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青い霞

作者: 奏汰

2028年。日本全国で原因不明の病気が猛威を振るった。



有能な研究者達によって、それが新種のウイルスのよるものということが各種メディアを通じて発表された。



それによると、そのウイルスに感染してすると、風邪に似た症状がではじめ、その後高熱により1ヶ月以内には確実に死亡する。



未だワクチンの開発も進んでおらず、感染者はただただ死を待つだけであった。














「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



私は、驚くばかりで、何を言っていいのか分からなかった。



だって・・・あなた・・・・・・、浮いてる・・・よね?



『初めまして、水野葵さん。』



「・・・ふぇっ?えっ、なんで私の名前、知ってんの・・・?」



私は、今夢でも見てるのか・・・そうだこれは夢なんだ!



そう思いながら、右の頬をつねると、痛みが走った。



私は、つねった所を手でさすりながら言った。



「あの・・・あなたは・・・。」



『私は、人の願いを賜る者。そして、叶える者。私に、あなた達のような名前というものはありません。』



その人は、全身に青いローブのようなものをまとっていた。



その人はしっかりと足があるのに、浮いてる。



『あなたの願いは、3つだけ叶います。さぁ、どうぞ。』



「えっ・・・3つ・・・え・・・そんな急に言われても・・・・・・あっ、お兄ちゃん。お兄ちゃんを!治してあげ・・・。」



言いかけて私はお兄ちゃんのあの言葉を思い出した。



すごく悲しい目で言った、お兄ちゃんの言葉。








『なぁ葵。人って、死んだらどうなるのかな。何も見えなくなるのかな。・・・なぁ・・・葵・・・俺な・・・もう、この世界、好きじゃなくなったんだ・・・。どうしたら・・・いいのかな・・・。』







お兄ちゃんの泣いた顔を、初めて見たんだ。



あんなに明るかったおにいちゃんが、なんか違う人に見えた。



あれって・・・死にたいって、こと・・・。



少し前に、おにいちゃんはウイルスに感染した。



今は病院で、治療を受けているけど・・・。



けど・・・もう何もしなくても、お兄ちゃんは・・・。







「ねぇ・・・死ぬのって・・・怖いよね・・・?」



私は悲しい顔をしていただろう。彼女はさっきまでの穏やかな顔を曇らせた。



『普通の人はそう思うでしょう。私の知識の中では、人の命は一度きりとありますから。』



「そう・・・だよね・・・。分かった・・・、私の願い、いいですか?」



『えぇ。どうぞ。』













――――――――――――。













水野和樹。



ウイルスに感染してもうすでに1週間が経った。今日は症状もいくらか穏やかだ。



しかし、俺は分からない。



俺は今、死にたいのか、生きたいのか。



いつから『死にたい』なんて思い始めたのだろう。



その始まりさえも忘れている。



いじめられたことなんて一度もないし、友達だって普通の人と同じようにいる。



きっと知らない間に、この世界に飽き飽きしていたんだ。



どうしようもないこの世界に。



だから、『ウイルスに感染』がなぜか“朗報”に聞こえてしまったのだろう。



けれど俺には、“守らなければならない人”だっている。






そんな時、いつものこの薄暗い部屋の空気が、一瞬潤うのを感じた。



そいつは知らない間に、俺の前に姿を現していた。



「あんた・・・どうやって・・・・・・誰だ・・・??」



『私は、人の願いを賜る者。そして、叶える者。名はありません。』



そうか・・・今日は初めて“幻影”というものを見た。これも、担当の医師に報告しなくてはいけない。



『あなたの願いは、3つまで叶います。さぁ、どうぞ。』



そうか・・・“幻影”に願いなんて、子供じみた話だが・・・。



「じゃあ、そこの枯れた花、また咲かせてくれないか。」



冗談交じりに言ってみた。



これは、葵が、俺のために買ってきてくれた花。



なんという花かは聞かなかったけど、白くてきれいな花だった。



『分かりました。では・・・』




そう言うと彼女は両手を水をすくうような形にした。両手からは、なにやら青白い光の玉のようなものが浮いている。



その光は、枯れた花へと飛んでいき、その光を浴びた花はみるみるうちに元の白い花へと戻っていった。



俺は心底驚いた。まさか・・・



「本当に・・・叶えてくれるのか・・・?」



『えぇ。残りは後、2つとなりました。』



まさか、本当に俺の願いを・・・。




『じゃ、じゃあ!ウイルスを!このウイルスを・・・あっ・・・。』



俺って・・・死にたかったんじゃ・・・。



まったくの優柔不断。こんな性格も、『死にたい』と思った原因のひとつだと今気付いた。



「なぁ、これは、願いとかじゃないけど、人って死ぬとどうなるのか、知ってるか?」



『いえ・・・。』



「そっか・・・そうだよな・・・。」




そんな時、病室のドアのノック音が響いた。俺はとっさに彼女を見た。



『心配ありません。他の人に、私が見えることはありませんから。』



それを聞いてなんとなく安心した。



「どうぞ。」



その声と同時に入ってきたのは妹の葵だった。



「今日は元気そうだね。・・・そんなことない?」



「いや、今日は元気みたいだ。もしかしたら治ったか?」



「じゃあ退院だね!」



「そうだな、医者に聞いてみるよ。この厚い壁壊して出てってもいいですか?ってな。」




こうやって、いつもありえない話をして俺達は笑う。



葵は俺がウイルスに感染してここに入院してから毎日、学校が終わるとすぐ俺の所に来てくれる。



それだけが、俺の一日の中での楽しみだった。



「あっ!カスミソウ!また咲いてる!」



「かすみそう?」



「その花の名前だよ。」



葵が指差したのは、さっき俺の願いでまた咲きだした花だった。



「これカスミソウって言うのか。いや、その、今日の朝の牛乳かけたら、なんかまた咲き始めたんだよ。そうか〜白さが戻ったんだな〜。」



と、ありえない嘘をつく。



けど葵は、そうなんだ〜、と納得したような顔を見せた。とりあえず一安心だ。



「あっ、今日ね!学校でね、国語のじか、ゴホッ。」




その時、葵が咳払いをした。



「おい、大丈夫か?」



「うん・・・大丈夫、なんか今日変な感じして・・・ゴホッ、ゴホッ!」



「おい!葵!」



その場に倒れた葵は、ひどく咳き込んでいた。まさか・・・



「葵!待ってろ!」



俺はすぐベッドの横のナースコールのボタンを押した。



葵の咳は止まる気配がない。



「葵!大丈夫だから!今医者が来るから!それまで、ゴホッ・・・ゴホッ!」



俺まで咳き込んでしまった。今の俺がウイルスに感染していることさえ忘れていた。



それより、葵が・・・。



その時、顔にマスクをかぶった医師と看護師が病室へと入ってきた。



医師達は、俺の妹が倒れているのに少し驚いている様子だった。




「早く!妹を!早く!!」



医師達はすぐさま葵を担ぎ、病室を後にした。



病室には、俺の咳だけが響いていた。



なんとなく分かる・・・葵はきっと・・・。







少し落ち着いたとき、彼女を見た。



彼女は悲しい顔をしていた。



「なぁ・・・分かったんだ、人は死ぬと・・・どうなるのか。」



『えっ・・・。』



「死んだやつは死んだやつでもう戻ってこれない・・・ただ・・・この世には・・・大切な人を失った悲しみで、涙を流す人がいる。妹がいなくなる怖さを、俺は今始めて知った。今の俺には、自分がいなくなるよりも妹がいなくなる方が怖いことに気付いたんだ。それなのに俺は・・・葵もきっと怖かっただろうに・・・それなのに俺は・・・自分から死にたいだなんて・・・。」



俺は大粒の涙を流していた。



それは自分のための涙でもあり、葵のための涙でもあった。






その時、病室のドアのノック音が響いた。



どうぞ、と言うと俺の担当医が部屋に入ってきた。マスクは、していなかった。



俺は、とっさに涙をぬぐった。



「妹さんのことですけど・・・、今は君と同じような特別病室にいます。今はだいぶ落ち着かれていて、話もできています。それで・・・薄々感じてるとは思いますが・・・妹さんは・・・やはりウイルスに感染されているようです。」



あまり聞きたくなかった言葉だったけれど、やはりそうだった。



俺は下を向き、涙をこらえていた。



「あと・・・葵さんからの伝言が。」



「伝言・・・?」



「はい・・・、『私達、死ぬまで生きよう』と・・・。」



「私・・・達・・・・・・」






俺は声を上げて泣いていた。



葵の痛み、苦しみ、すべてを俺が背負ってやりたい。



葵・・・を救ってやりたい・・・。







どのくらい泣き続けていたのだろう。



もう医師の姿もなく、彼女がいるだけだった。



涙が枯れたことを確認すると、少しかれた声で俺は言った。



「俺の願い・・・聞いてくれるか?」



『はい・・・どうぞ。』





「・・・この世界のウイルスをすべて消してくれ。この世界にいるすべてのウイルス感染者を救ってくれ。」





『分かりました、では・・・』



彼女の手の上には大きく青白い光の玉が浮いていた。



その青白い光の玉は次第に辺りを包み、やがては俺を包んだ。



俺は見たこともない白い世界の中にいた。












―――――――――――。











『私は、人の願いを賜る者。そして、叶える者。あなたの願いは1つだけ叶います。さぁ、どうぞ。』



「えっ・・・これって・・・?」



『お兄様からです。あなた方はよく似ているのですね。』



「えっ・・・お兄ちゃんが。」



『はい。しかしあなたが、3つまでの願い事をお兄様に差し上げる、とおっしゃった時には驚きました。そんな方、いままでいらっしゃいませんでしたから。しかしあなたのお兄様もまた、残り1つの願いをあなたに差し上げるとおっしゃいました。あなた方は、本当に素晴らしい兄妹でいらっしゃいますね。』



「へへっ、まぁね。あっ、ひとつはウイルスのことでしょ?じゃあもうひとつって・・・。」



『あの、かすみそうです。』



考え込む私に、彼女はそう言った。



「あっ、あの花はあなたが・・・やっぱ牛乳じゃ花は咲かないか。でも、なんとなく分かってたけど・・・でも本当、ありがとうございます。」



『いえいえ、私はお兄様の願いを叶えて差し上げただけですから。けれど、お兄様があの時ウイルスを消すという願いを言わなかったら、だれも助からなかったでしょう。』



「けど、信じてたから。おにいちゃんは、自分のために、できれば私のためにも・・・生きてくれるって信じてたから。」



『そうですか。やはり、素晴らしいご兄妹ですね。そういえば、まだ一つ願いが残っていますよ。』



彼女はそう言って微笑んだ。んっ・・・“彼女”?あっ!



「そうだ!はいはい!願い言います!」



『はい、どうぞ。』



「あなたに名前をつけてあげたい!」



その時彼女は前と同じような驚いた表情を見せた。



『えっ・・・私の・・・名前、ですか?でも・・・そんなこと・・・。』



「いいの。だってなにかあなたに恩返しがしたくって。私達を助けてくれた人だもん。」



『私はあなた達の願いを叶えただけに過ぎませんので・・・ですから・・・。』



「これは決定事項ですよ。ふふっ。じゃーどんな名前がいいかなぁ・・・。」



『仕方、ありませんね。』



そう言って彼女は笑った。青いローブが輝いて見えた。



「あっ!私の名前!」



『えっ?』












――――――――――――――。













私は、この世界で、涙を流す人の下へと、舞い降ります。








そして、今日もまた。









『私は、人の願いを賜る者。そして、叶える者。名は、“あおい かすみ”といいます。』


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

いろいろおかしな部分があるかと思います。

高校生の頃に書いた小説を少し修正してみました。

これからいろいろ勉強して皆さんのような小説を書けるようになりたいと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全体的に読み易く、また、読後も後味が良くて、すっきりとした印象がありました。 しかし、この内容でしたら、2028年に原因不明の病気が云々というSF的な設定でなくても良いのでは?現代の不治の病…
[一言] ええと、今作読ませて頂いたんですけど、内容、ストーリーは良かったと思います。 三つの願い事という設定は多種多用で沢山ありますけど、今作の使い方は読んだ経験が無いので新鮮で楽しめました。 あま…
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