第二十五話
神域は果てしない白銀の世界と化していた。
リクの目に映るのは、雲のように淡い光が漂う空間と、足元に広がる星空を映した滑らかな鏡面だった。
宙には無数のクリスタルが浮かび、静寂が辺りを支配していた――神の視線すら届かない領域のようだった。
空気は冷たく、肌を刺す。
「なんだあれ……」
リクはクリスタルに目を凝らし、息を呑む。
「あれは……人間?」
その内部には人間が封印されていた。
肌の色も年齢も性別もまちまちで、身につけた服もこの世界のものではなかった。
ジーンズ、パーカー、ワンピース、スニーカー――地球の現代的な衣服だ。
かつての自分を思い出し、懐かしさと違和感がリクの胸の中で交錯した。
「まさか……これって、転移者たち……?」
リクが息を呑むと、レオンが即座に反応した。
「転移者……って、転生者とは違うのか?」
リクは小さく首を振った。
「……でも、同じ世界から来た人間だ」
リクはうつむき、戸惑いと責任をにじませた表情を見せた。
神域の中心には、黒曜石のような構造体がそびえていた。
コンソールには《神枢核》と表示されていた。
異様な静寂が辺りを支配していた。
空気が裂け、ヴァルスが姿を現す。
色褪せた黒い甲冑と顔を覆う漆黒の兜は、神域を吸い込むように鈍く輝いた。
兜のスリットから覗く赤い双眸がかすかに動いた。
「よくここまで来た。スキルは上手く扱えるようになったか、リク」
その語気は機械のように冷たいが、どこか人間らしさも帯びていた。
リクは一歩踏み出す。
「ヴァルス! お前を倒しに来た!」
レオンは決意を新たにした。
「必ずお前を討つ!」
クラリスは手を掲げ、魔方陣が淡く瞬き始める。
「姉さんの恨み、ここで晴らす!」
リリィは前方を見据える。
「みんな、援護は任せて!」
リクは歯を食いしばり、魔王を睨みつけた。
「戦う前に一つ教えてやる、リク」
ヴァルスの目が鋭く光る。
「お前の能力は、この現実を書き換える神の力だ。神の適性診断と同じもの。言うなれば、神のコードだな」
少年の心臓が高鳴る。
「神のコード……?」
魔王は続ける。
「お前に馴染みのある言葉で例えるなら、管理者権限だ。この世界そのものにアクセスし、書き換える力だ」
「リク、こいつは何を言っているんだ?」
レオンがリクに尋ねる。
「問おう。その力によって得るのは、本当に自由か? それは――支配とどう違う?」
リクは仲間たちの表情を順に見つめた。
リリィの覚悟を湛えた瞳、
クラリスの自信に満ちた横顔、
レオンの勇者としての決意に満ちた背中。
そしてうなずき、強く言い放った。
「命令される世界より、自分の足で歩ける場所を選ぶ! それが俺たちの――自由だ!」
神枢核が脈打ち、空間そのものがたわんだ。
ヴァルスがゆっくりと手を伸ばす。
「ならば、試してみるがいい。その自由が、お前を滅ぼす鎖でないことを祈るよ」
その声と同時に、神枢核が強い魔力を放ち始めた。
空気がねじれ、重圧が辺りを押しつぶす。
ヴァルスの魔力に、クリスタルが不気味に共鳴する。
彼らは武器をしっかりとつかんだ。
次の瞬間、眩い光の爆発が辺りを満たし、最終決戦の幕が開いた。




