意外な事実と複雑な気持ち
「夏だ!海だ!水着だーーーー!!」
ショウヘイは海に向かって叫んでいる。そして後ろを振り向いて、不満そうに吐き捨てた。
「何で水着じゃないんだよ」
「何で水着じゃないとダメなんだよ」
パラソルの下のシートの上に座って、マチがショウヘイに言い返す。
マチは緑のチェックのシャツに白のタンクトップ、それにデニムの短パンだった。
「海だぞ!海は水着に決まってるだろうが!お前は一体何しに来たんだ!!」
(そんな事言われても…)
ショウヘイは不満そうにマチに訴えるが。マチも不満だった。別に海に来たくて来た訳ではなかったからだ。
マチは嫌々ながらも、あの時のショウヘイとの約束を守っていた。
いや、本当はその場限りで終わらせて、シラを切るつもりだった。
あれからショウヘイがいつ来てもいいように、ちゃんと鍵をかけてマチは細心の注意を払っていた。が、ハジメだと安心してドアを開けてしまっていた。
すると目の前にはハジメとショウヘイ様御一行がマチを出迎えた。
まさかハジメが自分を裏切ってショウヘイに荷担するなんて−−、マチには思いもよらない事だった。
マチは殺意のこもった目でハジメを睨んでいる。ハジメはその視線が痛かった。
本当はショウヘイに手を貸すつもりはなかったのだが、マチは引きこもりで不健康だと思い、太陽に当ててやりたかったのだ。マチの事を思ってハジメはしたのだが、マチにはそれがお節介だった。
海に来ているメンバーは、いつものメンバーのショウヘイとハジメ、それとカズマ、ショウヘイの元彼女のユイにその友達のマリコ。そしてショウヘイの妹のチエリとマチの7人だった。
そして他にも、その他大勢の人が海に来ていて、マチは人に酔っていた。
シートの上にバスタオルを敷き、マチは横になってぐったりしている。
「ほら泳ぎに行くぞ!せめて海には入れ」
「ムリ…そんな気力ない…」
ショウヘイがマチを無理やり引っ張って海に連れて行こうとするが、それをハジメが止める。
「いや、人に酔って調子悪いんだからムリだって…」
「マチの事だから面倒臭さくて仮病を使ってる可能性が高い!いやむしろ仮病だ!!」
ショウヘイの言い分には一理ある。マチの事だからありえない事もない。だが−−−、
「こりゃ本当だよ。勘弁してやって」
「ちぇっ、じゃあいいよ。テメェら泳ぎに行くぞー!!」
「ちょっと待ってよ…ショウヘイ」
海に突っ走って行くショウヘイを、ユイとマリコが追い掛ける。
「マチ大丈夫か?」
「うーん…」
「何かいるもんある?」
「いや、いい…ありがとう…」
ハジメは普通にマチの頭を撫でながら聞く。それを見てチエリは嫉妬を感じ、ハジメの腕を取り、立たせるように引っ張る。
「せっかく海に来たんだし、あたし達も泳ぎに行きましょう!」
「えっ、でも…」
ハジメはマチが心配でマチを見るが、マチは「いってらっしゃい」というように手を振っている。というより、「しっしっ」と追い払っているようにも見える。
ハジメは残るつもりだったが、チエリと一緒に行った。チエリがハジメの腕を引っ張って海に向かっているのだが、密着度が高くてチエリの胸が腕に当たっている。
(うわぁ!モロに当たってる…。何なんだろう?当たってるって気づいてないのかな…?)
ハジメはどうしようも出来ず、気まずくて仕方なかった。
皆泳ぎに行き、やっと周りに人がいなくなって、マチは落ち着いていた。が、何故かカズマが残っていた。
「近藤さん大丈夫?」
「え…あぁ、うん」
マチは何でこの人いるんだろう?と思いながら答える。
カズマは色が白めの、黒ぶち眼鏡をかけた大人しそうな男だった。上に薄手のパーカを羽織っているが、水着を履いている。
それなのに何でこの人は泳ぎに行かないのだろう?行けばいいのに…と、マチは心の中で訴えていた。するとカズマはマチの気持ちを察したように、立ち上がってどこかに行った。
マチはカズマを見て、どこかで見た事があるような気がした。だが、思いだせなかった。
誰だったけ…?と少しは思い出そうとしたが、すぐに諦めた。
顔にタオルをかけて半分寝かけていたら、声をかけられた。誰かと思って見てみるとカズマで、手に持っている飲み物をマチに手渡す。
「水分はこまめに摂った方がいいよ」
「あぁ…ありがとう」
マチは起き上がって、それを受け取り飲む。
「近藤さんは泳ぐ気ないの?」
「うん…もともと来る気もなかった…」
「そう…」
マチの答えを聞いてカズマは苦笑いをする。マチは寝るつもりだったが、カズマがいるので本を読む事にした。
「ケータイとかで読まないんだね」
「うん。電子書籍を読んだ事もあるけど、紙の方がいい。本って感じがするし読んでるって感じもする。機械だと素っ気ない感じで受け付けない」
「そういうもん?」
「うん。あたしはね」
「所で話しは変わるけど…近藤さん俺の事覚えてる?」
「え…?」
マチは全く覚えていなかった。というより、初対面だと思っていた。
どこかで見た事があるような気はしていたが、あの聞き方からして知り合いなのだろう。同じ中学か高校か…可能性としては、あのメンバーからして中学だという感じがする。
「えーと…」
こんな言葉で時間稼ぎをして、何とか思い出そうとしたが、マチはやはり思い出せない。そんなマチを見て、カズマは哀しそうにつぶやく。
「やっぱり…覚えてないんだ…ヒドイな…」
「え、あ…いや…、−−−ごめんなさい…」
マチはとりあえず素直に謝った。
「うわぁ…余計傷つくよ…」
「え!?いや、待って!名前教えて…、そしたら思い出せる(かも)」
カズマはマチを疑わしげに見ている。
「いや…でも名前教えてもし思い出してもらえなかったら嫌だし…」
カズマは少し面倒臭さかった。マチは腕を組んで、険しい顔でカズマを見て考えた。
(うーん…ダメだ。思い出せない…)
穴があくほど見つめたが、やはりいくら考えても思い出せなかった。
一泳ぎしたショウヘイとハジメが少し前に戻って来ていて、マチとカズマが仲良く話しているのを傍観していた。
「何か、仲良くね…?あの2人…」
「うん…俺にもそう見える…」
2人にはあれが、仲良く見つめ合って楽しく過ごしているかのように見えた。
「何か楽しそうだな…」
「うん…楽しそうだ…」
ショウヘイが抗議するようにハジメに言う。
「何か納得いかねーんだけど!」
「そんなの俺に言うな!」
だがハジメも、何だか納得がいかなかった。カズマとマチに共通点があるとは思えない。
「カズマ〜」
ショウヘイが邪魔をするように、カズマの名前を呼んで2人の間に割って入って行く。マチはショウヘイがカズマの名前を呼ぶのを聞いて、そして思い出した。
「あぁぁぁ!!相馬カズマ!!」
マチは立ち上がってカズマを指を差し、驚いている。
「そう!思い出した?」
カズマはマチがやっと思い出してくれて、嬉しそうに聞く。
「いや…そんな名前の人がいたなって…」
マチは名前を思い出しただけだった。
「ヒドイよ!俺達付き合ってたのに!!」
「え!?」
そこにいる3人全員がカズマの発言に驚いた。
「おい!マチどういう事だ?」
ショウヘイがマチの肩を激しく揺すって聞くが、そうは言われてもマチにも解らない。
「え、いや…」
あんな発言をされて、知らないとは言えないマチ。今も一生懸命に思い出そうとしているが、全く思い出せない。
(うわぁ…ヒドイな…あたし…)
これで思い出せなかったら、さすがに自分は最低だとマチは思った。
ショウヘイが激しくマチを問い詰めている間、ハジメは呆然としていた。
マチがカズマと付き合っていたというのを、初めて聞いたからだ。
2人からそんな話は今まで1度も聞いた事がなく、少し傷ついていた。
(何で2人とも言ってくれないんだよ!てか、いつ付き合ってたんだコイツら…)
「あぁ…!」
するとマチが、何か思い出したように声を上げた。
「思い出した。あぁ、カズマだカズマ!全然違うから解らなかった」
マチはカズマの肩を、バシバシ叩きながら懐かしそうにしている。
「背が高くなったね。何か大人っぽくなってるし、そんな眼鏡かけてるから別人だよ」
「そうかな?確かに昔よりは背が伸びてスッキリはしたけど…そんな解らない程じゃないと思う…」
「え?そうかな?だいぶ印象違うよ。うわ〜懐かしい」
2人は和気あいあいとしている。ショウヘイが気になっていた事を聞いた。
「お前らいつ付き合ってたの?」
「高校の時」
マチが平然と答えた。それを聞いて、ハジメはある事に気づく。
「それじゃあ俺がフラれた原因はこれか!?」
「え?」
今度はハジメ以外の3人が同時に聞き返した。
ハジメは驚きのあまり、つい口に出してしまっていた。
「いや…何でもない…」
ハジメは誤魔化し、話を変える。
「てか、お前付き合ってた奴の名前忘れるなよな…」
「え…あたしほとんどの人の名前覚えてないよ。中学なんか今関わってない人全員、キレイすっぱり忘れちゃってるよ。あはははは」
あっけらかんと笑い飛ばすマチに、ハジメは呆れた。他の人がマチを覚えていないように、マチも他の人を覚えていなかった。
「でも本当懐かしい。元気してた?」
「うん、まぁそれなりに。マチは?」
ハジメはカズマがマチを呼び捨てにしたのに、反応する。
(カズマがマチを呼び捨てにした!…何か変な感じ…)
ハジメが違和感を感じている間、マチとカズマは懐かしそうに昔話をし出す。ショウヘイとハジメはかやの外だった。
ショウヘイはふて腐れてまた泳ぎに行ったが、ハジメは残って2人を観察していた。
こんなにも他の男と楽しそうに話しているマチを、初めて見た。何だかハジメは、自分と話す時とはえらく違うような気がした。
それに観察していて解ったが、マチは警戒心が薄い。カズマとの密着度も高いし、ボディータッチがやたら多い。ショウヘイみたいにあからさまな奴には距離を取るのに、カズマみたいに害がなさそうな奴には、平気で近づいている。
さっきのチエリもそうだが、無意識にもほどがある。警戒し過ぎるのもあれだが、もう少し警戒心を持つべきだとハジメは思った。
マチは気づいてないみたいだが、現にカズマは明らかにマチに好意を持っている。
ここにいても話に入れそうにないし、それに何だかこの場にいたくなくって、ハジメも泳ぎに行った。
そしてハジメは、少し複雑な気分だった。