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ニートな彼女  作者: 反兎
3/12

正論と正論?


近藤マチ、二十歳。

今現在ニート中である。


「あはははは。これ面白いよな!!」

マチは万年床の布団の上で横になってテレビを見ている。

「なぁ、おい聞いてるのかよマチ」

ハジメはマチの方を振り返って聞く。マチは呆れ顔でハジメを見て

「何であんた毎日うちに来るわけ?」

「え…、駄目?」

「駄目ってより鬱陶しい」

「鬱陶しい」を強調して言うマチ。俺はその言葉を聞いてほくそ笑んだ。


(ふっふっふ。よしよしいい感じだ)


実はこれは俺の作戦だった。

毎日通ってマチに煩わしい思いをさせ、外の方が良いと思わせて外に出させようという作戦だ。

俺の計画は順調に進んでいる。

「そろそろ外に出たくなっただろ〜」

呪いか何かをかけるように両手を動かすハジメ。マチは俺の事を阿呆らしそうに見て、

「別に。てかあんたが出て行けば問題は解決すると思うけど」

「それは拒否する!!」

「はぁ!?何でお前が拒否するんだよ?出てけよ!!」

マチは俺を追い出そうと足蹴にする。

「やめろよ!イジメだぞ!!」

「どっちがだ!!?」

マチは背後から俺の両脇に腕を回し担ぎ上げ、ドアの方に引っ張る。

「い〜や〜だぁ〜。帰るもんか!」

「お前は子供か!!」

「子供で結構!お前がニート止めるまで毎日通い続けてやる」

ハジメは舌を出してバカにするように言う。するとマチはハジメを離した。

「じゃあお好きにどうぞ」

「…へ?」

「好きなだけ居ればいいよ。あんたが何をしようとあたしはニートを止めない」

「何でだよ!?お前ニートで恥ずかしくないのかよ!!」

「別に。てか何でニートが恥ずかしいの?」

「恥ずかしいだろ!親にも申し訳ないとか思わないのかよ!!」

「全然」

(あぁ〜、これは駄目だ…)

自覚してないというのは質が悪い−−−。

そう思っているとマチがハジメに聞いてきた。

「何であんたはニートを駄目だって決めつけるの?」

「そりゃ…、成人したらてか学校にも行ってなければ働くのが当たり前だろ。いつまでも親に甘える訳にはいかねーし、自分の事は自分でするもんだろ?」

「だから親の拗ねかじってるニートは駄目って事?」

「あぁ、自立するべきだろ」

「でも親公認なら?」

「え?」

「うちの親は子供が成人したからもう育てる必要がないと生前分与して夢の海外生活をしてるのよ。だからあたしがニートしてようが親は何とも思ってないの。大体ニートなんて働いてない主婦と一緒じゃない。人に対して家事をしてるかしてないかの違いよ」

「いや…それは−−」

(確実に違う)と言おうとしたがマチは俺の言葉を遮って続ける。

「私は今働く必要がないから働いてないだけ。それで誰かに迷惑かけた?なのにあんたはニートってだけで駄目って決め付ける。それはあんたの価値観でしょ。働いてる奴でも人間性が最低の奴だって大勢いるってじゃない」

マチはニートだが常識がない訳ではない。だから正論ぽい事を強く言われると、どうしてもハジメは弱々しく答えてしまう。

「まぁ…確かにそうかもしれないけど…、世間一般的にはこの生活はどうかと思うぞ…」

「あぁ出た!世間一般…」

マチは吐き捨てるように言う。

「世間がどう思おうが知らねーよ。何でいちいち世間体なんか気にしないといけない訳?何かする度に周りの目ぇ気にして行動しないといけないの?阿呆らしい…。世間がどう思おうがどーでもいいよ。私は今これで幸せなの。それなのにあんたは自分の価値観やら世間体を持ち出してこの幸せを壊そうとばかりする。

勝手に世間一般が決めた当たり前をあたしに押し付けるのは止めて!!」


「世間一般」という単語が出た事が気にくわなかったのかマチはキレた。


今まで俺は『ニート』というだけで良くないと思っていた。だからマチの為にも俺が(どうにかしないと)と思っていた。

でもさっきのマチの言葉を聞いて、今まで自分がマチの為にしようとしていた事は、マチにとっては余計な事でしかないと思い知らされた。

確かにマチはニートをしている事で他人に迷惑をかけている訳ではない。

俺が勝手に駄目だと決め付けてそれをマチに押し付けているだけだ。

結局俺はニートというだけでマチを見下していたのかもしれない−−−


ハジメが落ち込んでいるとマチが話しかけてきた。

「あんたが…あたしを思ってしてくれた事だから有り難いと思うよ。でもだからってあんたの価値観を押し付けられるのは嫌だ」

「…うん。分かった…」

ハジメがそう言った後、沈黙が続いたがマチがボソッとつぶやいた。

「子供は結局、親が死ぬまで拗ねかじるもんなんだよ。それが良いか悪いかは親次第だよ」


それを聞いて思った。

家庭を持ったり自立したりして邪魔者みたいに親を見捨てる人だっている。痴呆症になったり介護がいる体になったら老人ホームに入れてそれで終わりという人も。親孝行の仕方を間違えてる人だっている。

親にとって子供が立派になってくれる事が理想だと思う。それでもその『立派』というものがどういう意味なのかは人それぞれに違うだろう。



ハジメは家に帰ってすぐに自分の部屋に行こうかと思ったが、ダイニングでテレビを見ている母親を見つけて力無く帰って来た事を伝える。

「ただいま〜」

「おかえり」

母親はテレビを見たまま答える。ハジメは何の気無しに母親に聞いてみた。

「母さんは俺にどうなってほしい?」

「へ?」

母親はハジメの方を見る。少し考えた風に右手を顎にあてて上を見、

「どうって聞かれても良く判らないけど…、元気ならそれでいいんじゃない?」

ハジメはその言葉を聞いて涙目になった。そして衝動的に母親に抱き着いた。

「何!?どうしたのあんた…」

いきなり抱き着かれて驚く母親。ハジメはどうしても聞きたい事を聞いてみた。

「…じゃあもし俺が引きこもっても同じ事言ってくれる?」

「それは無理」



ですよね(笑)





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