ネガティブヒーロー Level 2
短めです
「おいおい、しっかりしろよ」
憧れの人は笑いながら、息切れして膝をついた俺の肩に手を置いた。
「だ、大丈夫です…俺は、」
そう言いながらよろよろ立ち上がり、後ろを振り返る。煙がごうっと風で舞い上がり、隠していた〈侵略者〉の体をあらわにする。
「ま、及第点ってとこな」
「……はい」
初めて倒した敵。 だけどそれも師匠の助けがあってこそ。 俺は、まだまだ未熟だ……!
と、立っていられたのもそこまで。 視界は真っ暗になり、足元がフラフラしたのを感じて「倒れる」と思ったのはすでに身体が傾き出した時だった。
「あっ、あぶね。体力に難ありだな」
そう言いながらも師匠が俺の身体を支えてくれたことに気付いたのを最後に、俺は意識を手放した。
◇
どうしよう、どうしよう、どうしよう! マモルは必死に頭を動かしていた。
侵略者を倒すには? 殴る? ……いやいや、あの大きさを見ろ、無理だ。じゃあ、どうする?
崩れかけたビルを飛び移りながら、必死に方法を探す。 ヒーローに助けを求めたい。 でも、きっとヒーローは僕の力だけで倒すことを望んでいるんだろう。 ……いや、でも。 方法がわからない。
「ヒーロー、どうやって……」
そう、声に出して、グッと声を飲み込む。 まだだ。 考えろ。 よく観察しろ。 なにか、糸口になりそうなものは?
そして侵略者の紫色のドロドロした体を目を見開いて見ていた、その時だった。
「イヤアァァーーーッ離してーー!!」
悲鳴が、聞こえてきた。
ハッとして声の方に顔を向けると、小学生くらいの女の子が、紫色のドロドロに体を包まれて宙に持ち上げられていた。 ジタバタともがいているが、落ちる気配はない。
……まてよ? “持ち上げられて”いる?
……たしかに、僕がマンションの窓に貼り付けられていた時も、あれは侵略者からの身体から分離した何かで体を拘束されていた。 と、いうことは。
「………」
「ヒーロー、僕はヒーローみたいにアレを宙に持ち上げるなんて、無理だよね」
「そうか? 」
ヒーローはただ笑って答えはくれない。 だけど、解決方法は知っている。 そんな顔をしている。
仮にアレに触れたとして、僕はどうやって倒せばいいんだ? ……ああ頭がぐるぐるしてなにもわからない!
「いっておくが、 マモル。 目に見えているものだけが本物とは限らないぜ」
「え?」
「それよりあの子、助けなくていいのか?」
ヒーローはそう言って女の子を指差す。 そ、そうだ! 敵にばかり目をとられていた。 僕は慌てて女の子の元に走る。 幸い紫のドロドロは足場には届いていなかったからすぐに駆けつけることはできた。
「だ、大丈夫?」
脆い崩れそうな壁の瓦礫に足をかけて女の子に向かって手を差し出す。
「は、離れないの…! これ、全然、離れないの!」
「大丈夫、落ち着いて…!今行くから…!」
そう言って身をより出す。と、風が強く吹いて、左目にゴミが入り思わず目を閉じる。 ……ん? 僕はしばらく違和感を感じて、またゆっくりと左目を開いた。
「……そうか…」
目に見えるものだけが本物とは限らない。
ヒーローの言葉の意味を、いま理解した。 そういうことか。
「ひ、ヒーロー?」
女の子がつぶやいた一言でハッと我に返る。 ヒーローとは、僕のことだ。この子にとって今僕はヒーローだった。
「大丈夫だよ、こっちにおいで」
そう言いながら僕は女の子を拘束している紫色のドロドロに向かって手を伸ばす。 そして強く引っ張る。 するとゆるゆるとドロドロは溶けていき、女の子の身体がフッと解放された。
「う、うわわ、おっと!」
慌てて受け止めながら、僕は確信する。 ……倒せる。
そして、キッと ドロドロした巨大な敵を見上げた。