表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/35

第三十一話

 白金の塔が連なる王都は、未明の静けさに包まれていた。

 その中心にそびえる王城――リクとレオンは、その正門をくぐっていた。

 魔王討伐の報が届いてから三日。

 王都の混乱は未だ完全には収まっていない。

 だが、二人の姿を見て、王城の衛兵たちは驚きと敬意を込めて道を開けた。

 リクは穏やかに歩き出す。

 その手にはもう、剣も装備もなかった。

 ただの一人の人間として――だが、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。


 煌びやかな装飾と重厚な空気に満ちた謁見の間に、王と重臣たちが並ぶ。

 彼らが跪くと、王が立ち上がり、落ち着いた語気を響かせた。

「……魔王ヴァルスは、滅びたのか?」

 勇者が一歩前に出る。

「間違いありません。二度と、同じ存在が生まれることはない」

 王は安堵の息を吐き、玉座に腰を下ろす。

 しかし、どこか探るようにレオンを見つめていた。

「して……君たちの今後は?」

 重々しい沈黙の後、レオンが口を開く。

「リクは、この世界を救った存在です。そして――あと一ヶ月で元の世界へ帰ります」

 重臣たちの間にざわめきが走り、王は微かに眉を動かした。

「彼はこの世界の外から来た者。役目を終え、帰還の時が迫っているのです」

 少年が立ち上がり、王を正面から見据えた。

「俺はこの世界で多くのものをもらった。仲間、幸せな時間、居場所。でも、帰らなきゃいけない理由がある。家族が待っているからだ。残りの時間、誰にも邪魔はさせない」

 王は言葉を吟味するように口を開く。

 だが、勇者が一歩前に出た。

「この一ヶ月、リクの選択に干渉することを禁ずる。――神の使徒として、命じます」

 空気が一変した。

 レオンの体から柔らかな金色の輝きが放たれ、背後で翼のように広がった。

 燭台の火がそよぐ、まるで神の息吹が舞い降りたようだった。

 彼の瞳にはかつてない威厳が宿り、この世界そのものを貫く力が宿っているかのようだった。

 王は指がわずかにわなないていた。

「神の……使徒だと?」

 重臣の一人が言葉を絞り出した。

「勇者レオンが……いつ、どのようにして……?」

 彼は全てを見透かすようだった。

「魔王ヴァルスの最期の瞬間、俺は神の声を聞いた。この世界の枷を断ち切るために、神は俺を選んだ。俺はただの勇者ではない――今、俺は神の意志をこの地に伝える者だ」

 王の顔はこわばったが、すぐに平静を取り戻した。

 重臣たちは息を呑み、王は玉座の手すりを握りしめる。

「……よかろう。彼の功績と、勇者レオンの神託、重く受け止める」

 レオンは、王の瞳をじっと見つめた。

 その視線には「全てを知っている」という無言の圧力が込められていた。

「もう一つ、伝えるべきことがあります」

 全員が息を呑む。

 彼の語気は静かだが、刃のように鋭い。

「我々の仲間、ガルドとカイン。彼らはある者の手により、魔王討伐から逃げ出した罪で地下牢に幽閉されていた」

 瞬間、光が広がり、ガルドとカインが姿を現した。

 傷だらけの鎧、憔悴した顔。

 しかしその瞳には、不屈の意志が宿っていた。

「神の使徒として告げます。この国のある選択は、魔王ヴァルスの影に操られていた。聖女エリスがその中心にいたことは、言うまでもありません」

 空気が凍りついた。

 重臣たちのざわめきは小さく、怯えたものに変わる。

 王の顔がこわばったが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「聖女の……過ち、だと? 証拠はあるのか?」

 彼の目は冷たい。

「神は全てを見通します。この場に立つガルドとカインも証人です。そして――王よ、貴殿も何をしていたかを、よくご存じのはずです」

 王の瞳が揺れる。

 重臣たちは気付かぬままざわつくが、王は手を挙げて場を静めた。

「聖女の行いは……遺憾だ。彼らをただちに解放し、名誉を回復せよ」

 勇者が一歩近づき、語気を低くした。

「それだけではない。この国の過失――聖女を野放しにした責任に対し、魔王討伐の報奨金に加え、ガルドとカインへの賠償金を請求します」

 重臣たちが息を呑み、ざわめきが再び高まる。

「賠償だと!? 何たる無礼!」

「聖女の罪を国に押し付ける気か!」

 だが、王は短く頷いた。

「……分かった。報奨金と賠償金、支払おう。この国は責任を負うべきだ」

 レオンの瞳が王を貫く。

 しかし彼はそれ以上追及せず、続けた。

「もう一つ、告げるべきことがあります」

 全員が再び沈黙する。

 彼の言葉は確信に満ちていた。

「一ヶ月後、この世界から《スキル》と《職業》の制度は消失します」

「な、なに……!?」

「どういうことだ!」

 騒然とした空気が渦巻く。

 彼は続けた。

「それは、終わらせるということです。スキルと職業という名の枷を。人が人であるために」

 少年が一歩前に進み、引き継いだ。

「スキルがなくても、人は生きていけます。魔王がいない今、魔物は数を減らし、脅威ではなくなった。俺たちはスキルなしで畑を耕し、家を建て直した。村人たちが互いを支え合った。絆があれば、人が生きる道は開けます」

 王が深く息をつく。

「……貴殿らの村の復興は耳にしている。ならば、この変化も――信じてみよう」

 彼らは同時に頭を下げた。

 ガルドとカインも静かに仲間のもとに並ぶ。

 こうして、王都に「新たな終わり」が告げられた。

「成ったのだな――一翔よ」

 王が玉座で静かに呟く。

 魔王という「圧政の象徴」は滅び、世界は今――確かに変わろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ