝だし、まあこんなもんだろう」


 全員が同時に来るわけでもないだろうし、全員が同時に滑るわけでもないだろうから、かなり自由に滑ることができそうだ。


「ふ~ん。で、こんなことしちゃって大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫。この道私道なんだわ。あそこの家の、な」


 バカが指指したのは、すぐ向かいにある、やたらに大きな日本屋敷だった。この私道の片側を占領するくらいへいが長い……。


 この場所に立っている関係もあって、やたらに長い石垣の土台があり、そこから道の高い部分と同じ高さまでのびた、上から見るとコの字型の階段があった。|の部分が踊り場になっている、これまた、石垣でできた階段だ。下の方は当然、氷に埋まっている。


「ええ、お前よくこんな立派そうな家に凸したな」


 感心しつつも、呆れる。こいつのことだから、きっと、思いついた地点で直接出向いて交渉したに違いない。


「どうだ、すげえだろう。」


 すっごい、ドヤ顔。まあ、それ見てもイラつかないくらいには凄いとは思うけど、口に出すつもりはない。


「褒めねえよ。俺も、雪ちゃんも。ねっ。」


 ちょっと長いこと、隣の雪ちゃんを放置していたので、話を振る。


「そうね」


 普段通りのクールで大人な感じに戻っていた。

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