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そんなこんなで、授業での勘違いをきっかけに、わたしと安宅田さんは友達と言えるような関係になりました。
授業の合間にとりとめのない話をして、時たま一緒にお昼ご飯を食べたりして。けれど、あの授業からこちら安宅田さんの笑顔はついに拝めずにいました。
さらによくないことには、わたしと話すようになったことが災いしてか、生徒たちが安宅田さんに奇襲を仕掛けるようになったのです。奇襲、というのはつまり不意打ちの告白でした。
ある時期を境に、彼女の周りでにわかに告白ブームが巻き起こったのです。下駄箱はポストと化し、安宅田さんの机には常にひとつふたつとプレゼントが詰め込まれていました。下校の際にはだいたい中庭か屋上に呼び出され、彼女をして好きだと言われない日はなかったと言わしむるほどの状況が続いたのです。
安宅田さんはいつも通りの無表情でさらりと言ってのけましたが、わたしは内心気が気ではありませんでした。
もしも誰かの告白が安宅田さんの心に届いてしまったら! いいえ、それだけではありません。もしも不恰好な告白をしたひとがいたとして、安宅田さんが思わず笑ってしまったら!
この学校では、もしかしたらこの世界でもわたしだけが知っているあの笑顔が、わたしだけの笑顔が、誰かのものになってしまうのです。ああ、その恐ろしさと言ったらありません。
ここに至って、わたしの中には焦りと同時に疑念が沸き起こっていました。
もしかしたら、幻を見たんじゃないか。あの安宅田さんが自分にだけ笑顔を見せてくれるのだろうか。わたしがそう望んでいるだけじゃないのか。
そんな負の連鎖を断ち切るために、わたしは思い切って決戦を挑むことにしたのです。
――それが、バレンタイン会戦でした。