表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/35

第三十話

 空は深く澄み渡っていた。

 リクの傍らには、レオンがいた。

 彼の体は淡く光を帯びているが、どこか自然で、誰もその違和感を口にしなかった。

 当たり前のように、そこに立っている。

 その眼差しは静かで、ただ空を見ていた。

「お前の番だ。この世界の構造を書き換えろ。そして元の世界へ帰るんだ。その権利がある」

 少年は頷いた。

 その瞳に迷いはなかった。

 だがそのとき――

「待って!」

 リリィが叫んだ。

 潤んだ瞳で少年を見つめる。

「私……嫌だよ。あなたと一緒にいる。この世界でも、あなたとなら……!」

 レオンが一歩前へ出て、口を開いた。

「リリィ。お前の気持ちはわかる。でも……あのとき、俺たちは止めなかった。リクが一人で戦うと決めたとき、お前は見送った。その選択の結果が、今なんだ」

 少年の肩がわずかに揺れた。

 しかし、続けようとした彼の言葉を、別の叫びが遮った。

「でも――あたしは、賛成よ」

 少女が前に出て、言った。

「クラリス……?」

「リクがこの世界で力を使い切ったら――彼はただの人になる。スキルもすべて失う」

 彼女はリクを見つめた。

「今ここで、自分の世界に戻れるなら――あたしは、リクの幸せを応援したい。あたしは、もう十分幸せにしてもらったから」

 リリィが声を絞り出すように言った。

「でも……あなたも、リクのこと……」

 クラリスは手で遮った。

「言わないで。それでもいいの。だって――あたしたちは、この世界を守るために出会った。見送るのも、あたしの役目だと思うから」

 誰かの涙が零れ、夜空に溶けていく。

 少年はコンソールを見据える。

「……ありがとう。みんな。俺――行ってくる」

 そして、彼はコードを展開した。

「もう誰にも縛らせない……この世界を、解き放つ!」

 レオンがリクの肩に触れ、神力を送り込む。

 少年は精神力の全てを注ぎ、スキル「コードエディット」を展開する。

 無数の文字列が溢れ、神域の空を埋め尽くす。

 星々が光に溶け、夜空が虹色にきらめく。

 リリィが息を呑む。

「これが、コードエディット……」

 クラリスがそっと顔を和らげた。

「……きれいね」


 《スキル:コードエディット》

 《対象:世界システム》

 《神域アクセス:成功》

 《世界修正プロトコル:演算処理》 


 世界そのものが、今、書き換えられようとしている。

 だが、完了にはまだ時間がかかる――

 その猶予が、最後の言葉を紡ぐために与えられたようだった。

 リクは肩越しに、クラリスとリリィを振り返る。

 そして、いつもと変わらぬ声で、言った。

「……ここまで、一緒にいてくれて。クラリス、君がいてくれたから、何度も立ち上がれた。リリィ、君に何度も救われた。俺は、本当に幸運だった」

 リリィが何か言いかけて、唇を噛んで俯く。

 クラリスが小さく首を横に振った。

 レオンが後ろで腕を組みながら、ぽつりと呟く。

「……俺には、何もないのか?」

 少年はふっと口元を緩める。

「レオンに認めてもらえるような男になりたかったな」

「十分頑張ったよ。お前は。……すまなかった。そして、ありがとう」

 少年はもう一度、空を見上げた。

 そこには、何の装飾もない夜空。

 ただ、戻るべき場所へと続く道が、広がっていた。

「……俺、向こうでちゃんと生きてみるよ。コードもスキルもない普通の人生。あ、でも向こうでもコードは弄ってたな」

 少年は穏やかにうなずいた。

 クラリスが一歩前に出た。

「リク」

 その語気は穏やかで、少しだけ寂しそうだった。

「もし、向こうの世界でつらくなったら……」

 そこで一拍、間を置いて。

「あたしたちの事を思い出して。リクは魔王を倒して世界を救ったんだって」

 少年は、ただ深く頷いた。


 《演算進行状況:2%》


 コンソールのパネルが、断続的に警告を返す。

 少年が眉をひそめた。

「……なかなか終わらないな」

 クラリスが肩をすくめて言った。

「世界一個、丸ごと書き換えるんだもの。そりゃ時間かかるでしょ」

 リリィが心配そうに言った。

「このまま、ちゃんと動かなかったら……?」

 するとレオンが、ぽんっと手を叩く。

「ちょっと神に聞いてくるわ」

「は?」

 皆が一斉に彼を見る中、レオンは気軽に手を振って、ひとこと。

「戻るから安心しとけ」

 次の瞬間、彼の体がふっと消えた。

 沈黙。

 誰も何も言わず、空を見る。

 リクがぽつりと呟く。

「……なんか、あいつ、馴染んでたな。使徒っぽく」

「使徒だったら、気軽に神に相談しに行かないわよ」とクラリス。


 しばらくして、天から光が差す。

 何事もなかったような顔で、レオンが立っていた。

「どうだった?」とリリィが尋ねる。

「んー、やっぱ世界改変は一か月くらいないと無理だってさ。演算重すぎるって」

「はあ!?」

 少年が思わず叫んだ。

 レオンが少年の肩に手を置いた。

「お前、向こうでコード弄るって言ったな。なら、俺もこの世界で新しいコード書いてやるよ。神格持ちの仕事、楽しくなってきたわ」

 クラリスが歓声を上げ、リリィがそれにつられて顔をほころばせ、少年も最後には肩を落として口元を緩めた。

 レオンだけが、少しだけ得意げな顔をしていた。

 夜空は変わらず、静かにまたたいていた。

 旅は終わった。

 でも、まだ少しだけ、この世界にいられるらしい。

 それなら――もう少しだけ、みんなで。

 その夜、久しぶりに眺めた空は、ただの空だった。

 けれど、今までで一番、綺麗だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ