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追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


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第九話

 ギルドホールでレオンは剣を強く握り、虚空を見つめていた。

 ガルドは鎧を拭き、カインは弓を構えていた。

 リクは追放され、リリィは王命によりパーティから離された。

 彼らの胸には、仲間を失った虚無感が重くのしかかっていた。

 外で馬の蹄の音が響いた。

 重厚な甲冑に身を包んだ使者が、六人の衛兵を連れて現れた。

 その背後には、純白のローブをまとった聖女ルミアが静かに立っていた。

 使者は羊皮紙を掲げ、王命を告げる。

「勇者レオン、聖女ルミアと共に、ただちに王都を出発せよ」

 レオンはルミアを一瞥し、彼女の微笑みに一瞬の違和感を覚えた。

 穏やかな表情の裏で、彼女の瞳が一瞬鋭く光り、まるでレオンの心の奥を覗くようだった。

「リクとリリィの不在は、辛いでしょうね」

 彼女は柔らかく言ったが、その声にはどこか冷ややかな響きが混じっていた。

 レオンはそれを錯覚だと振り払い、視線を外した。

 ガルドの盾は傷だらけだが、決意に満ちた目だった。

 カインは弓を握り、軽口を叩きながらも緊張を隠しきれなかった。

「よお、聖女様が来るなら話は早い。派手に行こうぜ」

 ルミアが柔らかく微笑む。

「勇者レオン、私の加護があなたを導きます。神の秩序を守り、魔王を討ちましょう」

 レオンは静かにうなずくが、心の奥ではリクとリリィの不在が重く響いていた。

「行くぞ、ガルド、カイン。ルミア、俺たちを頼む」

 パーティは王都を出発し、魔王城へと続く荒野を進んだ。


 道中、魔獣の襲撃が続き、戦いは苛烈を極めていた。

 ガルドの盾が魔獣の爪を弾き、カインの矢が敵の急所を貫く。

 レオンの剣が敵を薙ぎ払うが、一瞬の隙に魔獣の尾がガルドの脇を掠めた。

「くそっ、リクがいたらあの位置で敵を足止めできたのに!」

 ガルドが歯を食いしばり、盾を構え直す。

 ルミアの回復魔法が傷を癒し、淡い光がパーティを包んだ。

 しかし、その光には妖しい紫の輝きが混じり、不気味な揺らめきを放っていた。

 冷徹な正確さで施された魔法は、傷を塞ぐ一方で、どこか魂を冷やすような感覚を残した。


 魔王城の見える丘に辿り着いたとき、朝霧が地面を這い、黒々とした城壁が天を突いていた。

 鉄の門が不気味にそびえ、硫黄の匂いが鼻をついた。

 レオンは剣を握り直し、ガルドとカインに視線を向けた。

「ここから先は、一瞬の油断が命取りだ。準備はいいな?」

 ガルドが盾を構え、うなずく。

「ああ。リリィがいねえ分、俺が守り切る」

 カインが矢をつがえて、軽く笑った。

「勇者様、派手にやろうぜ。聖女様の加護もあるんだ、負けるわけねえだろ」

 ルミアが一歩進み出し、杖を掲げる。

「私の祈りが、皆さんを神の光で導きます。魔王を討ち、秩序を取り戻しましょう」

 彼女の杖から放たれた光は、純白のはずなのに、縁に不穏な紫の光が滲んだ。

 レオンは再びその微笑みに違和感を覚えた。

 彼女の瞳は、まるでパーティの運命をすでに知っているかのように――冷たく、どこか遠くを見ていた。


 パーティは魔王城の門をくぐった。

 門の奥は、凍てつく闇に支配されていた。

 石畳は湿り、壁には苔が這い、遠くで魔獣の唸りがこだまする。

 ルミアの加護が淡い光を放ち、パーティを包むが、その光は頼りなく揺らめいていた。

 進むにつれ、魔獣の咆哮が近づき、緊張が空気を締めつけた。

 突然、地面が震え、石床に紫の魔法陣が浮かび上がった。

 中心には、上級魔獣ヴォイドクロウが姿を現す。

 赤い眼が燃え、鋭い爪が石畳を抉る。

 レオンが剣を振り上げ、叫ぶ。

「来るぞ! 構えろ!」

 ガルドが盾を掲げ、ヴォイドクロウの突進を正面から受け止める。

 重い衝撃が盾を軋ませ、ガルドの腕が震えた。

「カイン、タイミングが遅え!」

 ガルドが叫ぶが、カインの矢は魔獣の肩を貫くも傷は浅く、ヴォイドクロウの咆哮がさらに激しくなる。

 カインが舌打ちし、次の矢をつがえるが、その一瞬の苛立ちが彼の照準を僅かに狂わせた。

 ルミアが杖を振り、回復魔法を放つ。

「神の光よ、勇者を護りたまえ!」

 レオンが剣を振り下ろし、ヴォイドクロウの首を斬りつける。

 魔獣は咆哮を上げながら倒れるが、その隙に新たな魔法陣が床に浮かんだ。

「これは……!」

 レオンが振り返る瞬間、ルミアの微笑みが不気味に歪んだ。

 彼女の金髪が妖紫の輝きに染まり、瞳が赤く燃え上がる。

 純白のローブが黒い霧に侵され、彼女の姿が一瞬にして変貌した――漆黒の甲冑をまとった魔王ヴァルスそのものが、そこに現れていた。

「ルミア! お前……ヴァルスだったのか!」

 レオンの叫びが響くが、ヴァルスの冷たい笑みがそれをかき消す。

「勇者レオン、お前の絆は神の秩序を乱す。無力な者には、終焉のみが相応しい」

 深紫の魔法陣が光を増し、黒い霧が渦を巻く。

 ガルドが盾を構えるが、霧がその隙間をすり抜け、彼の体に絡みついた。

「くっ、なんだこれ!?」

 カインが矢を放つが、霧に呑まれ、音もなく消える。

「くそっ、聖女! いや、魔王! 何しやがる!」

 ヴァルスの影が手を振ると、魔法陣が爆ぜ、ガルドとカインの体が宙に浮かぶ。

 転送の魔法が二人を飲み込み、瞬時に姿を消した。

 レオンは剣を振り下ろすが、刃は霧を切り裂くだけで、ヴァルスの影は嘲るように揺らめいた。

「ガルド! カイン!」

 レオンの叫びが闇に響いたが、答えはなかった。

 石壁が冷たく反響し、孤独が彼を押し潰す。

 膝をつき、剣を床に突き立てる。

「リク……リリィ……俺は、間違えたのか……」

 脳裏に、リクの純粋な眼差しとリリィの祈りがちらつく。

 リクの不器用な努力、リリィの優しい微笑み――それらを切り捨てた自分への後悔が、胸を締めつけた。

 ヴァルスの影は、ゆっくりとレオンに近づいた。

「勇者よ、お前の心の隙間は、私の力となる」

 黒い霧がレオンを包み、彼の意識を闇に引きずり込んだ。

 こうして、勇者パーティは崩壊への道を歩み始めた。


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