第一話 早朝スケート?
ピコン。
某SNSの通知音を聞いた僕は、気怠い体を押しながらベットの傍に置いたスマホを手に取り、時間を確認する。
「朝5時って……」
思わず、独り言が出た。僕は大学一年生、下宿歴、独り暮らし歴、共に一年に満たない。自分以外誰もいない部屋で、家で、声を上げるなんて、独り言をぶつぶつ言っているようで気持ち悪いものだ。普段から、独り言の癖がつかないように気を付けているのだが、こういった、不意に出る言葉というのは、どうも抑えが効かないものだ。
えっと、どれどれ? とりあえず、メッセージを確認する。誰がこんな時間に……。
僕の幼馴染兼親友だった。
【オバカ:なあ、みんなぁ、スケートやろうぜぇぇ!! これ見たなら、できるだけ早く出てきてくれや。場所は、学校の横の、あの無駄に広いけど、車も人もほとんど通らんあの道な。】
但し、男だ。背は低く、童顔。女顔であるけれども、男だ。見かけはそんなだが、中身は陽気なバカ騒ぎ好きのバカ男だった。まあ、それがいいんだけれど。ちなみの僕にそっちの趣味は無い。
ピコン。ピコン。ピコン。三連で、音が鳴った。あいつらは返事が早い。そもそも、みんな、こんな時間から起きてるのね。僕とオバカを含む、友人グループだ。
【悪ノリ:なんかわからんけど、とりあえずいくわぁ。】
こいつは、なんかチャラそうな奴。おしゃれさんだ。で、ノリがいい。良すぎるくらいにいい。この、意味を成さないメッセージに即賛同するくらいには。やめろぉぉ。お前のそれは悪ノリなんだよ。燃料灯火とか、やめてっ。
【不思議君:見るだけなら。】
くしゃくしゃの猫毛の、ふわんとした雰囲気の男。いっつも眠たそうにしてて、何考えているか全く分からない。それでいて、その口から飛び出す言葉は変な笑いを誘うのだ。
【相乗りちゃん:(躍動感あるスケート靴の絵文字)かぁ。いいねいいねっ! あたしの分も用意できるぅ? サイズ、前、教えたよね(ハートの絵文字が踊っている)。】
オバカくらいバカな、女の子。オバカなことが好き。でも全然羨ましくない。僕のタイプではなかった。友達としては、好きなタイプではある。やったら人との距離感が近い。同性でも異性でも。まあ、オバカとはお似合いなので、たまに相談に乗ってやったりしている。おもしろいし。こんな名前を当てはめているのは、この子がヒッチハイクの達人だからだ。僕たちはそれの恩恵に何度か預かっていた。
さてと。僕も返事を送らなくては。
【僕:できるだけ早く行くよ。】
"あの子"はまだ寝てるのかな? 残念。
グループ内に気になる子が一人、僕にはいた。あの子っていうより、あの人、っていう感じの雰囲気の人なんだけれど。僕はあの人の名前を、"雪下美人さん"と、SNSでの名前に登録していた。雪女、のような、美しく、白く透き通った、冷たい目をした、僕よりも背の高いあの人。でも、中身はポンコツ。だから、"あの子"と、僕はあの人のことを呼ぶ。それか、"雪下美人さん"って。あの子はきっとまだ寝ているのだろう。あの子が来ないのは残念だけれど、まあ、楽しめたらいいな、と思う。