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ニートな彼女  作者: 反兎
4/12

溜め息と仲直り


あの一件以来、マチと微妙に気まずくなった。


マチがハジメにお使いをさせる事もなくなったし、ハジメもマチの所を避けるようになった。


(こんな感じは嫌だな−−)とは思いつつ、どうする事も出来ないでいるハジメ。


悩みはあれど仕事は待ってくれない。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

入って来たのはオシャレな可愛いらしい女の子2人組。

「2人で」

左手でピースをしながらいう女の子は可愛いかった。

(マチにも少しぐらいこの可愛さがあれば……)と思うハジメ。隙あらばマチの事を考えてしまう。どうしたらいいのか判らず、このモヤモヤした感じがいつまでも消えなくてやり切れない。


「では6号室にどうぞ」

そう言いながらリモコン機材が入ったカゴをお客に渡す。

お客が居なくなったのを見計らってハジメは溜め息をついた。

「はぁ〜…」

「どうかしたんですか?」

一緒にカウンターの仕事をしていた山下さんに聞かれた。


山下チエリ。俺の友達の妹だ。

彼女は小柄で前髪パッツンのボブヘアーで目を引く程、胸が立派だ。

幼い外見にその胸はなんともいえな−−−いや…、止めておこう。

「ちょっと友達とごたごたして…」

「友達って男の人ですか?」

そう聞かれてハジメは一瞬言い淀む。

「え…あ、いや−−女…」

「そうなんですか」

チエリは入り口の方を見たまま淡々と言う。ハジメは何だか気まずい空気を感じた。

(…あれ?何かマズイ事言ったかな…)

チエリは横目でちらっとハジメを見て聞く。

「その人と何があったんですか?」

「あぁ…と、えっと…何て言ったらいいのかな…?マチの為にしてたつもりなんだけど苦しめてたってか…」

さっきの気まずい空気のせいか変に気を使ってしまい上手く説明できない。

少し間が開いてチエリが言う。

「マチって名前なんですね」

「え!?」

何だかハジメは浮気がばれて彼女に問い詰められている彼氏の気分だった。

「え…いや…」


(何だか気まずい−−)


気まずい雰囲気にハジメは困っているとお客が入って来た。

(救われた!!)と思い満面の笑みで客を迎える。

「いらっしゃい−−マチ!?」

なんと入って来たのはマチだった。

「よ」

マチは右手を上げる。まるで何事もなかったようにハジメ挨拶する。

「な…え…、どうしたんだよ?」

「どうしたってここに来たんだからカラオケだろ。それ意外になんかあるの?」

ないが…、でも−−

「ひとりで…?」

「悪い?」

(いや別に悪かーねーけど…)

「何時間?」

「3時間」

「一人で3時間も歌うのかよ!?」

「いいだろ別に!とっとリモコン渡して部屋言えよ!!」

「…3号室にどーぞ」

「どーも」

マチは満足げに微笑み部屋に向かう。

「何だよアイツ…」

ハジメは今まで色々と悩んでいたのが阿呆らしくなった。そして少し安堵した。


「可愛い人ですね」


チエリが唐突に言う。

ハジメはマチが来た事に(というより外にいるマチに)ビックリし過ぎてすっかりチエリの存在を忘れていた。

(可愛い…、マチが?)

ハジメはチエリの「可愛い人」発言を聞いて笑えた。

昔のマチは、まぁまだ可愛らしさがあったが、今のマチにはそれすら感じられない。

「そうかな?俺は山下さんの方が可愛いと思うけど」

ハジメは軽い気持ちで言った。チエリはハジメの方をキッと睨み

「そんなお世辞いりません!!」

「いや本当に−−」

「あからさまなお世辞は逆に厭味です!休憩行ってきます!!」

チエリはハジメの言葉を遮り、スタッフルームに行きドアを思いっ切り閉めた。


えーーーー!!?何で?!てか休憩ないだろお前!!

本当にそう思うから言っただけなのに……(涙)


女心は良く解らん。


「はぁ〜」

ハジメは2回目の溜め息をついた。

(まぁいいや、今日暇だし)


今さらだがハジメはカラオケ屋『CURVEカーブ』で働いている。


トゥルルル…


電話がなる。3号室、マチからだ。

チエリの事もありつっけんどんな言い方になる。

「はいはい、何かご用ですか?」

「何だよその言い方。用があるから電話したに決まってんだろ」

お前こそ何だよその言い方−−

「唐揚げとポテトあと他に何かあんたのオススメのもん何個か持って来て」

ガチャ。

言うだけ言って切りやがった!!

ハジメは注文された唐揚げとポテトを揚げる。

(チクショー!何なんだよ!アイツ!!)

悪態をつきながらもマチの言う事をきく。

揚げ物をしている間にパフェを作って持って行く。


コンコン。


「失礼しまーす。お待たせしました苺パフェでーす」

厭味ったらしく作り笑顔で言い、パフェをマチの前に持って行く。

マチは何も歌ってなかった。というより本を呼んでいた。

「どーも」

「何で本読んでだよ!?」

「別にいいだろ」

「別にいいけど…せっかくカラオケ来たんだから何か歌えよ」

「お前が注文したもん持って来たらまた歌うよ」

「へいへいそーですか。じゃあもうちょい待ってろ」

ハジメは部屋から出て行く。その時ふとハジメは思った。(あいつお金あんのかな?)とやっぱりどうしてもそこが気になる。

マチは必要最低限のお金しか使わないのに今日のはちょっとマチにしては無駄遣いをしているような気がする。もしかして−−−

俺との間が気まずくなったのをどうにかしようとわざわざ俺の仕事先に来たのか?引きこもりのマチが??

そう思うと何だか嬉しかった。ハジメもあのままマチと微妙な感じになって関係が拗れるのは嫌だった。


ハジメは自然と笑顔になっていた。


−−−3時間後


「楽しかったか?」

部屋から出て来たマチに聞く。

「まぁまぁ。一人だから歌いやすかった」

(それは−−−、いいのか?)そう思いつつも、ハジメはレジを打ちながら言う。

「そりゃ良かったな。外に出た記念に料金おまけしてやるよ」

「その必要はないよ」

「え!?何で?」

まさか断られるとは思ってなかったハジメ。

そしてマチの口からありえない言葉が発せられる。


「あたしお金持って来てないから」


−−−−はい?

何言ってんのこの子??


当たり前のように言うマチにハジメは困惑する。

カラオケしに来て何で金持ってこないんだよ−−


そして気づいた。


「お前!!最初っから俺に払わせるつもりだったろ!!?」

「バレた」

笑顔で言うマチ。

「バレたじゃねーよ!!だからお前…フード注文したんだな」

「えへへへ」

そんな風に笑っても可愛くない!てか笑って誤魔化そうとしてやがる。そんな事させてたまるか!

どうやってマチからお金を巻き上げようかと考えていたら、

「じゃ、そゆ事で」

マチはさっさと帰って行く。

「おいっ!!ちょっと待て…」

ハジメは慌てて追いかけるがマチは引きこもりのくせに逃げ足が速い!!

入り口の所で追いかけるのを諦めハジメは周りを気にせず大声で叫んだ。


「どういう事だ!!!」


3号室の片付けをしていたチエリが驚いて出て来る。

「どうしたんですか!?」

「いや…、何でもない…、部屋片付けて来て」

「…はい」

チエリはまだハジメを心配そうに見ているが部屋の片付けをしに行く。

カウンターに戻ったハジメはしゃがみ込んで頭を抱える。


こんな事なら料理あんなに持ってくんじゃなかった−−−−−


実は困らせてやろうと料理をたくさん持って行った。それなのにマチは困るどころか、よく全部食えたなと感心する程キレイに平らげた。

そりゃそうだ。最初っからそのつもりだったんだから。

ハジメはお金はマチが払うもんだと思っていたし、金額を負けてやるつもりでいた。


「はぁ〜」


もう溜め息しか出ない。

こうしてハジメは今日3回目の溜め息をついた。


仲直りの代償は高くついた。




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