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極道の花婿くん  作者: 佐東
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ファミリーに見せつけられた


 僕が現実に打ちひしがれ、一人畳の上で涙し俯せていると、小笠原さんが戻ってきた。あの色気あふるる着流し姿だ。僕の姿を見るなり、何してるんだと呆れヒャクパーで聞いてくるので、何でもないんですよとなけなしのプライドをもってそう答えた。



「どっかズレてんだよおまえ。ネジか? ネジねえのか?」



 なんだ失礼な。そんなもんはいいから身長が欲しいですと心の中で答えた。……別に、低いわけじゃないんだと思うけど、まだ中学生だという魚姫さんと同じくらいだったってのがなんかシャクというか……。

 今でも見上げなければ顔が見えない小笠原さんが憎たらしいというか。この兄妹より身長が高ければ脅しにも笑みにもすぐには屈しなかったと思うのに。



「小笠原さん」



 どこか違う部屋へと案内されながら、僕は声をかける。小笠原さんは、振り返るでもなく返事をするでもない。いつもながら他人の目がないときはトコトンそっけない。

 構わず続ける。



「あの、交換条件をください。この家の人を諦めさせるまで、僕、あなたを好きなフリをします。だから、それが叶ったら、僕のお願いも聞いてくださいませんか」

「……ああ?」

「ひいっ、だ、だって、一方的にやれって言われたって理不尽じゃないですか!」

「これまで黙って従ってただろうが。何が不満だ、ああ?」



 不満すぎる。今まで黙ってたのだって、だって、怖かったからだし。この状況に慣れてくると、よくよく不満が募ってきた。



「あのっ、僕にも庭の手入れさせてください」



 意を決してお願い事をする。

 あ、立ち止まった。肩越しに振り返って怪訝な目で見てくる。



「庭あ? なんでそんなこと言いやがる」

「僕、昔からこのお庭が好きなんです。おおきいし、土台が良いし。少しくらい僕の手で綺麗にしたいなって」

「……却下だ」

「えー! そんな無体なあ! ちょっとだけですよ、ちょっと!」

「うるさい。却下」

「スイマセン」



 結局睨み一つで黙らされた。理不尽だ、うう。


 そうこうしているうちに辿り付いたのは、一面畳の縦長い部屋だった。何この部屋。よく時代劇とかで見る、お殿様がいるような部屋だが、その一番前、由緒ありそうな掛け軸や高価そうなツボが置かれたその前に、ドンと二人掛けの黒いソファが居座っていた。

 えーなんか合わない。畳にはやっぱりザブトンだよね。

 そんなことを思ってた、くいと肩を抱かれて部屋の中へと誘われる。


 ギョッとした。

 前しか見ていなかったけど、中央から後ろは全て人じゃん。それぞれヤンキースタイルのイカツイ男たちがあぐらをかいて座っていた。僕と小笠原さんの入場を物々しく見つめている。縁側には魚姫さんが座っていて、ヒラヒラと手を振っている。



「な、なんですか、これ」



 小声で問うも、黙ってろと言いたげに肩をギリリと潰された。いや痛え。

 ソファの前に辿り着くと、小笠原さんはまず僕を座らせた。ボッフンと僕のお尻を包み込むソファの弾力の心地よさと言ったら。しかし感動している場合ではない、次に襲い来るのは、僕の膝に乗る小笠原さんの頭でした。


 僕は、ソファではない……!


 と、言えればどんなに気が楽だったか。実際に口から出たのは「ギャッ」とかいう鳥が首を絞められたみたいなか細い悲鳴だった。

 いや、これはどんな酷い絵面になっているのか、想像するだに恐ろしい。お膝抱っことか、お手て繋ぎとか、それはまだ許容できるとして……いやできないが! 膝枕はちょっと、かなり、洒落にならんだろう!



「おおおおおおがさわら」

「もっと可愛い声は出せないのか?」

「いやいやいやそういうプレイをしている場合でなくて」

「だったらどうすればおまえはその気になってくれるんだ。人が見ているからって恥ずかしがる必要はねえだろ。いつも通り甘えてこいよ」

「あ、あまえてなんか……」

「ああ?」



 誰か止めてよヘルプミー! ダメだこの人、人に見られているときの演技力といったらパネエ! それほどまでに結婚を拒否したいか!

 ぞわぞわと鳥肌を立てる僕をさらに追い込むかのように、小笠原さんはまず僕を下から妖しく見上げ、ヘビみたいに這いながらソファの背もたれに手を置いて囲ってくる。近い。本気でちゅーする五秒前。本気で茫然自失する一秒前。



「これ、何やっとるか」



 オッサンたちの、固唾を呑む音やら悲鳴やら騒ぎが大きくなると同時、ひときわ威厳のある声が部屋に響く。



「なんだ、遅かったなジジイ。いいところで邪魔しやがって」



 やっと離れた……。しかし、今度は姿勢正しく座る僕の肩を枕にしてソファに寄りかかったため距離感は先ほどとあまり変わらない。だらしなく片足をソファに上げた格好でのっそりと歩いてくる小笠原組組頭をひょうひょうと茶化す。



「何が邪魔じゃ。わしは認めておらんからの。本気でもわしらを欺く冗談だとしても、おぬしらの関係は許し難し」

「何を言ったって俺は決めているからな! 結婚はしねえ。だが、てめえの跡は俺が引き継ぐ。早くくたばりやがれってんだ」

「フンッ、簡単に譲ってたまるものか」

「くそジジイが!」



 ギャー僕のすぐ側でケンカしないで。力任せに僕の膝握りつぶしてるし、小笠原さん、痛い痛い!

 ジジイ……もとい、小笠原さんのお父さんは、ソファに来るなり僕らを力任せにひっぺがしてそのソファを陣取った。畳に転がされた僕はいち早く体勢を整え、さらにお父さんに噛みつこうとする小笠原さんの腕を引っ張って止めた。



「い、今ケンカしたって無意味です。ここは穏便に済ませて、ここぞってときに逆らいましょう、ね? 力の使いどころを見極めてください」



 小笠原さんは、舌打ちをして僕の腕を振り払った。それ以上は黙ってくれたので、どうやら僕の言うことを聞いてくれたらしい。

 後ろにいる男たちと同じように二人して座り直す。

 組長も、満足したのかふんと鼻息をつくと、口を開いた。どうやら、このために集められた本題が始まるようだ。

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