第二十八話
クラリスとレオンは背中を預け合い、隙のない連携で敵を防いだ。
レオンが剣を振り、呪術兵の黒い鎧を切り裂く。
火花が散り、少女の業火が広がり、呪術兵は一瞬で灰となった。
だが、背後から新たな影が彼らに迫る。
神域が軋み、冷たい風が貫いた。
クラリスは呟く。
「……もう限界よ。これ以上は持たない」
その瞳には、倒れる恐怖と仲間を守りたい執念がせめぎ合っていた。
胸が痛みに軋み、魔力が枯れる感覚にざわついた。
しかし、仲間を見れば、諦めることなどできなかった。
「指一本でも動くなら……諦めない!」
クラリスは杖を振り上げる。
そのとき、ヴァルスが指を軽く動かした。
呪術兵が加速する。
「終わりだ」
ヴァルスの背後で、黒い魔力が渦を巻く。
リクはコンソールに意識を集中させ、三人に魔力を送り込んだ。
反撃の隙が生まれ、剣が呪術兵を薙ぎ払い、灼熱が焼き尽くした。
だが、彼の体は限界を迎え、意識が薄れる。
「回復プロトコル、発動……!」
少年は仲間の傷を塞ぎ、消耗を和らげる。
「精神プロトコル……起動!」
心の摩耗を抑えつつ、片手で別のコードを呼び出す。
(……あと数行。……これで、勇者に)
指先がわななき、汗が滴った。
カーソルを走らせ、封印された命令文へアクセス。
背後で仲間たちの荒々しい息遣いが耳に届いた。
最後の文字を打ち込み、実行準備を終えた。
「間に合った……!」
瓦礫と炎の匂いの中で、呟きは消えた。
空気が爆ぜ、魔力の渦が低く唸る。
《勇者プロトコル:実行》
突如、レオンの目が深い紅に変わり、瞳孔が燃えるような光を発した。
リクから大量の神力が放出され、レオンに黄金の粒子が降り注ぐ。
金属がきしむ音と共に、剣が白炎を纏い、空気を歪める。
「うおおおおおお! なんだこりゃああああああ!」
レオンの雄叫びが雷鳴のように広場を震わせ、破片が舞った。
そして姿を消し、天から舞い降りた。
その姿は、戦場に降り立った神話の戦士そのものだった。
レオンがにやりと口元を緩める。
「リク! これお前がやったのか!」
ふらつきながら少年も口元を緩める。
「今、神と会ったぞリク! これが真の勇者なんだな! てか、こんなスゲーの自分に使えよ!」
「……だって君が俺にとって本当の勇者だから」
そう呟き、リクはゆっくり倒れ込む。
「リク! あとは任されたぞ!」
勇者は、ヴァルスを睨んだ。
「おい、ヴァルス! 神から言われたぜ。お前、倒していいってよ」
彼の全身に勇者の気がみなぎり、聖剣に紋様が現れた。
勇者の力が全開となり、刃の威力は極限まで高まった。
「いくぜ! アストラル・セイバー、三連撃だ!」
一閃目。剣が空気を切り開き、呪術兵の群れを薙ぎ払う。
二閃目。刃の軌跡が黒曜石の鎧を粉々に砕く。
三閃目。流星のような斬撃が、呪術兵を次々と消滅させた。
呪術兵が後ずさる間もなく、彼は風を切って踏み込む。
その速度は目で追えず、敵の剣が振り下ろされる前に首を斬った。
空間が割れる音と共に、ヴァルスの暗黒の刀がリクたちに降り注いだ。
だが、レオンの剣圧がそれを捉え、閃光と共に粉砕した。
破片が降り注ぐ中、勇者は一歩も退かず、笑みを浮かべた。
「すげぇな、これがお前の思う勇者の力か、リク!」
少年は穏やかに首を振って応じた。
「レオン……カッコいいよ」
「やりすぎだろ、これ!」
ヴァルスが低く唸った。
「なんだ、これは……何が起きている?」
魔王に、初めて動揺が滲んだ。
黒い魔力が不安定に放たれる。
「その力、貴様が扱っていいものではない!」
ヴァルスの声には、怨念の残響が滲んでいた。
「ヴァルス、お前は神に見放されたんだ! リクの力で世界がどうのって言ってたよな? あれ、嘘だろ。お前、リクの力で神に反逆を企てたな! 神が全部お見通しだってよ!」
ヴァルスは黙り込み、黒い霧が膨らんだ。
「やるぞ! とっておきの勇者技だ! クラリス、ぶっつけ本番だ! 詠唱しろ! リリィ、ありったけの補助魔法をかけてくれ!」
レオンの号令に応えるように、リクのコンソールが突如起動した。
《魔力無限供給:実行》
神域から膨大な力が集まり、レオン、クラリス、リリィに降り注ぐ。
「行くぜぇ!」
勇者が天高く剣を掲げ、瞳を閃かせる。
「聖剣解放!」
刃が白熱し、星のように照らした。
リリィが最上級補助魔法を唱える。
彼女の心を仲間への信頼が支えた。
「皆を守る……私の力で!」
リリィは全身の力を振り絞った。
《無窮の光よ》
《天恩の慈愛》
《守護の旋律》
《砕けぬ志を結び》
《輪は舞い踊り》
《我らに降り注げ》
「顕現せよ――《エターナル・セレスティアル》!」
クラリスの詠唱も重なる。
《紅蓮は壁を穿ち》
《果ては刻まれし束縛》
神域の空間が軋み、ヴァルスの魔力が再び蠢く。
勇者が剣で空を切り開き、不穏な気配を牽制した。
空気は緊張で張り詰め、仲間たちの魔力が少年の前に収束する。
《織られし断章》
《虚無の終極》
《焼野の血潮》
《時の綾》
「全てを断ち――彼の剣に宿れ、《ヴォルカニック・エンド》!」
仲間たちの魔力が一点に収束し、空間全体が脈動する。
「これで終わりだ! 《アブソリュート・ブレイク》!!」
レオンの聖剣が天を貫き、クラリスの業火とリリィの光が融合する。
白熱した刃が空気を焼き、衝撃波が神域の岩盤を粉々に砕いた。
魔力の奔流が天を突き抜け、星々がきらめきを放つ。
神域の岩盤が砕け、空間が裂けた。
世界そのものが生まれ変わるような破壊。
因果を変えるほどの魔力がヴァルスを呑み込み、神枢核が爆ぜた。
轟音と共に眩い閃光が放たれる。
「……リク。……よくやった」
数秒後、嵐のようなエネルギーは静まる。
風が吹き抜け、砕け散った霧の残滓が舞う。
空は澄み渡り、柔らかな月の明かりに照らされた。
完全な静寂。
勇者が剣をゆっくり地に突き刺す。
肩で息をしながら、彼は呟いた。
「……決まったな」
彼らはその光景に、ただ「終わり」を受け止めた。
だが――本当の「終わり」は、まだ語られていなかった。




