第二十三話
朝陽に照らされたグリーンヘイブンは、復興の兆しを見せていた。
焼け焦げた畑から緑の芽が顔を出している。
子供たちが瓦礫の間を走り回る。
その音に胸を温められながらも、リクは迫りくる影を意識せずにはいられなかった。
その時、コンソールにノイズが走る。
耳鳴りのような電子音が鼓膜を刺し、背筋に冷たい感覚が走った。
何者かに覗かれているような錯覚が全身を駆け巡る。
光の粒子が瞬き、厳かな文字が浮かび上がった。
《警告:外部アクセス検知》
《綻びの鍵は、丘の墓標に位置。聖域ノードにて、システムデータを取得せよ》
リクはその文字を読み、眉をひそめる。
「丘の墓標って……あの温泉のところか?」
リリィが囁くように応えた。
「どうしたの? リク」
彼は何かに気づいた。
「みんな! ちょっと来てくれ!」
クラリスは訝しげに顔を曇らせた。
「急にどうしたの? 何かあった?」
「コンソールに妙なメッセージが来た。丘の墓標って……あの丘の神殿のことだと思う」
リクは遠くの遺跡を指し、考え込む。
レオンは腕を組み、石碑を睨んだ。
「じゃあ行こうぜ」
仲間たちの視線を受け、リクは決意を込めて頷いた。
――丘の神殿。
そこに辿り着いた瞬間、コンソールが強く脈動し、魔力の粒子が渦を巻く。
《システムアップデート開始:神域アクセスコードインストール》
《神域アクセスコード:部分インストール完了。権限不足により完全アクセス制限中》
コンソールが歪み、白銀の空間に無数のクリスタルが浮かぶビジョンが映し出された。
それらは心臓の鼓動のように脈打っていた。
漆黒の兜を被ったシルエットが現れる。
――ヴァルス。
実体を持たぬ影が、圧倒的な存在感を放っていた。
映像が一変し、遠くに男性の後ろ姿が映る。
リクは喉が詰まり、呼びかけたい衝動に駆られた。
その姿はどこか懐かしく、かつて自分を導いた先輩を思わせた。
ビジョンが途切れ、リクの胸に先輩の穏やかな表情が蘇っては消える。
「今のは……三浦先輩の記憶……?」
「リク、大丈夫?」
リリィが心配そうに覗き込んだ。
「神域への鍵を手に入れたみたいだ」
リクは眉を寄せ、思案する。
「えっ、もう終わりか!? なら行くしかねぇな」
レオンの語気には、過去の戦いの記憶がにじんでいた。
リリィは石碑にそっと手を置き、祈りを捧げる。
背筋に冷や汗が流れ、ゾクっとした感覚が走った。
夕陽が丘を赤く染め、石碑の光が消えていく。
「じゃあ温泉でも入ってスッキリして帰ろう!」
クラリスが微笑んだその時、レオンが叫んだ。
「……待ってくれ。言わなきゃならないことがある」
夕陽に照らされたレオンの顔には深い影が落ちていた。
リクは動きを止め、リリィはじっと注視する。
「昔……俺はお前たちを追放した。リク、お前を切り捨てた時は正しいと思っていた。リリィ……お前が追放された後、ひどい目に遭ったと聞いたのに、俺は何もできなかった」
レオンの拳に血が滲む。
「あの夜、お前を信じ切れなかった俺の弱さを……今も夢に見る」
彼の言葉には悔恨が込められていた。
「聖女を受け入れたのも王の圧力だった。だが、それを言い訳にはできねえ。ガルドもカインも……全部、俺のせいで失った。仲間を守れなかった。ヴァルスに操られたのも、結局は俺の弱さだ」
リリィは首を振って柔らかく囁く。
「レオン、私は恨んでなんかない。あの時はみんな必死だった……あなたがそう思ってくれてるだけで、十分よ」
リクはネックレスを強く握り、深く頷いた。
「レオンが戻ってきてくれた。それだけで信じられる。過去は変えられないけど……これからは一緒に戦えるだろ?」
レオンの目がかすかに光り、一筋の涙が頬を伝った。
「信じてもらえるとは思ってねえ。だが……もう誰も裏切らねえ。行動で信頼を取り戻す。リク、リリィ、クラリス……みんなを守るために命を賭ける」
勇者としての覚悟が込められていた。
リクとリリィは視線を交わし、うなずき合う。
「ヴァルスの企みを暴く。みんなで未来を取り戻すんだ!」
レオンが剣を握り直し、リリィが杖を掲げる。
「いいから。さっさと温泉行くわよ!」
クラリスの一言に、仲間たちが思わずほほ笑んだ。
四人の絆は、夕陽の下で新たな決意へと結実していった。
ついに「神域」への挑戦が始まる。




