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勝手に改編昔話

勝手に改編昔話~兎と亀編~

作者: 島地 雷夢

 それはある晴れた日の事でした。

 兎と亀が山の頂上にある見晴らしのよい場所までピクニックに出掛けました。

 山を登っていく道すがら、兎が亀にこう言いました。

「どうして歩くのがそんなに遅いんだよ」

 かれこれ一時間が経過していました。彼らはまだ山の中腹にも辿り着いていません。兎一羽だけなら一時間も掛からずに登りきる事が出来る高さなのですが、亀のペースに合わせるとどうしても歩みが遅くなってしまうのです。

「早くしろよ〜〜」

 兎は段々とイラついてきました。短気とまではいかなくても、そろそろ堪忍袋の緒が引き千切れそうです。

「ちょっと待って。これでも全速力なんだから」

 亀は呼吸を乱し、汗をだらだらとかきながら必死に兎の後をついていきます。

「ナレーター、亀は汗かかないぞ」

 いきなり私のナレーションに反応しないで下さい兎さん。分かってますよ。実物の亀は汗かきません。でもこれはフィクションですから人間、馬、河馬以外でも汗をかいてもいいんですよ。

「フィクションなら何やってもいいのかよ」

 はい。と作者が言っています。

「……生きてたのか。てっきり桃太郎に殺られたものだとばかり思ってたぞ」

 チェーンソーで浅く切られた時に死んだふりして難を逃れたそうです。

「熊かっ」

 ナイス突っ込みです兎さん。……所で兎さん。

「何だナレーター?」

 亀さんが物凄い勢いで下っていってますよ?

「はぁぁああああっ!?」

「た〜す〜け〜て〜〜……」

 亀は足を滑らせ仰向けになり、坂道を麓へ向け一直線に滑走していきました。

「ちょっお前ここまでの苦労を水泡に帰すなっ!」

 兎はスプリンターの如く綺麗なフォームで亀を追い掛けました。

「ふるぉぉおおおおおおおおおおおおぁったったったっ!?」

 しかし見た目よりも急な下り坂での全力疾走をしていた馬鹿な兎は足を木の根に 引っ掛けて盛大にすっ転んでしまいました。

「馬鹿って言うなぁぁああああっ!」

 転がり続ける兎はあまりのスピードに亀を追い越しました。

「うげっ、三半規管にダメージ受けて気持ち悪い……」

 胃の内容物を吐いて出したらたらどうですか? ある程度は症状緩和しますよ。

「ここで吐いたらローリングしてる俺の体に直撃するだろっぅぷ」

 それはそれで面白い事になりそうですけどね。

「面白くねぇよ!」

 食糞の習性があるくせに体表面が胃の内容物まみれになるのが嫌なんですか?

「兎のイメージ壊すような発言すんなっ!」

 変えようのない事実を言ったまでですよ。それより兎さん。

「何!?」

 そろそろ木にぶつかりますよ。

「はぶべっ!?」

 兎は背中を木に盛大に打ち付け停止しました。そしてそのまま気絶してしまいました。

「あ〜〜れ〜〜……」

 甲羅で滑走する亀は兎を追い越し、岩にぶつかって飛びました。山の麓どころかパーキングエリアを飛び越して二車線道路に着地した亀は甲羅にヒビが入りそうな程に強烈な衝撃を受けてこれまた気絶しました。


 〜三十分後〜


「う、う〜〜ん……」

 あ、気が付きましたか兎さん。

「あれ? 俺何してたんだっけ?」

 スノボーの如く下界へ滑り落ちていった亀さんを追い掛けていたんですよ。その最中に転んで木にぶつかり気絶してたんですよ。

「そうか。……って亀はどうした?」

 亀さんはもう山を下りきってしまいましたよ。

「そうかよ……」

 そして現在は二車線道路のど真ん中で何時自動車に轢かれても可笑しくない状態にあります。

「それを早よ言わんかいっ!」

 兎は文字通り脱兎の如く走り去り、パーキングエリアを越えて二車線道路が見える位置まできました。

「へ、ヘルプミー……」

 気絶状態から回復した亀が涙目になりながら見つけた兎にSOSを送っていました。因みに自動車がひっきりなしに行き交っています。

「ちょっと!? ここに信号機はないの!?」

 ありません。ありませんから車がひっきりなしなんですよ。

「交通量多いんだから信号つけろよ!」

 横断しようとする歩行者がいなければ信号なんていらないんですよっ!

「何で怒ってんだよ!?」

 いえ、何時も通っている一直線道路にこれ意味ないだろっていう時差式信号機が設置されまして。あれの所為で毎朝の生活リズムが狂ってしまったんですよ。

「あぁ、確かに意味ねぇ信号機ってあるよな。あと、あまりにも赤が長過ぎる信号ってのもあるよなぁ」

 ありますね。青になったと思ったら直ぐに黄色に変わって赤になるのがありますよね。

「あれどうにかして欲しいよ……じゃなくて!」

 お、ノリ突っ込みですか?

「違うから! 信号機ないのはもう分かったからそれよりも亀の奴を助けないと!」

 具体的にはどうやってですか? 自動車は全く止まる様子が見られませんよ?

「強行突破っ!」

 玉砕覚悟ですか。その心意気が気に入りました。さぁ、勇者兎よ、行き交う車の間を縫って亀さんを助けに行きなさい。

「だぁらっしゃぁぁああああ!」

 こうして、兎はクラクションを鳴らされまくり、八回くらい轢き殺されそうになりながらも亀を無事救出する事が出来ました。

「あ、ありがとう兎君……」

 亀は涙目で兎にお礼を言います。

「ふんっ!」

 兎は拳骨を亀の頭部に落とします。

「な、何するのさ」

「何であんな所まで滑り落ちてんだよ!」

「いや、滑り落ちたんじゃなくて」

「言い訳は無用だ!」

 その後十分程兎は一方的に捲し立てました。

「ご、御免よ」

「そもそもお前が歩くの遅いからあんな事態になったんだよ! 少なくとも俺と同じ歩行速度ならもう頂上に着いてピクニックを楽しめてたんだぞ!」

「だから御免よぉ」

「……決めた」

「何を?」

「お前を最低でも俺よりちょっと遅いくらいまでの移動速度にさせる!」

 兎は握り拳を作って豪語しました。

 こうして、兎による亀の移動速度強化トレーニングが始まりました。

 あ、因みに言っておきますけどこの改編された話の兎と亀は仲良しです。兎は亀を虐めたり罵ってたりしません。時たま堪忍袋の緒が切れて暴力に走りますが基本的に仲良しです。なので別に兎と亀が競争したりしませんのであしからず。

「それを結構経った時に言うのか」

 気にしないで下さい兎さん。気にしたら負けですよ。

「何に負けんだよ……」

 それこそ気にしないで下さい。



 トレーニングを初めて一週間が経ちました。

「いいか? 今日は後ろ足の筋力を強化するぞ」

「うん」

「まずは無難なスクワットから」

 兎の言葉に亀は顔に難色を浮かべました。

「兎君。僕スクワット出来ないよ」

「何? そこまで足筋がないのかお前?」

「違くて、体の構造的に」

「あ」

 兎は気が付きました。亀の体は二本足で立つ事が不可能な骨格をしていた事を。

「どうにかならないのか?」

「どうにもならないよ」

「地球の亀型守護獣は二本足で立てるんだからお前も行ける」

「無理だよぉ。二本足で立てるなら手足を引っ込めてそこから炎を出して飛んでるよ」

 いや、それは無理でしょう。何せ炎を出して飛ぶと焼き肉になるそうですから。

「ナレーターはいきなり会話に参加するな」

 すみません。つい。

「ついかよ。まぁでも、確かに理論上では炎出して飛ぶと焼き肉になるって何かの本に書いてあったな」

 因みに火球を口から放つと骨と皮だけになる程げっそりしてしまいます。

「え? マジで?」

 はい。どうやら巨大な割には体重がないらしいんですよ。あの亀型守護獣は。

「どのくらい軽いんだ?」

 あのシリーズの怪獣はどれも風が吹けば飛んでいってしまう程の比率らしいですよ。

「風船かよっ!」

 そして体長と体重の比率が丁度いいのは放射線を浴びた恐竜が変異した怪獣シリーズです。

「あぁ、そうなんだ。……じゃなくて話が逸れてる! 無駄話に突入しちまってる!」

 そうですね。逸れてますね。因みに年号が変わってから放映された亀型守護獣の二作目で地元が焼け野原と化した時は衝撃的でしたね。三作目では地図から地元の名前が消えてまして物悲しくなりましたよ。

「微妙なトリビアでまた話を逸らすなっ! おい亀!」

「な、何?」

「構造的にスクワットが出来ないのは分かった。だから他の方法で後ろ足を鍛えようと思うんだが何か効果的な筋トレあるか?」

 指導してる者が指導されてる者に筋トレの方法聞いてどうするんですか。

「仕方ないだろ、構造の違い忘れてたんだから」

 それでよく一週間は問題なくトレーニング出来ていましたね?

「最初は持久力の向上を目的としてたから問題なかったんだよ」

 そうですか。

「で、何かいい筋トレはないのか?」

「う〜〜ん、筋トレとは違うけど」

 亀は口をまごまごしながら言いました。

「泳ぐのがいいと思う。水を蹴る時に結構後ろ足を使うから。あと前足も使うし」

「成程、泳ぎか。水の抵抗を受けるから筋肉への負荷が地上に比べて大きい」

 水中トレーニングってありますもんね。

「確かに。よし、なら泳いで鍛えるとするか」

 兎と亀は近くにあるちょっと大きめの池まで移動しました。

「よし、じゃあ始めるぞ」

「うん。あ、ちょっと待って」

「どうした?」

「泳ぐ前に準備体操をしないとつっちゃうよ」

 そうですね。波があるプールの中腹でつると死んだと錯覚しますからね。

「そんなあるあるは要らん。じゃあちゃちゃっと済ませてくれ」

「うん」

 亀は前足をぷらぷらさせます。

 次に後ろ足もぷらぷらさせます。

 そして前足と後ろ足をぱたぱたさせます。

 後ろ足をぺしぺしします。

 前足も同様にぺしぺしします。

 前足と後ろ足を揃えてぴこぴこさせます。

 更に後ろ足をぱほぱほします。

 前足もぱほぱほします。

 今度は前足をひらひらさせます。

 同様に後ろ足もひらひ

「って長いし違いが分からんっ!」

「わっ!?」

 兎は何の前触れもなく突然亀を池に蹴り落としました。どうしたんですか兎さん? 鼻息荒いですよ?

「あんな同じ動きを二十分近く見せられれば誰だってこうなるっ」

 あ、手足をばたつかせる準備体操二十分もやってたんですか。字面だけだと直ぐに終わってるんで気が付きませんでした。

「ナレーターもここに来れば分かるぞこのイラつきが」

 いえ、遠慮しておきます。……所で兎さん。

「ん?」

 亀さんが沈んでますよ?

「はぁぁああああっ!? ってこんな叫び一週間前も上げたけど何で沈んでんだよ! あいつ泳げるだろ!?」

 どうやら甲羅からダイブしたあげく、体勢を整えようとスイムしたら前足後ろ足左右両方をつってしまったようです。

「俺の所為か!? 俺が池に蹴り落としたからか!?」

 そのようですね。準備体操が終わる前に池ポチャですからね、そりゃつる確率は高いですよ。

「うぉぉおおおおおおおおっ! すまん亀ぇぇええええええええっ!」

 兎は亀を助ける為に準備体操もせず、慌てて池に飛び込みました。

「あっ! 足つった!」

 馬鹿な兎は右の後ろ足をつってしまいました。

「馬鹿って言うっなっ!」

 でも亀さんの二の舞になるなんてねぇ。馬鹿としか言えないですよ。

「俺はまだ前足と左後ろ足は無事だ! だから一先ず岸に戻る!」

 体力をかなり消費して兎は難とか溺れずに岸に到着しました。

「はぁはぁはぁ……死ぬかと思った……」

 よかったですね三途の川で溺れなくて。それよりも亀さんがマジでヤヴァいの分かってます。

「あ、そうだった!」

『た〜す〜け〜て〜〜……』

 兎の脳内に直接亀の声が響き渡りました。

「これって亀の超能力的な何か!? それとも心肺停止して一時的に幽体離脱したのか!?」

 可能性としては後者でしょうね。

「それ冗談抜きでヤバいだろ!」

『た〜す〜け〜て〜〜……』

「分かった助ける直ぐに助けるから!」

 しかし兎の右後ろ足はまだつっているので助けに行けません。さて、どうしたものかと考えあぐねていると上空から声がしました。

「獲物発見」

 鷹でした。

「何で鷹が出現すんの!?」

 そりゃ獲物を探して空を飛んでれば出現しますよ。

「でも原作じゃ出ないじゃん!」

 そこはあれですよ。作者の改編が少々嫌な方向に奇抜なだけです。

「あの野郎っ!」

 兎は逃げませんでした。自分の所為で今にも死にそうになっている亀を見捨てる事が出来なかったからです。あと、足つっているのでどちらにしろ逃げれません。

「ロックオン完了。急降下に入る」

 鷹が翼をたたんで空気抵抗を極力無くし、地上の兎目掛けて降りてきました。速度はまさに弾丸の如く。

「考えろ! 何か手がある筈……っ!」

 兎は走馬灯が流れている間に脳がオーバーヒートする程この状況を打開する策を考えました。

 が。

「無理死んだ! ならせめて友の隣で死んでやる!」

 考えが浮かばなった兎はつった足を気にせず再び池へとダイブしました。

「標的移動確認。追尾モードに移行」

 鷹も兎が潜っている池に突入しました。

 ざばぁっと鷹が上がると鷹の足に兎と亀が捕まっていました。

「よ、よう亀。無事か?」

「亀なのに水の中で死ぬかと思ったよぉ」

 亀は溺死せずに済んだようです。

「でもな、恐らく俺ら食われて死ぬぞ?」

「え?」

「だって今俺ら食物連鎖のピラミッドの頂点にいる奴に捕まってるんだぞ」

「えぇ〜〜?」

「獲物二匹捕獲。これより巣に帰還する」

 鷹は涎を垂らしながら巣へと戻っていきます。

「兎君、どうしよう?」

「どうしようって言われてもなぁ……」

 兎は前足を組んで思案します。

「……あ、こうすればいいか」

 そう言って兎は亀を掴んでいる足に噛みつきました。

「痛いっ」

 鷹はいきなりの事だったので足の力を緩めて亀を離してしまいました。

 それを確認すると兎は自分が掴まれている方の足に噛みつきました。

「痛いっ」

 いとも簡単に離し、兎と亀は落下していきます。

「ねぇ兎君。食べられる心配はなくなったけど、僕達地面に叩き付けられて死んじゃうかもしれないよ?」

「ノープロブレム。下は葉が生い茂った木が沢山あるからそれがクッションになる」

 兎の言葉の通り、下には森が広がっています。そして兎と亀は森に突っ込んでいきます。枝や葉がクッションとなって衝撃を和らげました。

「よし。無事に地上に戻ってきたぞ」

「よ、よかったぁ……」

 亀は一息吐きます。

「まだ安心出来ないぞ」

「どうして?」

「それは」

 兎は上空を見上げます。

「再度ロックオン完了」

「あいつから逃げないといけないからだっ!」

 兎は亀の前足を掴んで文字通り脱兎の如く逃げました。



 一時間後。

「と、取り敢えずここまで来れば大丈夫、か?」

「た、多分」

 兎と亀は荒い息をしながら運よく見付けた横穴に入って隠れる事にしました。

 それにしてもよく逃げれましたね。

「も、森の中を突っ切ったから、な。鷹の視界から、上手く、外れた、んだろ……」

 成程。

「あと、亀の体力を上げて、おいたのが、一番、大きいな。ここまでなんとか、持ったんだからな」

 そうですね。多分山へピクニックに行った時の体力では逃げきれていなかったと思いますよ。

「そうだな。っていうか亀って体力値上がるの早いな」

 ●ックスアップでも使いました?

「いやドーピングはしてない。というかそんなアイテムはこの物語に存在しない」

 そりゃそうですよね。あったら●ンドメタシン使用して素早さ上げますよね。

「その手があったか。でもあっても使わないけどな」

 どうしてですか?

「やっぱ自分が努力して鍛えて早くなった方が気持ちよくね?」

 それは人それぞれだと思いますよ。でも確かに頑張って走り込んで速くなった時は嬉しいですよね。

「だろ? 亀もそう思うか?」

「う、うん。僕もそう、思う」

 亀はまだ呼吸が整ってません。兎は安定しているのですが、やはり体力値は上がったとしてもまだ低いようです。

「大丈夫か?」

「な、なんとかね」

「……悪かったよ」

「え、え?」

 兎は頭を下げて謝りました。その様子に亀はおどおどしてしまいます。

「今回鷹に襲われたのは完全に俺の所為だ。あと、池で溺れさせちまった。俺がトレーニングしようって言ったからな。だから、悪かった」

「いや、兎君は悪くないよ。僕が体力なくてノロマだからトレーニングしてくれたんでしょ?」

「でも、危険な目に遭わせちまったし」

「それは偶然だよ。足がつったのだって、鷹に襲われたのだって偶々。だから気にしないで」

「亀……」

 優しいですね亀さん。普通なら怒ってもいいのに怒るどころか慰めてくるとは。

「あぁ」

 所で兎さん。感傷に浸っている所に水を差すようで申し訳ないのですが。

「何?」

 鷹に見付かりました。

「目標確認」

「なしてっ!?」

 どうやらホークアイの立体視は侮れないみたいですね。

「マジかよ!」

 鷹は横穴の出入口に立ち、兎と亀を逃がさないようにしています。

 鷹はじりじりと近付いていきます。兎と亀は穴の一番奥まで逃げ込みますが、そこには別れ道は存在せず、行き止まりとなっていました。

「くそっ! ここまでか!」

 正に絶体絶命です。

 その時。

「兎君」

 亀が片隅であるものを見付けました。

「どうした?」

「これ使えば助かるかも」

「これ? ってそれは……っ!」

 兎は亀が指差したものを見て驚愕しました。



 鷹は獲物に恐怖感を与えようとわざとゆっくりと穴の奥へと進んでいきます。恐怖で身を縮こまらせれば捕らえやすいと考えたからです。

 どちらから食べようか。何時も食べ慣れている哺乳類にするか? それともある種珍味な爬虫類から先に食べるか?

 そう考えていると、向かう先から何やら音が聞こえます。しかもこの音、何処か人工的な機械音でした。

「……?」

 鷹は首を傾げました。その音は近付いてきます。


「退け退け退けぇぇええええ!」


 鷹は轢かれました。その音は遠ざかっていきます。

 兎と亀が乗ったゴーカート的な何かに。

 亀が見付けたのは●リオカートにありそうな車でした。燃料も満タンだったのでそれを用いて脱出しようと思い乗り込んだ次第です。

「何でこんなのがあったのか分からないけどこれで助かったな!」

 そうですね。鷹は轢かれましたし、もう大丈夫なんじゃないですか?

「う〜〜ん……」

 しかしカートの後部座席に座っている亀は思案しています。

「どうした? 何か心配事か?」

「うん。ちょっとね」

「何だ?」

「えっとね、僕の記憶違いじゃなければね」

「記憶違いじゃなければ?」

「車がもう一台あったんだよ」

「…………は?」

 ははぁ、成程。今回作者が何をしようとしているのが分かりましたね。

「…………もしかして」

 そのもしかしてですよ。

 兎と亀の後方から同じような機械音が聞こえてきました。

 後ろを振り向くとそこには。


「ターゲット捕捉」


 カートに乗って走っている鷹がいました。

「やっぱりかっ!」

 機体は同じようですし、もう追い付かれないようにカッ飛ばさないと駄目ですね。アクセル全開で振り切って下さい。そうしないと明日への道は閉ざされてしまいますよ?

「言われなくとも!」

 兎はアクセルを踏み込み速度を上げました。それぞれのカートの重量はほぼ同じで差が開けば追い付かれる心配はありません。

 普通なら、ですけどね。

「不安にさせんな!」

 でも作者の思考からしてただのカーレースではないですよ? だって元ネタは●リオカートなんですから。

「アイテム投擲」

 ほら、鷹が妨害アイテム投げてきましたよ。

「やっば!」

 兎と亀の前にバナナの皮が置かれました。しかも百個程。

「多過ぎるわっ! 原作でも一度にこんなバナナ地獄にはならないぞ!」

 因みに六つ程中身が入ったままです。

「要らねぇ情報だなっ!」

 そう叫びながらバナナゾーンへと入り込み、スリップしないようにハンドルを巧みに操っていきます。

「ふぬぉぉおおおおおおっ!」

「兎君、はい」

「お前はよくこんな状況で中身のあるバナナだけを取れたな!?」

 亀はバナナを頬張りながら兎に兎分のバナナを渡しました。

 難とかスリップせずにバナナ地獄を通り過ぎました。しかし、スリップしないように速度を抑えてしまったので鷹との距離が縮まってしまいました。

「くそっ!」

 兎さん。

「何!?」

 アイテム使いましょうよ。

「ねぇよ!」

 ほら、前方にアイテムボックスがありますから触って手に入れましょう。

「何時の間に設置されてんだよっ! ここ一時間前に通った道だけど逃げてた時は何も無かったぞ!」

 気にしたら負けです。

「いや気にするけども!」

 そう言いながらも兎はアイテムボックスに触れました。

「何が出る!?」

 バナナ×1でした。

「一位だからかっ!?」

 まあまあ、先程から食べているバナナの皮も合わせれば七つですよ。

「確かにそうだけど、くそっ無いよりましか! 亀! 皮を後ろに投げ付けろ!」

「分かったぁ」

 亀は後ろを走っている鷹目掛けてバナナの皮を投げていきます。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

 しかし鷹はバナナを避けようともせず、あろう事か直接当たったバナナの皮を弾いていきます。

「うわっ! あいつ七色に光ってんぞ!?」

 スターでもゲットしたんでしょうね。最下位ですから強力なアイテムが手に入りやすいんでしょう。

「二人対戦にありがちな不条理だなおい!」

 このまま行くと棘の生えた甲羅を投げ付けられそうですね。

「……それ食らったら間違いなく捕まるな」

 もうわざと最下位に転落して強力アイテムで迎撃すればいいんじゃないですか?

「その手があったか!」

 ありますよ。何も首位を独走するのが目的ではないんですから。要は捕まらなければいいだけの事なんです。

「じゃあ今から急激に減速して」

 あ、でも。

「何だよ?」

 カーブでハンドルを回して減速すると、

「うおっ!?」

 ドリフトダッシュしますよ? ってもう後の祭りですか。

「レバガチャしてないぞ! それにブレーキだとダッシュしないだろ普通っ!」

 エンジンに過負荷がかかって暴発的に起動するそうです。

「危ない機体だな!?」

 それはともかくとして、次のアイテムボックスがあります。

「くそっ、ダッシュしちまったから鷹との距離がまた開いちまったし、減速するよりはアイテム取ってた方が安全だな」

 兎と亀はアイテムボックスに触れました。

「今度は何だ?」

 緑の甲羅でした。

「よし、やっとまともなアイテムだな」

「あっ」

 兎は喜んでいますが、亀は声を上げます。

「ど、どうした?」

「それ、僕の死んだお婆ちゃんの甲羅だ」

「何ぃ!? マジでか!?」

「うん。この右肩の所に六角形の傷があるのが証拠だよ。可笑しいな? お墓を作って埋めたのに」

  亀の目に涙が貯まっていきます。

「おい作者ぁ! いくら何でも亡骸を掘り出してアイテムに変えんな! 亀! それ大事に持って逃げ切ったら墓に戻しとけ!」

 ですよね。流石に投げませんよね。

 あ、兎さん。

「鷹の奴今度はどんなアイテム使ってくるんだ?」

 今度はですね。

「ロックオン。ファイヤー」

 ●ンワンです。

「食い殺される!」

 鉄の番犬に引かれながら鷹は兎と亀にどんどん近付いていきます。

「ヤバいヤバいヤバい! マジで死ぬ!」

 鉄の番犬の口が兎と亀のカートに触れようとした時、亀は意を決しました。

「御免、お婆ちゃん」

 亀は緑の甲羅を鉄の番犬目掛けて投げ付けて当てました。すると緑の甲羅と鉄の番犬は衝撃によって粉々になりました。

「凄ぇ威力だな!」

「僕のお婆ちゃんの甲羅はダイヤモンドの槍でも傷付かないくらい硬かったから」

「●王獣かっ。それにしてもよかったのか? 婆さんの亡骸投げて」

「うん。あのままだと●ンワンに殺られてたから仕方ないよ。それに友達を助ける為だったからお婆ちゃんも許してくれると思う」

 亀は涙を流しながらも笑って言いました。

「亀……」

 兎さん。今はとにかく逃げませんと。

「分かってる!」

「ターゲットまで残り五十センチメートル」

 鷹は距離を詰めようと加速します。兎と亀も追い付かれないように速度を上げます。

「ふぉぉおおおおおおおっ!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

「ここだぁ!」

「っ!?」

 兎はブレーキを踏んで減速させます。鷹はいきなりの事だったのでスピードを緩める事も出来ずに先頭に踊り出ました。

「これで強力なアイテムが手に入る!」

 目の前にはアイテムボックスがあります。その内の一つを鷹が触れ、残ったボックスに兎と亀が触れました。

「アイテム確認」

 鷹はアイテムボックスから何を手に入れたのか確認しました。バナナ×1でした。

 兎と亀はというと。

「…………マジ?」

「うわぁ」

 手に入れたアイテムに少し引いてました。

 鷹はバナナを構えながら減速して兎と亀に詰め寄りますが、兎と亀はバックして更に距離を離します。

「こんくらい離れれば大丈夫か?」

「多分」

「じゃあ、それ投げ付けてやれ」

「分かったぁ」

 亀は投げました。


 …………●゛ム兵を。


「っ!? 退」

 ちゅど〜〜ん!

 ●゛ム兵は鷹のカートに当たり景気よく爆発しました。

 爆煙が晴れると、美味しそうに焼かれた鷹の骨付き肉が散らばっていました。

「……終わったか?」

「終わったね」

「……帰るか」

「そうだね」

 兎と亀はカートを走らせて帰路につきました。



 亀の家まで着くと、兎はこう言いました。

「もうお前のトレーニングはしない」

「え、どうして?」

「今日みたいな出来事が起こるかもしれないからな。それは勘弁だ。お前もそうだろ?」

「それもそうだね。でもそうするとピクニックに行く時また時間掛けちゃうよ」

「その心配はもうない」

「え?」

「次からはこいつで行こう」

 兎はカートを軽く叩きながら言います。

「今思えば足が速くなってもお前の場合は転がり落ちる可能性が残ってんだよな。けど、これに乗ってシートベルトしてれば落ちないだろ?」

「兎君……」

「という訳で、明日にでもピクニックに行こうや」

「うんっ」

 互いに笑顔で別れ、明日のピクニックを楽しみにしながら兎はカートに乗り込んで帰りました。

 別に足が遅くともいいのです。

 互いに大切に思い合える友達がいれば。

「……なぁ、ナレーター」

 何ですか兎さん?

「この話終わった?」

 終わりましたね。

「頼みがあるんだけどさ」

 頼みですか?

「アイテムボックス出してくれないか?」

 別にいいですけど。はい。

「サンキュー」

 何を手に入れましたか?

「●゛ム兵」

 それをどうするんですか?

「作者にぶん投げに行く!」

 やっぱりですか。

「流石に捕食者に狙われる話はないからなっ! こんな話にした奴を爆殺しないと気が済まん!」

 止めはしませんが、爆発に巻き込まれないように気を付けて下さいね。

「ナレーターも一緒に行くか?」

 それは勘弁して下さい。



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