花火〜僕の憂鬱〜
その日はいつもと変わらない憂鬱な日だった
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景色は灰色にくすんで僕の目を灰色で満たしていた。
最近……もう時間が立つのかな?心から楽しんで笑うということがなかった。
生を重ねるに連れて春の桜の花びらのような心は、枯れた芒のようになった。
反面、群青の空はは明るくて嫌だった。
彼はいつも僕を見下ろしているみたいに感じた……
これが大人になるということなのだろうか。
そんなことを深く考えていた。そうすればこの空虚な世界から抜け出せると思ったのだ。
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僕はいつものように電車に乗って予備校に向かった。
高校三年生というしがらみが僕を学問に沈みこませた。
別に僕は勉強が、考えることが嫌いじゃない。
ただ、英語の動詞の活用や、イオン結合や桜田門外の変やらを頭にしきつめていくよりは、人間の根本的な生について考えたり、アイデンティティ(ここでは自己同一性を示す)について自分で定義したりするのが好きなのだ。
そのこともあってか志望は心理か哲学と考えていた。
しかし、受験は僕にとってナンセンスで無駄だと感じてしまう僕は毎日が憂鬱だった。
(もちろん受験制度に反対というわけではない。
むしろ僕は受験制度は当たり前だと思っているのだ。
勉強ほどやる気と要領があればできる試練はないのだ。
やる気を問うには最適だと思う。
が、客観的に理解できても主観が入ればいやになるのは、若い証拠だろうか。
)丁度、好きな人になにもできなくて親友にとられたことが重なったのも、僕の憂鬱を深くする原因にもなった。
今は夏期講習ということもあって、まだ好きな人を見なくてもすんだのが幸いだった。
ホントになにもできなくて辛かった。恋愛下手なのか…今はどうでもよかった。
電車は走り出した。
流れる景色、夏の汗のような匂い、犬と戯れる男、テニスを楽しむ夫人。
僕は溜め息をついた。
空は明るく見下ろしている。
コンビニで買っておいたパックの野菜ジュースを飲み干し、バックに突っ込んだ。
駅に着くたびに去る人、会う人、それぞれ始まり、終わる。
いつかはこんな憂鬱も終わるのだろうか?春の桜の色をとりもどすことは出来るのだろうか。
今の僕はその結論を考えることができなかった。
電車は到着駅に着いた。
僕はトートバッグを肩にかけ、ホームに足をかけた。
違う空間に入る僕。
なにか違う?……いや、なにも違わない。
そこにあるのは行き交う人々の憂鬱と希望。
僕は灰色の景色を携えて憂鬱と希望の群衆に゛憂鬱゛として溶けこんだ…………
予備校の授業は学校の授業より楽しいからよかった。
少なくとも無駄な時間ではなかった。
しかし、憂鬱な僕が有意義な事をするということを考えたら、自嘲の笑みが溢れた。
夕日が茜色に都会を包んでいた。
やさしく、それでいて悲しい茜の空。
僕はこっちの方が好きだった。そして、星の煌めく夜空はもっと好きだった。
僕は昼きた道を逆に歩き駅に向かった。
行きと帰りが違う気がするのはなぜだろう。心持ちが違うかなと考えた。
駅に着くと群衆をかきわけ、改札に着いた。
切符を買い、改札の切符挿入口にさしこむ。
何事もなかったのように前の口から舞い戻る、ちょこんと。
電車は丁度来ていた。
なんだかハイテンションな車掌が出発を知らせていた。
僕は駆け込み、溜め息をつくと、空席を探した。
あった。
となりには小説を読む女性が背筋よく座っていた。
僕はその隣に座りMDプレーヤーに光を与えた(スイッチを押した)。僕はふと隣の女性と僕の関係を考えた。
『他人でありながら、密接に体がくっついている。恋人のように。吐息は互いにかかり、彼女のポニーテールの毛先が時々触れる』
電車は疑似恋人製造空間だなと考えた。
僕は隣の女性と付き合うとしてもなんの疑問もないだろう。
なんだか、そうなる気がした。
恋ではなくて(僕は今それどころじゃない)欠けたパーツが再び秩序を取り戻すように。
そんなことを考えていると電車は走り出した。彼女はずっと本をよんでいる。
僕は洋楽の無限に耳をすませる。
彼女は憂鬱だろうか。
希望だろうか。
横目で見ていたら目があったので軽く会釈をして僕は真っ暗な空間に目を向けた。
奇怪な光景だったに違いない。彼女はまた小説を読みだしていた。
しばらく走っただろうか、憂鬱な僕は暗闇を見ているのが一番楽だった。暗闇は好きだ。彼女は好きだろうか。
その時だった━……
暗闇に真っ赤に咲き誇る花火が上がった。
僕は目をまんまるくしてそれを見た。
それはまるで新しいものを発見した少年のようだった。
続いて、青、黄、翠━……
そしてそれらは流れていった。
僕は横目で彼女を見た。彼女も目をまんまるくして余韻に浸っていた。
『僕と彼女は同じ感動を共有した』
暗闇に浮かぶ花火は僕の憂鬱を一時てきに消してくれた。
暖かくて、やさしくて。僕の暗闇に光をくれた。
彼女も同じのような気がした。
僕は目を閉じて思いをはせた。
『僕と彼女は恋人よりも密接によりそい、吐息は互いにかかる。彼女のポニーテールの毛先が僕にかかる』
目を閉じていたら車掌が僕の在るべき場所に着いたことを無機質に伝えた。
僕は降りたくなかった。
彼女のとなりで横顔を見ながら花火にはせていたかった。希望を感じていたかった。
しかし、秩序を守るように僕は立ち上がり荷物を抱えドアをくぐる。ホームに足をかけた。うん。
僕は歩き出した。
電車は走り出した。
彼女は僕を見ていた。
僕は彼女を見ていた。
彼女を乗せた電車は甘酸っぱい希望を僕に与えて去っていった…………
また明日から憂鬱な気持ちになっているかもしれない。
でも、またメトロノームのチンが来る。
また違う形で。
僕を甘酸っぱい希望に運んでくれる………
春の桜の花びらの色が戻ってくる………
僕は歩きだした。足取り軽く…
春の桜の花びらののように。
読んでくれてありがとうございました。これからも人の心に響く小説を書きたいです!これからも青蘭齋兎をよろしくお願いします!