また会いましょう
「だから最後は
笑ってと言ったでしょう。」
ため息をついてから、
泣いている僕の
手を握って、
彼女は話しだした。
「よく聞いてね。
私の大切な人。
私はもう、
長くないみたい。」
そんなこと言わないでよ。
「実はね。
私はあなたと
出会う前は
死んでもいいと思っていた。」
そうそう。
最初の君は気力がなかったね。
「でも、
あなたと出会ったからまた、
生きたいと
思うようになったの。」
僕もそうなんだ。
あなたが幸せだったから。
「さあ、思い出して。」
震える手を動かし、
笑っている。
「あの駅は、
いつもの待ち合わせ場所だったね。」
君が一回、
寝坊で遅れてきたときは
驚いたけれど。
「この窓の風鈴は
あなたの手作りだったよね。」
僕から君へ、
一番最初のプレゼントだった。
「この病院は
思い出の場所だったよね。
体が弱かった私の、
御見舞に来てくれたのは?
病室の花を
いつも好きな紫の花に
変えてくれたのは?
ささいなこと。
大切なこと。
たくさんの思い出をくれたのは
一体誰だったでしょう?」
「僕だね。」
笑いながら泣いて、
クシャクシャになったまま、
うなづいた。
「ほら、よく分かった?
あなたはなんにも
後悔しなくていいの。
今までの5年間
一番楽しかった。」
僕も。楽しかったよ。
「最後にわがままを聞いてね。
守ってくれないと、
怒っちゃうんだから。」
大丈夫、守るからね。
「一つ目。
あの風鈴を見たらまた、
私を思い出してね。」
嫌でも思い出すだろう。
「これが二つ目。
あなたは私に
笑顔をくれたでしょ。
私はもう、
たくさんもらったけど
一回でいいの。
だからもう一度
私にちょうだいな。」
うん。分かった。
「そして、最後。
大好きでした。
来世でも私を好きになってね。」
彼女の頬に涙が伝う。
「ありがとう。
また会いましょう。
夏海。」
今、一つの音が響いた。




