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追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


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第三話

 ダンジョン探索が再開され、重苦しい気配が空間に漂った。

 あの後、リクは仲間たちに必死に頼み込み、最後のチャンスとして同行を許されていた。

 しかし、パーティとの間には深い亀裂が刻まれていた。

 誰も口を開かず、沈黙が重くのしかかる。

 レオンの表情には、怒りと焦燥が交錯していた。

 カインは無言で舌打ちし、リリィはうつむき遠くを見る。

 少年は顎を強く食いしばり、拳に力を込めた。

(今度こそ、取り返す……!)


 薄暗い通路の先に、わずかに開けた空間が見えた。

 空気が淀み、湿った土とカビの匂いが鼻を突く。

 胸に深い不安が押し寄せる。

 床の石に刻まれた古い紋様が、青白く瞬く。

(……何だ、これ? 危険なのか……?)

「……これ、危ないかも……」

 囁く声は小さく、畏怖に押しつぶされそうだった。

 仲間たちの背中は、遠く感じられた。

「間違っていたら、また迷惑をかける」

 ――その思いが、言葉を押し殺した。

「何してる、さっさと来い!」

 レオンが振り返り、苛立ちを剥き出しに怒鳴る。

 少年は覚悟を飲み込み、足を踏み出した。

 その刹那、床に刻まれた魔法陣が青白く脈打った。

「……っ!」

 息が詰まる。

 轟音がダンジョンを震わせた。

 砕けた岩が欠片となって飛び散る。

 ダンジョン全体が低く唸る。

 そして――その底から、何か巨大な影が飛び出した。

 中級魔獣クロウゴア

 人型の猿、ゴブリンの数倍の巨躯。

 筋肉が鎧のように盛り上がり、赤い瞳が鋭く閃く。

「グルルァアアアッ!」

 獣が咆哮を上げ、空気を裂くようにうねる影が迫る。

 リクの耳がピクリと動き、短剣を取る手が汗で滑った。

 心臓が早鐘を打ち、必死に握り直した手元に力を込める。

 クロウゴアの爪が岩壁を抉る刹那、青白いコンソールが彼の眼前にちらついた。

 文字が点滅し、異常を警告する光が走る。

「なんで、このタイミングで!」

 獣が襲い掛かる。

「邪魔だ! 消えてくれ! もうミスはできないんだ!」

 手を振ってコンソールを払おうとするが、指は空を切った。

「リク、どけ!」

 ガルドの雄叫びが轟く。

 ガルドは少年を突き飛ばし、クロウゴアの爪を受け止めた――しかし、重い一撃が盾を貫き、腹部を抉った。

「グッ……!」

 鮮血が流れ、膝が床に落ちる。

 リクが短剣を抜くと、コンソールが再び瞬き、「戦闘プロトコル実行:はい・いいえ」と表示された。

「なんだよ、これ!」

「はい」に触れようとした瞬間、

 クロウゴアの爪が岩壁を切り裂き、石礫が短剣を叩き折る。

「ぐっ……!」

 石礫が頭を直撃し、視界が暗転する。

 意識が薄れゆく中、カインが矢を放ち、獣の目を射抜いた。

 獣がよろめく隙に、レオンが剣を振り下ろし、首を切り落とす。

(俺は……また、何もできなかった……)

 リクの意識は、ダンジョンの暗がりに吸い込まれていった。


 目が覚めると、背中に石の床の感触を感じる。

 頭に鈍い痛みが走り、視界がかすむ。

 周囲にはクロウゴアの死体が横たわり、獣臭が空気を満たしていた。

 魔法陣の残光が、床で青白く瞬く。

 目の前には、仲間たちの姿が揃っている。

 誰もが疲弊し、血と埃にまみれている。

 ガルドの腹部は粗末な包帯で巻かれ、リリィの治癒の光が淡く漂っていた。

 だが、その空気は張り詰めていた。

「リク……お前、罠が見えてたのか」

 レオンの発言が静寂を切り裂く。

 剣を鞘に収め、抑えた口調で続ける。

「お前のあの呟き、聞こえてたぞ。危ないって、気づいてたんだろ?」

 喉が恐怖に詰まる。

「……ごめん。でも……確証がなかったんだ……」

 掠れた訴えは、言い訳にしか聞こえなかった。

「確証がない? それでガルドがこんな目に遭ったんだ!」

 カインが苛立ちをぶちまける。

「お前が一言口を開いてりゃ、こんなことにはならなかったんだよ!」

 怒りの中で、カインはふと顔を曇らせ、小さく息をついた。

 その語気には、確かな決意が込められていた。

「盾役がやられたらパーティは終わりだ! 魔獣が準備を待ってくれると思うか!? 今日このまま帰ったら武器代や宿はどうするんだ!? お前が払えるのか、リク! ガルドの価値は、お前みたいなノービスとは全く違うんだ!」

 その瞳は真剣そのものだった。

 リクはその強さを感じ取り、うつむく。

 レオンの瞳は氷の刃のように冷たく、少年を射抜く。

「お前のその判断が、仲間を危険に晒したんだ」

 カインは顔を歪め、あからさまに見下す態度を示す。

「役立たずが。パーティの足引っ張るだけなら、さっさと消えろ」

 リリィはガルドに治癒魔法をかけ、額に汗を滲ませる。

 ほんの一瞬、少年に目を向けた。

 その眼差しには、怒りでも失望でもない――深い迷いが宿っていた。

 リリィの詠唱が止まる。

 だが、すぐに目を伏せ、治療に集中する。

「撤退する! ガルドを抱えろ!」

 レオンの断固たる号令が轟き、パーティが一斉に動き出す。

 クロウゴアの死体を踏み越え、ガルドを支えながら出口へ向かう。

 レオンは少年を一瞥もせず、無情に言い切った。

「……もう限界だ。次の任務には来るな」

 カインが鼻で笑う。

「よく今まで居座ってたよな、お荷物が」

 リリィだけが振り返った。

 その表情に、哀しみと葛藤、そして微かな希望が滲んだ。

 だが、彼女は何も言わず、仲間たちを追って去った。

 彼らの背中が、ダンジョンの闇に遠ざかっていく。

 リクは呆然と立ち尽くす。

「もう……終わりだ」

 胸の中でそう呟き、膝を抱えて座り込む。

 地面が体温を奪い、肩の痛みがズキズキと疼く。

 だが――心の奥に、あの青白いコンソールが刻み込まれて離れない。

 あのコンソール。

 徹夜で睨んだデバッグログのように、瞬く文字が脳にこびりついた。

(このスキルを上手く使えていたなら、何か変わったのか?)

 地球での記憶が、ゆっくりと甦る。

 徹夜でバグを追う中、先輩が言った。

「無駄なコードは書くな。効率を考えろ」

 あの夜、リクはバグを直せず、上司に「使えない」と切り捨てられた。

 無力感が、この異世界の瞬間と重なる。

「なんで俺は……こんな所にいるんだろう」

 無力感が彼の内側を押し潰す。

「……ここはもう違う世界なんだ。頑張らないと」

 リクはコンソールのログを思い出す。

 あの文字は、世界のソースコードを覗くウィンドウだった。

「この世界がプログラムなら……俺のノービスだって関係ないかもしれない。スキルが使えれば、レオンもまた俺のことを……」

 指が無意識に虚空を掴む。

 まるでキーボードを叩くように。

 だが、恐怖と仲間の非難が頭をよぎり、手が止まった。

 リクは微かな光――

 コードエディットの可能性をじっと見つめた。


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