プロローグ:雪解けの足跡
騎士の国でロボットものをやるような世界観ですが、
本作では余り出てきません
まずはプロローグから
鳥の鳴き声で目を覚ます。真冬の朝に玄関から聞こえてくる訳は、冬囲いに巣を作ったからだ。美しい青みがかった羽を持つ鳥は、飛び立つ姿も美しいのだろう。父は撤去を進めたが、私は頑なに拒んだ。ただでさえ静寂な冬には、とっておきの来訪者だと思ったからだ。
「誰も起きてない・・・わね」
誰にも気付かれないよう、静かに布団を抜ける。
今日の私は、いや、今年の私は一味違う。毎年どれだけ力を込めても開けられず、父に馬鹿にされていた私とは違うのだ。十二歳となればもう立派なオトナだ。しかし、二歳下の弟にもそろそろ力でかなわなくなってきた。きっとすぐにでも私の地位を脅かすようになるだろう。
つまり、今年が最後のチャンスなのだ。
改めて決意を固めた少女は、布団の中で温めておいた手袋を履く。いつもは準備が良い方ではないが、人一倍悔しがりやだということは自覚している。これは、後から“手が冷たかったからだ”などという言い訳を自分にしないためだ。
誰にすぐ会うわけでもないのに寝ぐせが気になる。いや、実は少し期待しているのかもしれない。
冬囲いの二重扉を開けるにはコツがいる。扉の外が凍り付いているのではない、例年通り積雪によって内側に押されて動かないのだ。毎年一度、年が開けた二十日すぎにくる大吹雪は今年もやってきた。村人たちは二週間ほど雪の中に閉じ込められることになる。
二重扉の構造はいたって簡単にできている。内側についた引き戸が左右に二枚、断熱のためにもう一組取り付けられている。内側の扉は難なく開放できるが、問題は外に面した扉だ。厚く頑丈な板を合わせているため、溝がなければ私には動かすこともできない。
「少しずつ動かしてっと…」
溝にそって扉を少しづつ前後させ雪を押し出していく。僅かではあるが、扉はミシミシという音を立てながら彼女の力に答えている。隙間から吹く風が冷たい。体一つ通る隙間が出来ればこっちのものだが、ここで焦ってはいけない。力任せに蹴り飛ばせば、屋根の雪が落ちる可能性がある。
「これだけ開けば・・・」
玄関に立ててあった鋤を手に取る。彼女の身の丈に合った長さなのは、彼女が今年の冬のはじめからこつこつ作ったからだ。柔軟な木材に様々な薬を染み込ませ、防腐と防虫効果をもたせ強度も増している。こういった手間のかかるものは意外と得意らしい。
準備が良ければ全てうまくいく、これは彼女の母の言葉だっただろうか。何れにしても、彼女は満身創痍だった。
鋤を構え、てこの力を使い、更に慎重にこじ開ける。だんだんと隙間からは、見飽きたはずの雪景色が姿を見せる。朝日に照らされた強烈な眩しさは、目に入ると同時に肌を刺すような息を吹きかけてきた。
扉の前に出来た雪の山を登るために足をかけると、雪の柔らかさを感じた。その踏みごたえに嬉しくなって一気に外へと出たが、勢いよく身を乗り出したせいか前のめりに転がってしまう。
溶け始めてまもない粉雪が宙に舞ったかと思うと、太陽の光に反射してキラキラと輝きながら落ちていく。
「びっくりしたぁ・・・」
日の傾きから察するに恐らく六時といったところだろうか。早朝のこの時間にはまだ人影は無い。しかし、彼女のものではない足跡が一つ、雪面にくっきりと足跡が残っている。
それを見つけた時、彼女の表情は太陽のように明るくなった。
足跡は、彼女とそう大差ない十二歳ぐらいの大きさだ。そうなると、この村には一人しかいない。
こみ上げる嬉しさを感じつつも、急に吹く冷たい風に自分の目的を思い出す。玄関に滑り戻って靴を履き、鋤を持って朝の寒気で家族を起こさないように扉を締めた。
彼を追いかけよう。でも、それはもうちょっと後。
人一人通る隙間を作るのは意外と難しい。
彼女の作る道はどんなものだろうか。




