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雪の降らない冬の街中で  作者: 鯣 肴


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第十四話 雪の止んだ冬の街中で

 ギリリリ。


 歯をきしって、僕は大きく口を開けて、


「あああああああああああああああ! 上手くなんて言えない。どうやったってできない。だけど、もう、言わずにいるなんて、無理だぁぁっっ!」


 僕はそうして、覚悟を決めた。


「どうして、泣いているのか。理由を教えてもらって、謝って、それで――告白、するんだ。今更だけども、僕から、告白、するんだ。……あぁあああああ、もう、順番、順番っ……! すぅぅ、はぁぁ、すぅぅ。ねぇ、雪ちゃん。どうして君は、僕のせいで泣いているの? ……。…………。………………。どうか……、それだけは、教えて、欲し……い……」


 気づけば、僕は、泣いていた。なんだか、とてもとても悲しくなってきた。僕のせいだ。僕のせいだ。僕のせいだ。そんな気持ちが溢れてきて、辛くて辛くて、苦しくて、罪悪感に押しつぶされそうで。


「やっぱり、素だったら名前じゃなくて、君って言うんだね。それは私もだけど。ふふ」


 そう、雪ちゃんは潤んだ目をして、ひときわ素敵に笑ってくれた。きっと、分かってくれているのだ。僕のことを。だからこうやって、空気を和ませてくれた。


「いいわ。キミに教えてあげる、雹君。喋り方を作ったりしない。嘘化粧で偽りもしない。とてもとても怖かったけれど、そうすることで私は、やっと、本当の意味でキミの前に立てるの。対等に立てるの。私だけ嘘をついて、作り物の私で、そんなで私が君に本気でいるなんてとてもいけないことだから」


 なんだかとても安心した。もう、影は見えない。そんなもの無かったかみたいに霧散している。雪も弱まった。もうすぐ止みそうな気配。


 だから、大きく息を吸った。ちょっと、冷たかったけれどもかえってよかった。僕も、悲しい顔せず、笑えそうだ。


 あぁ――そうか。


「君を泣かせた理由が分かったよ」


「たぶん、とかつけなくても大丈夫?」


 そう雪ちゃんは、いつもの雰囲気で、いつもの感じで僕をいじってくれた。いつもと違う容貌の雪ちゃんなのに、いつも以上に素敵な、しかし、間違いなく雪ちゃんだった。


 演じていた、と君は言う。けれども君は、君だ。今も変わらず。そして、今はますます君らしくて、とてもとても、かわいらしい。


 その心が、かわいらしい。とてもとても、温かくて、心地がいいんだ。君と喋っているのは、なんだかとても楽しいんだ。ずっとそうしていないなって思うくらい。


「大丈夫。君を泣かせてしまった理由。それは、僕が君を不安にさせたから。君に演じさせたから。僕が君を好きだと、もっと早くに言えばよかった。僕が君をどう好きなのかと、もっとはっきりさせていればよかった。今からじゃあ、もう、遅い、かな?」


 きれいに決めることなんてできない。素敵な言葉で飾ることもできない。月並みな形とは程遠い、拙い僕、オリジナルの言葉。はっきりとした言葉じゃなくて、伝えるのは、気持ち。伝わるもの。伝わっていくもの。そういえば僕は、君にも最初のときよくみられたあの詩人のような、伝えるじゃなくて、伝わってくる言葉と空気が、恋に落ちた瞬間、だったのかな?


 あれ、涙が。決めるまで、泣かないでいるつもりだったのに。ああ、ああ、止まらない。止まらないよ。何、自分が口にした言葉に感動してんだよ。何してんだよ、僕は。


「遅いわけ、無いじゃない」


 彼女の言葉はそれで、あぁ、成就したんだって、伝わってきた。ありがとう。本当に、ありがとう。彼女は抱き着こうとしたのだろう。けど、僕が先にしたみたいに、大粒の涙をぽろぽろ流し始めて、その足は止まった。


 自然と足が前に動いた、一歩、二歩、三歩。そして、――抱き着くように抱きしめた。彼女の力が、身を預けるように一度抜けて、彼女も僕の後ろに両手を回した。


 あぁ――と感嘆し、彼女を抱いたまま見上げた空。雪は止んで、空は青く晴れ渡っていた。そんな空模様と同じように爽快な気分で、抱いている彼女を見る。


 実は雪下美人でもなくて、それどころか、美人さんでもなかった。かわいくもなくて。けれども、かわいらしかった。愛らしかった。最初見たときと同じくらいに。そして何より、傍にいるのが、心地いいんだ。他の誰といるよりも、これ以上ないってくらいに。


 そこが街中の公園であるということも忘れ、とっくに、この場を用意してくれたであろう友人たちのことも忘れている。彼女と自分、二人だけで在るかのような気分。ただただ、温かく、満たされていた。


 ずっと、こうしていたい。


 あぁ、しばらくは――言葉は要らない。

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