第十二話 覚悟したのは――
「雪ちゃ……ん?」
僕は目を疑った。
「雹くん? どうしたの? そんな顔して?」
白く……ない……。それに、何か……、薄い? 顔が……、薄い。雪ちゃんは、何気ない顔であどけてみせるけど、僕の頭の中はぐるぐるぐるぐる、回っていた。
あれ? 雪ちゃん? 本当に、雪ちゃん……? 髪型は、いつものような、ベーコンエピ。あれみたいな複数本の髪の毛の束を作っていて、それをところどころくくって、最終的に、肩にかろうじて掛からない程度の長さを保っている。
けど、いつもみたいには、あまり似合ってない……。
でも、声も、匂いも、雪ちゃんそのものだ。スノードロップのような上品で自然な、暖かみを持った仄かに甘い。変わらず、そんな香りがする。きっと、ここまでがんばって走ってきてくれたんだと思う。
どこから、かは分からないけど、きっとたぶん、長い距離を。
駄目だ……。違和感がとれないよ……。こんなの、流せないよ、雪ちゃん……。
どうして、白くないの……? まさか……、け、しょう? 化粧? まさか、雪ちゃんは、化粧美人さんだった、っていうこと? けど、見た通りだ。美人じゃなない。可愛くもない。普通ともいえず、ぶさいくだ。いや、だけど、そんなそぶり、これまで一回も……。まったくこんなそぶりなんて、なかったのに……。
「雹……くん……? ……」
どんどん、目の前の雪ちゃんの表情が落ち込んでいく。どうしよう。どうしたらいいか分からない。いつもと様子が違うっていうんじゃなくて、いつもと明らかに違う。お化粧無しで来たっていうこと。一体、どうして?
「……。やっぱり……、ぅぅ……」
ポトッ、ポトリ、ポトリッ、
それは、雪ちゃんの涙でした。それは、すっと浮かんできて、滴から、途切れない流れに変わるまで、時間は掛かりませんでした。
僕は置いてきぼりになりました。どうしようもなくて、目の前が真っ暗になっていくような気分です。何とか、落ち着いてみようとして、心の中で呟いてま…―!
かくん、と崩れ落ちそうになった雪ちゃんを、僕は咄嗟に前から支えた。抱き着いたみたいになって。密着して。けど、いつものような役得感やラッキーな感じなんて全然なかった。
分からない。分からないよ…、雪、ちゃん……。
そう。分からないんだ。けど――分からないからって、何も言わないでいるだけじゃ、たぶん、だめなんだと思う。
僕のお腹に顔をうずめてる雪ちゃんの涙と声。委ねられた体の重さ。鈍い僕でも、それだけは分かった。
フゥオゥウウウウウウウ――
雪が、振ってきた。さっきまで、空は晴れていたっていうのに。
「雪、ちゃん。雪ちゃん、だよね」
自分でも何を言えばいいか整理がつかない。だから、普段以上に、ぎこちなく、ぎこちなく、ダメダメになってしまう。
自分でもそう思うくらいだ。きっと、雪ちゃんはもっとそう思っているに違いないんだ。
「そう……よ……。これが、本当の私。大学生になってさ、背伸びしてたんだ。……いや、そんないいものじゃないわね。大学デビュー、よ……」
雪ちゃんは、埋めていた顔を引いて、自分の足で立って、目元を赤くにじませながら、僕にそう言った。震え声の中に、何か、意思のようなものを感じた。
「大学……デビュー……」
僕はその言葉をオウム返しするという返ししかできなかった。情けなくなる。僕は動揺している。確かに動揺している。けれども、雪ちゃんは、もっと大変な思いをしている、僕がさせてしまっている。どうして……なんだろう……。きっと、聞いていれば分かるんだろうけど……、僕が話さなければならないのに、どうして、雪ちゃんに話させてしまっているんだろう……。




