2
大きな音で、目が覚めた。
何か、鳥が羽ばたくような大きな音。
辺りを見渡せば、まるで大森林だった。
なんということだ。
夢でも見ているのだろうか。
気がつけば小鳥が歌い草木は踊るような明るい森の中、一人倒れていた。
どこだろう、ここ。周りに学校なんてどこにも見えないし、潮の香もまったくしない。
太陽はさんさんとふりそそぎ、さわやかな風が頬をなでる。
まるで白雪姫のような情景ではないか。これが私が麗しい姫君だったら王子様が助けに来てくれる。
でも現実は非情なものだ。私はけして白雪姫にはなれないし、王子様だってこんなに醜い私よりも性格のよくて美しい人のほうを白雪姫と呼ぶに決まっている。
そもそもここはいったいどこなのだろう。私は確かに学校の屋上から飛び降りたはずだ。
もう醜い自分はうんざりだ。このまま生きていくくらいならいっそ来世に期待して今世を終わりにしようという前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからない気持ちに従って衝動的に。
もしかして、私は生まれ変わったのだろうか。なんだかよくわからないけど。記憶ばっちり残っているけど。
かすかな希望の光が胸にともる。私、もしかして醜くなくなったのだろうか。
そう思ってしまえばすぐにでも確かめたくて、あわててかばんの中に入っている鏡を探す。
あんなに嫌いだった鏡を見るのが楽しみなんて初めてだ。
鏡、鏡。そもそもかばん、かばん。
あたりにかばんは落ちていなかった。すごくがっかりした。私は無一文どころか所持品すらゼロらしい。絶望だ。どうにも生きていける気がしない。あ、私死のうとしたんだった。
身に着けているものは制服だ。まわりのみんなのように短くなんて出来なくて、それでも自分なりに少し見栄を張ってひざ上にした制服。というか、制服を身につけているということはやっぱり自分自身は何も変化がないのだろうか。
さっきあんなにも明るい気持ちだったのに、今はもうどん底だ。
冷静になってくると自分がすごくのどが渇いていることに気がついた。とりあえずまだ頭と気持ちの整理はつかないが、水のあるところを探して歩き出してみよう。
……幸いにもすぐそばに小川が流れていた。
さらさらと流れる小川に恐る恐る顔を覗かせてみれば、なんのことはないいつもの醜い自分がいた。
下がり眉の癖にぎょろっとした目。そんなつもりはないのにまるでなにかに怯えているようだ。
ああ、嘘だ。確かに怯えている。
人の視線は、怖い。無遠慮で、不躾で、目は口ほどに物を言うなんていうけれど、ほんとその通りで。
私の行動に関わらず、嘲笑、侮蔑、何よりも雄弁に人を見下す。
人の目は、何よりも恐ろしかった。
小川の水は幸いにも澄んでいたため、手で掬い喉を潤す。冷たくて、柔らかい水に夢中になっていると、すぐ近くで物音がした。
人か、動物か、それ以外の何かか。
人なら最高。ここがどこか教えてもらって、ついでにあわよくば帰り道も教えてもらおう。小動物なら可。癒される。熊とか、狼なら、終わる。確かに死を覚悟してはいたけど、流石にこんな終わりは想定してなかった!怖い。どうしよう、逃げなきゃ。
とりあえず逃げようとした私の前に現れたのは、それはそれは恐ろしく、美しく、そして孤独な、青年だった。