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銀の月 改稿版  作者: 紅月 実
第一話  夜明け
2/25

夜明け(一)☆イラスト有り

霧明 様よりミアイのイラストを頂きました!

ありがとうございます!

*イラストの著作権は霧明 様にあります。無断使用や複製は固くお断りします。

2014.09.01

   いつしか〈虚無〉に心が芽生えた

   永い永いあいだまどろんで

   〈虚無〉の意思はどんどん明確になった


      ───はじまりのうた───







挿絵(By みてみん)


 とても気分良くすっきりと彼女は目覚めた。少しでも涼を得ようと開けておいた板戸の窓から見える空はまだ暗い。夏の日の出は早いが、それよりもずっと前だった。昨夜さっさと床に入ったのが良かったようだ。寝台から下りて思い切り身体を伸ばす。

 入り口のとばりが微かに動いて、隙間から音も無く人影が滑り込んだ。中年の女が持つ油瓶ランプが室内を照らした。女は彼女が既に起きているのに驚いたようだ。お互いに潜めた声で挨拶を交わす。

「……夜明けだよ」

「おはようマニルカ」

 渡された手燭の蝋燭に油瓶の火を移すと、マニルカと呼ばれた女は静かに部屋を出て行った。


 狩りは夜明けと同時に開始される。それ故に狩り番の日は早く起きなければならなかった。部屋の外に木製の名札を出しておけば寮番のマニルカが起こしてくれるが、その前に目が覚めてちょっと得をした気分だった。

 南寮は独り身の女衆の宿舎で、彼女もその一室で寝起きしている。一人用の寝台と小さな棚、明り取りの窓が一つあるだけ狭い部屋だが、ここには寝る為に帰って来るだけなのでそれで十分だった。


 もう一度大きく伸びをして棚から服を出し、短着タンクトップと下着を脱いだ。素肌に滲んだ汗が蝋燭の灯りに光る。水筒の水で湿らせた手巾タオルで汗を拭き清めた。豊かで形の良い胸の双丘。くびれた腰から張り出した尻。発達した腿から細くすぼまった足首。

 拭きながら身体の調子を確かめる。一分の隙も無く鍛えられた全身は、細くしなやかな筋肉に覆われ、若々しく生気に溢れていた。女性らしい丸みのある彼女の肉体は、絹や宝玉で飾り立てる必要がないほど美しかった。


 疲れが残っていない事に満足すると、平らな下腹を三角形の布で隠す。筒型にした長方形の布を当て、前部の紐をしっかりと編み上げて胸を押さえる。袖無しの胴着シャツを被ってズボンを履く。

 汗で湿った肌着を汚れ物の籠に放り込んだ。狩りに出ると塩が吹くほどの汗をかくので、普段はこまめに着替えるようにしていた。二日後の休養日が晴れるなら洗濯をしたかった。余り溜めてしまうのも嫌なので、金を払って洗濯を頼んだほうが良いだろうか。

 少し迷って、組の仲間に天気そらを見てもらってから決める事にした。二日後が雨ならいつものように治療所へ出向き、その前日に汚れ物を洗濯に出す事にしよう。


 癖のある髪を櫛で梳いてから紐でまとめて靴を履いた。大小のナイフやなた、蓋付きの革小箱ポーチを幾つも付けた道具帯を締めた。薬や包帯、岩塩につぶて用の小石。持ち物の補充も道具の手入れも昨夜のうちに済ませてあった。

 最後に丈夫で柔らかい革製の水袋を腰に巻くと、彼女の優しい顔立ちがきりりと引き締まる。


 ミアイは蝋燭を吹き消して部屋を出た。

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