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美の定義  作者: 七草
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森をかきわけ進むこと早一時間(体感で)


なかなか冷静になることもできず、まるで自分が大切で、特別であるかのような勘違いをしてしまいそうになる体験の記憶に蓋をして、落ち着いてみればそういえば目の前をあるく金髪の彼の名前を知らないことにはたと気づく。


しかし、聞いてみてもいいのだろうか。

はなしかけてくんなよ、って、思われたり。


周りに疎まれ続けた私にとって、自分から話しかけるのはハードルが高い。



どうしようか悩んでいたら、いつの間にか小さな広場のように開けた場所に着いた。

広場の中心には、小さめだが作りはしっかりした二階建てのログハウスのような建物がたっていた。



ログハウスの中はとてもシンプルだがキレイだった。

まるで絵本に出てくるサンタクロースのおうちのようで、とても可愛らしい。暖炉とソファ、テーブルに椅子が二脚。端にはキッチンと食器棚がある。


「そこに座っててくれ」


「あ、はい」


四角いテーブルに付随している椅子の片側に腰を下ろす。

なんとなく地球をアースといった彼の行動が気になってついつい目で追ってしまう。どうやらお茶を入れてくれるようだ。

やかんに水を入れて火にかける。ふむふむ。水は普通に蛇口をひねって出てくるようだ。

火の方は、昔の黒電話のように丸く開いた穴に指を差込くるくると回している。それと同時にぼわっとした炎がついた。おお、なるほどああやって火をつけるのか。


見慣れない行動に異世界を感じて思わずテンションが上がる。あとでためさせてもらおう。

異世界とはいえ、そこまで生活水準のちがいはなさそうで、安心する。




上がったテンションのまま、他にも異世界を感じたくてきょろきょろ見回してしまうが、ふと、こちらをのぞく二つの真ん丸い瞳と目が合った。


え?! 金髪の彼ではない。彼はいまだにこちらに背をむけてお茶の準備をしてくれている。

なら、その足元付近にいる物は何だろう?

さっきまでは確かにいなかったのだ。きょろきょろしているうちに不意に現れた、それは。


宙に浮かぶ二つの瞳をじっと見ていると、それは次第にぼわりぼわりと形を成して、二足歩行の柴犬になった。


え?! 柴犬?! かわいい!?

思わず驚きと戸惑いで半笑いになってしまう。

正直、いつのまにか来ていた異世界よりも衝撃が大きい。

なんてったって、何も無かったところに柴犬が二本足で立って現れたのだ。これで驚かずに何で驚く。

くりっくりのまん丸な瞳で(瞳の色は金髪の彼と同じスカイブルーだった)

腰より少し低いくらいの背丈で、毛に覆われた小さな手で彼の腰をぐらぐらゆすっている。


「ねえねえ、ユーリ! あれ、誰? ねえねえ!」


「ちょ、あぶ、揺らすんじゃねえ! 火、つかってんだぞ!」


「ねえねえ、あの子、アースの子だよ、ねえ、ユーリ!」



ユーリユーリ、と騒ぐ柴をべりっと引き剥がして、テーブルの上にカップを三つ置いた、ユーリ。(暫定)


「わかったから、座れ! バロウ!」


素直にバロウ(暫定)は席に着くと好奇心いっぱいに私に弾丸の様に話始めた。

これぞ、マシンガントークというやつか。


「おれ、魔精のバロウ! お名前は? 年は? 好きなたべものは? この世界に来てもう長いの?」


「な、名前は榊レイ。年は17。好きな食べ物は甘いもの、この世界にはさっき着きました!」


「そっか! さっき現れた気配は君のだね! うんうん! この森は一見平和に見えるけど、これでいて中々にデンジャラスだからね! 直ぐにユーリが向かってよかったね! あ、ユーリ! ちゃんと自己紹介した? ほっとくとすーぐユーリは黙りこんじゃうんだから、ちゃんと自己紹介した? まさか一方的に名前聞いて問答無用でつれてきた訳じゃないよね?」


カップを持ったまま食器棚にもたれ掛かるユーリ(断定)は、黙ってバロウから視線を外した。こう、すっと。


「もう、ユーリーーー!」


スピッツのようにキャンキャン吠えるバロウに、ユーリが渋々話し出す。


「俺はユーリだ。既にバロウが連呼しているから気づいているとは思うが。年は21。さっきは警戒して悪かったな。この森はバロウも言ったが、魔獣の多い魔の森だ。普通の地元の人間ですら立ち入らず、来るものは大体俺への招かれざる客のみだ。だが、お前が保護を求める限りは絶対に守ってやるから安心しろ」


また、だ。ユーリは恥ずかしいことを平気で言う。

守る、だなんて、そういうことはふわふわとして可愛らしい女の子に言うものだ。私みたいな、ぶすじゃなくて。悲しいけど。


まあ、それほどにこの森が危険なんだろう。さっきは直ぐにユーリに会えたから危険は感じなかったけど、本来は魔獣、というなんか分かんないけど怖い獣がいるんだ。


「レイ、レイ。この広場には、おれが結界を張ってるから大丈夫だけど、一人では森の中には入らないようにな!」


「うん、わかった、バロウちゃん。それにしても、結界が張れるなんてバロウちゃんはすごいんだねえ」


「レイ、バロウは成体だぞ」


身を乗り出してもふもふの顔の所を両手でもふもふしながら答えると、隣のユーリが事も無げに言う。

そ、そうなの?! 今、おもいっきり子供と言うか子犬扱いしちゃったけど!?


「しかも、魔精は長命だから、そいつは俺のとっくに死んだひいじいさんよりも前に生まれてる」



大人どころかご年配なの!?



きもちよさげにモフられていたバロウは私が衝撃で固まるのを見て抗議の声を上げた。


「あーっ、ユーリ、またそういうこと言ってー! 魔精は人とは違うんだから、おれは魔精の年で言えばまだまだ子供だよ!

たしかに、おれほどの魔法を使える魔精も人も、この国にはだーれもいないから、そういう敬れ方は嫌いじゃないけども、うんうん」


「え、えーと、バロウさん、お痒いとこはございませんかー」


「レイまでー! おれは、まだ、子供なの! 存分に撫でてくれていいんだよ!」


「ふふ」


「えへへ」



可愛らしいバロウとうふうふ笑いあっていると、さっきのバロウも、ユーリの祈りにも、よくよく考えれば魔法という言葉があったのに気付く。そもそも、獣除けにも結界って……。


「魔法!? 魔法がつかえるの?! 私も、魔力あるの!?」


「わっ、びっくりしたー、魔法ねー、基本的には使えないよ」



なんだ、使えないのか。がっかりだ。

目に見えて落ち込んだ私を、待って落ち込まないで! と慌ててバロウがフォローする。

ちなみに、ユーリは無口無表情だ。



そんなユーリが、寄りかかっていた戸棚から立ち上がり、私の左手を握る。すべすべの真っ白い手が、私の手の甲ばかり大きくて短い指と絡まる。私は手すら醜い。すらっと細くて、大きな手を持つユーりとは違って。


「かわいい手だな」



ユーリが呟く。


それは、それはどんな意味で? 短くて幼児のようで可愛らしい? それとも、ぶさかわとかそういう一周まわってかわいいとかそういう感じの?


すらっとしててきれいな手を持つユーリにいわれると、一瞬何を言われたのかわからなくなった。



言葉通り、素直に喜んでいいのかわからないけどもそんな心と裏腹に、真っ赤になる顔。だって、これ、恋人繋ぎ……。

ドラマとかでよくみかけるやつ。


わたしとは無縁だと思っていたもの。


対面のバロウがぽかんとユーリを見上げている。


「レイ、右手を出してみろ」



何も考えられなくて素直に右手をユーリに差し出す。

するとユーリはその大きな手で私の右手を手のひらを上に向けた状態ですくい上げるように包み込んだ。



「いいか、炎を頭に思い浮かべるんだ。真っ赤で熱い炎がこの手の上で踊っているところを。ただし、手のひらに、伝わる熱さまでは思い浮かべるな」



ユーリは相変わらずの無表情で私にそう言う。

炎、炎。

熱くて、赤くて、チリチリと燃え上がる、炎。

前にどこかのコマーシャルで見たような、ぼっと燃える小さな炎だ。


すると、ユーリと繋がってる左手から、じんわりと暖かいものが流れてきたかと思うと、私の手に、手のひらサイズの小さくて暖かい、真っ赤な炎が灯った。


「!!!」


浮かんだ炎を確認すると左手からの暖かいものは消え、それと同時に炎も霧散した。


す、すごい、私、魔法を体験してしまった!


「ユーリ! 今、私魔法使ってた?!」


「ああ」



嬉しくなってユーリの手を両手で握って振り回すと、ユーリも無表情を崩して少し笑ってくれた。


バロウは信じられないものを見たかのように、私たちをキョロキョロ見回していた。




「ユーリが、ユーリがおかしくなった」




「あ、私、すみません、興奮してしまって」


恥ずかしくなってぱっと手を離し、真っ赤になってしまった頬を扇ぎながら言うと、ユーリはまた無表情に戻ってしまった。


「いい」


「え?」


「敬語、使わなくていい。呼び捨てで、いい。お前なら」


「おれもおれも、呼び捨てで呼んでよー!」


「わかっ、た。ユーリ。バロウ」



呼び捨てでいい、なんて。恋情か、友情か、はたまたただの親愛か。ふたりが抱く思いはわからなかったけど、面と向かって与えられる好意はとても温かくて。


自分のいた世界では求めても求めても与えられることのなかった物を、何も知らない異世界で手に入れることができるのかもしれないととても嬉しかった。


私のひび割れた心に、温かなものがじんわりと染み込んでくるのを感じた。







これは、あらすじ詐欺の予感…!

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