第五話 道を覆う厚い氷
僕は雪ちゃんとそこまで仲良く並走してきた。そして、僕も雪ちゃんも同時に立ち止まる。
僕は目を見張った。
氷が張っている、だと?
そこには、やたら厚みのある氷が張っていた。雪の降らないこの街で。それも、こんな、道の真ん中に……。どう見ても自然に張ったものではない……。氷の底に見える、巨大な青いシートがそれを物語っていた。
一度、隣の雪ちゃんを見る。
「ふぅ~ん、あらあら」
そう、時折小声で呟いて、見事に張った氷を見下ろしている。これは、驚き半分、感動半分というところだろうか。
僕は視線を前へ戻した。
目の前の道。横から見たこの道の断面図はこんな感じ。
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この道のへこんだ部分を途切れなく覆い、水を貯めれるように青色のシートを敷き、そこに入れた水を凍らせた、ということだろうか?
僕の中の驚きはなりを潜めた。代わりに沸いてきたのは、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ? うわあ、あのバカなんてことやってんだよ……」
呆れだった。その言葉に、雪ちゃんが反応する。
「あら? 雹君、あの人確かにバカだけれど、無法者では無いわよ。貴方が一番それを知っているんじゃなくて?」
「まあ、そうなんだけどね……。はぁ……。こんなの見たら、色々言いたくなるよ……」
雪ちゃんは相変わらず、動じない。ホント、こういうとこ、凄いよな。それに、雪ちゃんの言う通りだ。あいつのことだからちゃんと手回ししているか。
僕一人だったら、あいつに怒鳴りに行ってたかなあ。そんなこと考えずに。ありがとう、雪ちゃんっ!
とはいえ、
「はぁ……。でもなぁ……」
僕はがくりと肩を落とす。ちょっと、何も考えず、楽しい気分でスケート! って気分にはとてもなれそうにない。
今回は誰に頭を下げればいいのかな……。
「そんな顔いつまでもしておく必要ないでしょ、ね。」
そう優しく、雪ちゃんは僕を励ましてくれた。
くしくし。
びくんっ!
……。
くしくし。
頭を撫でてくれた。ちょっとびっくりて、ぴくんとなる。一瞬、雪ちゃんの手が止まるけれど、しばらくしたらまた、撫で始めてくれた。
そして、
くしくし。
くしくし、くしくし。
くしくしくし、くしくし。
くしくし――――
なんか延々とそれは続いた。気に言ったみたいだ。僕の髪の毛の触り心地が。僕はおとなしく、そのまま撫でられていることにした。なんか気持ちよかった。ぽかぽかした。ほくほくした。
冬だというのに、ちょっと熱かった。厚着し過ぎたかな?