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美の定義  作者: 七草
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町までは、ユーリの魔法でひとっとびだ。




朝ごはんに、町へのお誘いを受けてあれから。


ユーリが出かける準備をしている間に、私は朝ごはんの食器を片付けて。

それが済んだら私自身は準備も特にないのでそのまま出発した。


近くの町といっても、徒歩で行けば3日ほどはかかるらしい。

それを魔法を使えば瞬きの間に行き来できる。なんて便利。



バロウに見送られながら、ドアをくぐって下りた階段の先。

家の前の開けたところでユーリに右手をとられた。


「レイ、転移の間は少し目を瞑っていてくれ」


もちろん転移なんて初めてで。

なんだか、怖いようなわくわくした気持ちを見透かされたのかユーリがうっすらと笑った。



最近ユーリはこういった微笑みを見せるようになってきた。

出会った瞬間は本当に無表情だったのに、初めて目が合った瞬間、驚愕の表情を浮かべてからどんどん、作り物のような無表情を崩すことが増えて人間らしくなってきた。

ユーリのことをまったく知らなかった私が言うのもおかしな話なんだけれど。


初めてあった瞬間、次の瞬間、そして一緒に過ごす一瞬一瞬。


感情の起伏の少ない人かと思えば、全然そんなことはなく。

どうやら表情筋の使い方を忘れてしまっていただけみたい。

意外と感情豊かな人なんだと今では思う。


無表情は変わらないがバロウにからかわれればきりっと上がった眉の眉間にしわをよせるし、ふとした拍子に微笑んだりだとか。感情が顔に表れることが多くなったのだ。

そしてどんな表情を浮かべたとしてもユーリはあまりに美しく。私はどこまでも醜いのだ。



ユーリが微笑みかけてくれたり、頭を撫でてくれたり。そして今のように自然に手を握ってくれたりしてても、勘違いをしちゃいけないんだ。気をつけないと。


自分の守ってもらってる立場に甘えて、ユーリに迷惑だと思われないように。

(そもそも、今手を握ってくれているのはただ単に転移のときに魔法を一緒に掛けてもらう為。それだけなんだけど)



「じゃあ、バロウ。いってくる」


「うん。お土産買ってきてね! おいしい物!」



ぎゅっと瞑った何も見えない真っ暗な視界の外で、ユーリとバロウの声が聞こえた。

あ、私もバロウに挨拶しようかな、と思った時には。

気付けば私の体が何かにふわりと包まれ、一瞬の浮遊感の後に、足裏にはもう地面の感触があった。





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「レイ、もう目を開けて大丈夫だ」


地面に足がついてすぐ、ユーリの声が聞こえて、恐る恐る目を開けた。

なんか、やけに聞こえたユーリの声が近かったなあ。と、思ったら。



超至近距離にユーリの麗しい顔があった。

背の高いユーリに対して平均身長の私の顔はユーリのちょうど胸元にあたるくらいで。

繋がれた右手は、目を瞑ったときに私がどうやら私の手と一緒に胸元に握りこんでしまっていたようで、ユーリの左手はいつの間にか腰に回されていた。


こ、ここここれは!

だ、抱きしめられてる!? 

もしかして、転移の瞬間ふわって包まれたようなあの瞬間?! ふわって! ふわって!


「ユユユユユーリ!?」


瞬間的に真っ赤になった私と裏腹にユーリはあくまで真剣な表情で、私の心配をしてくれた。

超至近距離で!顔が、顔が真上に!


「レイ、大丈夫か? 体調悪くなったりしてないか?」


体調に異変があるとしたらむしろこの体制のせいです!

というか何でユーリはそんな普通なの?! 慣れてるの?!


なんていえるはずもなく。



「う、うん。大丈夫。ありがとう」


真っ赤になった顔を隠すように、うつむくしかなかった。


「あ、悪い。気持ち悪かったか」

ユーリは何事も無かったかのようにすぐに離れた。



転移って気持ち悪くなることあるのかな?

一瞬で遠い距離を移動するのだ。いかにもありそう。



それにしても、び、びっくりした。

抱きしめられたなんて。



「ううん、大丈夫だよ」

うつむいたままではまた心配させてしまうと、あわてて顔を上げれば、私をじっと見下ろす空色と目が合った。

いつもはきらめくその色も、今はどこと無く戸惑うような、複雑そうに、揺らいでいた。


「町はすぐそこだ。行くぞ」



何か、言われるかと思ったけど、ユーリは何も言わずに背を向けてしまった。

着地したのが森の中だったから、町に向かって歩き出す為だったのかもしれないけれど、そんなふうにされたら、私のほうからはどうにもなにも言えなくて。


なにか失敗したかと思いながらユーリのあとをついていく。




町まであとすこし、人の話すざわめきが風に乗って届いてくるようになって来た頃、

ユーリから大き目のフードつきの上着を手渡された。


別に寒くはないんだけど、着たほうがいいのかな。


「ああ、ちょっと視界が悪いかもしれないが、フードまで深くかぶってくれ」


ユーリも同じように上着を着てフードをかぶっていた。

それにならって同じようにすると、ユーリはうなずいて私の手をひいて今度こそ町の入り口に向かっていった。


なんだかユーリに手を握られるの慣れてきてしまった自分が怖い。

あったかくて大きい手のひら。慣れてしまうと、今度は失うのが怖くなってしまうとはわかっているんだけれど、このぬくもりを知ってしまった今、この手を自分から離すことは出来そうにない。





「必要な物をとりあえず見て回ろうと思うが、レイ、ほしい物があったら言ってくれ」


私たちがいるのは問屋街のようにお店が立ち並ぶ通りで、買物に来たお客さんは多く、そしてお店の人の呼び込みの声も大きく、活気のある町だった。

武器屋や雑貨屋、定食屋、どのお店も木造で看板に一目でなんのお店かわかるようにイラストが描かれている。


店先に並べられた商品はどれも地球とはちがっていて、用途がわからない物もたくさんあったが、見ていてとても楽しく、前を歩くユーリにたずねれば詳しく教えてくれた。


「ユーリ、あれ何かわかる?」

「ああ、あれはルガの実だ。香辛料の一種で肉料理に使われることが多い。ピリッとした刺激がある」

「へえ。いろんな色があるんだね」

「ああ。料理の差し色というか飾りとしても使うからな。色によって刺激の強弱があるが、気になるなら少しづつ買って行くか。少し進むからはぐれるなよ」




転移の後、なんだかきまずいような気がしたんだけれど、町に着いた今、ユーリはいつもどおりだった。

フードをかぶっているから表情までは見えないけれど、いつものようにぶっきらぼうながらも声色は優しく、行動も私優先で気を使ってくれるのがわかる。


今も、人が多く行き交っている中をはぐれないように手を引いてくれている。

そしてさりげなくぶつからないように自分の背中で守ってくれているのも気づいた。

その気取らせない優しさに、またひとつ胸がときめく。



それにしても、老若男女いろんな人がいるけれど、ユーリほどの美人な人ばかりじゃなくてすこしほっとしてしまった。

異世界だから、もしかしたらユーリみたいに顔立ちがきれいなのが当たり前かと思ったのだ。

見た目に関していえば地球となんら変わりなく、きれいな人も普通な人も、地味な人も派手な人もいる。

まあ、色合いは派手な人ばかりだけど、黒髪や黒目も一定数いるし、アースの人間って一目で判断されることはなさそう。その点に関しては少し安心。


異世界に来て初めて見る大勢の人に、きょろきょろと辺りを見回しながらユーリの後を歩いていて、なんとなく、ユーリが私にフードをかぶらせた理由もわかってしまった。


だって、ここには沢山の人がいるというのに。

その中でもユーリは別格で美しい。


髪の一房から、揺れるまつげの先まで完璧で、繊細に作られた美しさはこの場にいる大勢とは一線を画していて、まるで別世界の人間のよう。


そして、私も。

辺りを見渡しても私ほどに醜い人間もまた、見当たらない。



美しいユーリと、醜い私。そんな二人が連れだって歩いていたら、目立つ。

フードも中々に目立つが、全くいない訳じゃないし、逆・美女と野獣が二人で歩いていたら、それはそれは目立つ。


ユーリの美しさを見た人から私がやっかまれることももしかしたらあるのかもしれない。

きっと、私が中傷されないように気を使ってくれたんだと思う。


冬でもないのに私達二人がフードつきの上着を着ているのは、つまりそういうことなんだろう。



事情はわかるし、それが最善なのもよくわかるのだが、なんとなくしょんぼり歩いているとユーリが立ち止まった。






「レイ、ここが一番品揃えが多い」


そういってユーリが視線を送るのは可愛らしい女性服が並べられたお店だった。


「わ、かわいい」

「金のことは気にしなくていいから、好きな服を見てきていい」


ユーリは中に入る気はないのか、引いていた手を放して、お店の入り口で立ち止まったまま微動だにしなくなった。


「ユーリは中に入らないの?」

「ああ。ここにいるから、決まったら呼んでくれ。ある程度枚数があったほうがいいから、気に入った物があれば好きなだけ確保しておけ」






この町で買い物を始めてからユーリは私が聞いたものをほいほい買ってくれている。

さっきの胡椒に似たルガの実もお店に赤やら黒やらピンクやら、すこしづつ包んでもらっていたし、レモンに似た橙色のクインという実も買っていた。高級そうな霜降りのお肉とかも買ってくれた。


ユーリ、あれなーに? あれはな……よし少し買おう の繰り返しだ。

私もそれに気づいてからはなるべく言わないようにしていたのだけど、やはりそこは異世界。日本では見たことが無いような物がたくさんあって、好奇心でついつい聞いてしまう。

最終的には上客だと思われたのか、お店の人が私がお店をのぞくたびにさりげなくいろんな売物をだしてくるようになってしまった。


わかっていながらユーリにきいてしまう私とそれを端から買っていくユーリ。ざわめくギャラリー。

あれ、目立たないようにフードかぶったんじゃなかったのかな? あれ?

おもいっきり注目浴びちゃってるけど、なんだかユーリが楽しそうだからいいのかな?


大量の購入物で荷物がすぐいっぱいになってしまうかと思えばユーリの手に渡ったと思った瞬間目の前でそれらは消えうせた。

ユーリに聞いたら亜空間らしい。便利。ユーリは人よりも魔力が多めだから持ってる亜空間の広さも膨大らしい。

亜空間持ちはそれなりに珍しいようで、大荷物をかかえた男の人がうらやましそうな顔をしていた。


しかし、それのせいで荷物おもいから今度にしようとかも通用せず、あっちにふらふらこっちにふらふら。

そもそも今日は、私のほつれてきている洋服とかを買いに来てくれたのだと気づいたのはユーリがこのお店の前で止まった今だった。



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