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ニートな彼女  作者: 反兎
6/12

謎な男と気になるハジメ


マチがハジメの仕事先に来てから、2人の関係は元通りに戻った。


ハジメは、その事は嬉しく思っていたがあの時の代金は痛かった。それでもあれのお陰で仲直りできたのだから、安いもんだと思うようにしている。

だが、ハジメは(いつか必ず仕返ししてやろう)とは思っていた。



今日は肉じゃがを持ってマチの所に行く。


コンコン


「今日は肉じゃがだぞ〜」

そう言いながら入るハジメ。それを聞いて、胡座をかいてテレビを見ていたマチは振り返って言う。

「おぉ、毎回毎回悪いねぇ〜」

振り向いたマチの顔を見てハジメは驚く。

「おまっ、どうしたんだよその顔!!?」

「え…?あぁ頭痛くて」

「頭痛いってのは解ったけど…、それどう見ても貼り過ぎだろ…」


マチは、顔全体に冷えピタを貼っていた。

ハジメはいつものようにマチの横に座る。もうここがハジメの定位置だ。


「浮腫んでんだよ」

吐き捨てるように言うマチ。

「え…それで治んの…?」

「うん」

「ふーん…」

疑わしそうにマチの顔をまじまじと見るハジメ。

(異様な光景だな)と思っているとハジメはある事に気が付いた。


あれ?何か−−−


「マチ太った?」

何の気なしにハジメがそう聞くと、マチはビクッと反応し固まった。

そしてボソッと「やっぱりそうか…」と言い、マチは嘲るようにハジメを見て言った。

「よく気付いたな…、褒めてやるよ」

「いや、別に褒められても…。お前もっと野菜とか食事に気を使った方がいいよ。あんな食生活してたら太って当然だろ」

ハジメは笑いながら注意する。するとマチはハジメを蹴った。

「イテッ!!何すんだよ!?」

いきなり蹴られた事を抗議すると、マチは何回も続けてハジメを蹴った。

「イテ、イテ!!止めろって!!!」

「こっちが我慢して無かった事にしてやろうと思ってたのに…」

そう言って蹴るのを止めて、

「こうなったのもお前が原因なんだぞ!!」

と、また訳の解らない言い掛かりをつけてくる。


「はぁ!?何で俺なんだよ!俺が一体何をした!!?」

「カラオケ屋でバカみたいに料理持って来やがって…。あれ、お前わざとやっただろ!!」

(あ、ヤバッ…バレてたのか…)

ハジメは気まずくて目を逸らす。マチはそのまま続けて言う。

「多分いやがらせしてくるだろうとは思ってたんだよ。けどまさか、あんなに持って来るとは思わなくて…、何か残すの悔しいし、だから全部食ってやろうって…、意地でも全部食ってやったわ!!」

「それは−−お前が意地張るからいけないんだろ…。多かったんなら残せばいいじゃん」

「お前があんなに持って来るからだ!!それに私が残すの嫌いって知ってるだろ」

それは−−−−、否定出来ない。


マチは出された物は必ず残さず食べる。不味くても食べる。(不味いとは言うが…)

それが作ってくれた人への最低限の礼儀だと思っているし、食べ物を無駄にするのが嫌いなのだ。

外食で残している人を見ると「残すなら食うなよ」と怒っていた。


そんな事はすっかり忘れていたハジメ。困らせるつもりしかなかった。

ハジメは(ここは一応謝っとこう)と思い、対して悪いとは思ってないがマチに謝る。

「ごめん…悪かったよ…」

とりあえず謝ったし、ハジメはこの事はこれで終わると思っていた。が、そうじゃなかった。


「お前、別に悪いと思ってないだろ」

「なっ…、そんな…ちゃんと悪いと思ってるよ!!失礼な!!」

(ちょっとは…)とハジメは心の中でつぶやく。

マチは真意を確かめるようにハジメを睨む。

「余計な事言わなきゃ気付いてない振りできたのに…、そう簡単に許してもらえると思うなよ。私が元に戻るまでは絶対に許してやらないからな!」

そう宣言して、マチはハジメを恨めしげに見たまま言う。

「あれから満腹中枢おかしくなって、食生活が乱れまくったんだぞ!!」


(元々乱れてたと思うんですけど−−)そう言いたくなったが、ここは火に油を注ぐだけになるからハジメは我慢する。


「なんか知らんが異常な食欲が湧いてきて、気が付いたら吐きそうな程食べてて…、食べ過ぎたせいなのか頭は痛くなるし…それでも食欲は治まらないし…、もう最悪なんだからな!!」

マチは恨めしげに言う。


それは−−−、俺のせいなのか?ただ口が卑しいだけだと思うのだが……


ハジメはどう言っていいのか判らず、

「じゃあこの肉じゃがどうする?」

と聞いていた。

マチは返答に困るみたいで、ハジメは助け船を出す。


「ほら、ダイエットしなきゃいけないんだったら芋はカロリー高いだろ」

宥めるようにハジメは言う。

「でもオバちゃんがせっかく作ってくれたのに…」

「そんなん気にするなって。母さんなら気にしねーよ」

そう言ってもマチは申し訳なさそうな顔をしている。

食べたくない訳じゃないのに親切を断るのは辛いのだろう。

辛そうにしているマチを見るとハジメは自分が本当に悪い事をしたと思った。

どうにかマチの気持ちを軽くしてやれないかと考えていると、ある事を思いついた。


「あ!隣の住人にやれば?」

「え…?何で??」

「それなら別に問題ないだろ?お前は母さんの親切断らずに肉じゃが食った事になるじゃん」

「え…そうなの?」

ちょっと訝しそうに聞き返すマチ。

「そうだよ!!隣の奴にやろう」

ハジメは何とかここを乗り切りたかった。

というのも、さりげなくこのまま隣(というかこの敷地の持ち主)の男の事を聞きたかったからだ。

ハジメはずっとあの男の存在が気になって仕方がなかった。

一体マチとはどういう関係なのか?

だいたい何故マチがここに住んでいるのか!?


最初っからずっと気になってはいた。

あの男の存在は謎過ぎて…、けどマチには何故か聞きづらくて聞けずにいた。


だからここいらで隣の男の話題を持ってきて、さりげなーくどういう関係なのかを聞きだそうという作戦だった。


「そうだな…、そうしよっかな。多分プーさんろくなもん食ってないだろうし」

マチが乗ってきた。

(プーさん!?プーさんって何だよ…あだ名にしてもプーさんって…)

ハジメの思惑通り一つ情報を得た。だがまた一つ、疑問も生まれた。


まあいい、この調子でどんどん引き出してやろうと思ったら、

「じゃあハジメ持ってって。今ならプーさん居ると思うし」

とマチはハジメに持って行かせようとする。

「何で!?自分で行けよ!!」

ハジメは当然の主張だと思った。あの男と知り合いじゃないし、話した事もない。

もし何か話した事があるとすれば、最初ここに来た時に「煩い」と怒鳴られ「スミマセン」と言ったぐらいだ。

この初対面の時の印象が良くなかったからハジメは行きたくなかった。

だがマチは自分の顔を指差して言う。

「これで行く訳にはいかないでだろ」

確かに−−、それで来られたら俺もビックリする。だが…

「取ればいいだろ」

「いやだよ。貼ったばっかだもん。1回剥がすと粘着力なくなる」

(このワガママ娘が!!)


こうしてハジメは対した情報も得られず、隣の男の所に肉じゃがを持って行く事になった。


玄関前に立ち表札を見る。

(あ、速水っていうんだ…へー…初めて知った…)

というより「今なら居ると思う」って…、

今日は平日でしかも今は昼過ぎだぞ。普通なら働いてる。(まぁ、俺は今日休みだけど…)

もしかして−−、働いてないのか?だからプーさんなのか??ニート仲間なのか!?


ハジメは考えてても仕方がないと思い、とりあえずチャイムを鳴らす。


ピーンポーン


少し待ったらマチの言う通り男が出て来た。

(本当に居た!!?)

ハジメはビックリし過ぎて、すぐには言葉が出てこなかった。

「あ………」

男は訝しそうにハジメを見て言う。

「何か?」

「あ、あ、あの…これぇをですね、あ…あの肉じゃがなんですけど…」

(やっぱりこの人もニートなのか!?ニートなんですか!??)と思うと変に緊張してしまう。

何て言っていいのか判らず、しどろもどろになりながらも続けるハジメ。

「良かったらコレ食べて下さい!!」

肉じゃがが入ったタッパーを男の目の前に差し出す。

これではまるで好きな人に手作りチョコを渡しているみたいだ。

(ヤバイ!!変な勘違いされたかも−−−)

ハジメは焦った。ところが男は、

「いいの?」

「え、あ、ハイ!良かったら…」

「それはどうも、ありがとうございます」

と丁寧に頭を下げ、肉じゃがを受け取った。

ハジメは受け取ってくれた事に安心し、意外にも男が丁寧で少し好感が持てた。


「でも俺そういう趣味ないから」

男はそう言って家に入って行った。

ハジメはしっかり男に誤解されてしまった。


最悪だ−−−−−。


誤解を解きたかったが説明をすればする程いい訳としか思われなさそうで、ハジメは何も出来なかった。


落ち込んだままマチの所に戻る。部屋に戻って来たハジメを見てマチが聞く。

「プーさん居た〜?」

「あぁ…、居たよ…。ちゃんと受け取ってくれた…」

「そっか、なら良かった」

マチは嬉しそうに言う。ハジメは落ち込み過ぎて気力がなくなり、家に帰る事にした。

「ごめん、俺帰るは…」

「おぉ〜。て、何か大丈夫?」

「うん…大丈夫…。じゃあまたな」

「うん…、気をつけてな〜」

あまりのハジメの落ち込みようにマチは気になったが、あえて何も聞かずに見送った。



ハジメは家に帰ってから、ご飯も食べずに自分の部屋の布団に潜っていた。


大丈夫…。あの人口が堅そうだし、それに知り合い少なそうだし、あの人が勘違いしたぐらい別に問題ない。そう、ない。ない……とハジメは帰ってから夜になるまで自分に言い聞かせていた。

といっても落ち込みながらも寝ていたので、そのお陰で少し気が楽になっている。

(ご飯でも食べよう)と思って起き上がると、


バンッ!!


凄い勢いで襖が開く。

ハジメは死ぬほど驚いた。

「あんたお風呂は?」

「おまっ…もっと開け方があるだろ!!てか開ける前に確認とかしてくんない!?」

「誰がお前だ。口の聞き方に気をつけろ。お前にお前なんて言われたくねーんだよ」


ハジメの抗議を一切聞かないこの人物。

ハジメの姉のミキである。マチの姉と同じ名前だ。

この2人は地元ではちょっとした有名人でWミキの名称で通っている。

ハジメは幼い頃から刷り込まれている為、ミキに逆らえない。


「スミマセン…入ります」

ハジメの返答を聞くとミキは去ろうとするが、何か思い出したみたいにハジメに聞く。

「あんた今日もマチちゃん所行ったの?」

「行ったけど…何で?」

「あんた好きなんでしょ?」

「はっ…?」

ハジメはそう聞かれて返答に困る。

マチの事は好きだ。でもミキの聞いてる「好き」が女としてなのか人としてなのか判らず、言い淀んでいると…


「まぁ、どーでもいいけど」

と聞くだけ聞いておいて答えを聞かない。

(じゃあ聞くなよ!!)とハジメは思うが口が裂けても言わない。


「先輩元気だった?」

「先輩?」

ミキは主語がないから解りにくい。

「マチちゃんの家の持ち主、ほら…」

「あぁ〜速水さんの事?」

「そうそう速水!名前忘れてた」

(先輩の名前忘れるなよ!!てか…)

「知り合いなの?」

「あぁ?2コ上の先輩」


意外な所に情報源を見つけたハジメは食い付く。


「あの人いったい何者?何でマチあそこに居んの??」

あまりに速水に食い付くハジメを見て、

「あぁ〜、気になるの?」

ミキはからかうように聞く。ハジメはムカついたが、速水の事が知りたいので我慢する。


「別にいいだろ…、いいから教えて下さい!!」

「素直でよろしい。実は先輩はマチちゃんの−−−」

ミキは気を持たせるように間を開ける。

(早く言えよ!!)

ハジメはイライラしながらも待つ。

ところがミキは意図的に最初は間を開けていたが今は違っていた。

(あれ?何だったっけ?)と忘れていたのだ。


そんなこととは思わずハジメはやきもきする。

(とっとと言えよ!何なんだよアイツ!!)

もう爆発寸前だった。


「−−−あぁ!従兄弟だ」

とミキは思い出したみたいで突然言う。突然言われたハジメはよく理解出来なかった。

「へ?」

「だから従兄弟。良かったわね〜ハジメ」

意味ありげな笑顔をするミキ。思い出せてスッキリしたミキは、もう用がないので去って行く。


「従兄弟…」


こうしてハジメは意外にも簡単に速水とマチの関係を知る事が出来た。

あんなに気になってしょうがなかったが、何とも呆気ない答えだった。


ハジメは肩透かしを食らった気分だった。




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