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神の悪戯  作者: 羽毛 330
第一章 ペン回しをし続けた男
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2話 崩壊の足音

 なんと彼は人生の全てをペン回しに捧げる決断を下したのだ。


 これは非常に驚くべきことだ。


 貴族の温室でぬくぬく育った少年であるさくにそれほどの大使命が達成出来るわけがないのに、彼はその選択をした。


 実はというと、彼は表紙上は自分では何も出来ない虎の威を借りる狐に見えたが、中身は意思が固く、良心の強い少年であった。


 そんな彼は日頃の何一つ満ち足りる生活を楽しんではいたが、心の底で何か物足りなさを覚えていた。


 それは「人の役に立つこと」である。


 彼は生まれてずっと人に助けられっぱなしだった。


 全てのことは下の人間がする。


 そんな生活だったので彼は人を助けたことがなかったのだ。


 そのため、今回の使命を受けて彼は今こそ夢を叶えるときだと考えた。


 たとえそこにどれだけ大きな壁があろうとも。


「使命はペン回し1億回かぁ。多いなぁ。」


 一日は約86000秒、1年は約3千万秒だから一日12時間1秒に1回ペン回しするのを8年ぐらい続ければ達成できるのかあ…意外と簡単に達成できそうだ。」


 彼は思ったより使命が楽に達成できそうなことにほくそ笑んだ。


 しかし、その喜びも一瞬だった。


 ふと前を見るとまた先ほどの男がいた。



「久しぶり。神です。ごめんさっきはなんとなく、キリがいいから1億回って言ったけどちょっと計算したら簡単過ぎたからペン回し10億回を使命達成に変更するね。」


 そう言って男は再び空に飛んでいった。


 あまりにも一瞬の出来事だった。


 彼は絶望した。


 10億回ということは80年ペン回し生活を続けなければいけない。


 本当の本当に人生をペン回しに捧げることになる。


 彼はとても悩んだ。


「これはあまりにも負担が大きいよ。それに80年間も生きられるかも分からないし…」


 彼は使命を諦める事も考えた。


 おそらく使命が失敗と判定されるのは彼の死後である。


 死後のことなら気にしなくていいんじゃないかとも思った。


 だが、彼はその選択はしなかった。


「僕はやはり誰かを助けたい。国民の命を見捨てることなんてできない。たった僕の人生一つと引き換えに幾十万の命を助けられるのなら安いものだ。」


 そして再び誓った。


「僕の人生をペン回しに捧げよう!」


 その夜、彼は誰にも気づかれないよう1人で豪邸を抜け出した。


 住み続けた豪邸から1人で外に出るのは初めてのことだった。


 彼は今までの温室環境では、人生をペン回しに捧げることはできないと考えたので、遥か遠くの地に1人で行くことにしたのだ。


 名誉、地位、財産、輝かしい将来を全て捨てて。


 彼はまた、歩きを速めた。


 今この瞬間から、彼のペン回し人生が開始した。








彼が豪邸を抜け出して一晩が経ち、朝になった。


使用人のリーダーであるルンルは、


いつものようにさくの部屋へ向かった。


いつもの事だ。

彼はさくの部屋の前に立ち、ドアをノックした。


……反応はなかった。


もう一度ドアを叩いた。


……再び反応はなかった。


ルンルは大きなため息をついた。

「早く起きてくださいよ……」


そのままドアを開けた。


……そこにさくはいなかった。


くまなく詮索したが、見つからなかった。

ルンルは顔面蒼白になり、大慌てで家中を探した。


だが、どこにもさくはいなかった。


ルンルは重い足取りで、この家の主の部屋に向かった。


さくは、この家の主「飯田かに」が愛していた息子であった。


かには貧しい家庭に生まれたが、持ち前の頭の良さだけで商売で大成功し、莫大な資産と地位を手に入れた。


とても厳格な性格であったが、息子のことになると甘くなりがちであった。


そんな息子を愛するかには、彼が失踪したことで激しく怒るのではないかと、ルンルはひどく心配した。


彼は勇気を振り絞ってかにの部屋のドアを開け、かにに全てを打ち明けた。


……ああ、怒鳴られる。

ルンルは身構えた。


しかし、ルンルの予想とは裏腹に、

かには驚くほど冷静に見えた。


「さくが失踪したと……なるほど」

ルンルは言う。


「本当に申し訳ございません。

私の管理不足がこのような事態を招いてしまいました」


「今すぐにこの家の使用人を総動員して、

町中を捜索いたします。必ずすぐに見つけて見せます」


ルンルはビクビクしながら、


かにが怒鳴って憤怒するのを待った。


しかし、かにの反応はこれまた予想とは違うものだった。


「……いや、その必要はない。探さなくてよい」


使用人は驚いて言う。

「なぜですか?

何が起こるかわかりませんし、さく様が危険です。

今すぐ捜索すべき……」


かにはルンルの言葉を遮って言う。


「そのよく話す口を閉じろ。

私が探すなと言ったら探すな。それだけのことだ」


「あと、今回さくが失踪したことについては誰にも話すな。

絶対にだ。他の使用人にもお前が言っておけ」


「……さくは急病で療養中と周りには説明する。

お前もそれで合わせろ」


ルンルは数十秒、無言でかにの目を見続けた。

彼の目は透き通るように綺麗だった。


そして、口を開いた。


「……分かりました」

それだけ言って、ルンルはかにの部屋から立ち去った。


部屋はかに一人だけとなった。


彼は深くため息をついて窓の外を見た。


空は厚く暗い雲に覆われており、今にも大雨が降りそうであった。


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