第二十話
リクはレオンの剣閃を辛うじてかわした。
彼の血が石床に滴る。
「レオン……まだ終わらない!」
少年の目に決意が宿った。
レオンの虚ろな眼差しが、彼を射抜く。
「バグは――処理される」
レオンは壊れた人形のようにつぶやき続けた。
剣が振り下ろされ、少年は横に飛び、祭壇の端で身構えた。
コンソールが脈動し、赤い警告が点滅した。
《異常検知:大量の魔物の発生》
《対象:グリーンヘイブン》
少年の目が恐怖で凍りついた。
空間が脈動し、ゲートに新たな映像が現れる。
中心に映る映像――
燃える村、逃げ惑う村人、リリィがボロボロの槍で魔獣に立ち向かう。
広場から悲鳴、空気を歪める煙。
魔獣の爪がリリィを弾き、地面に叩きつけた。
「リリィ!」
リクの絶叫が虚空に響いた。
ゲートの光が強まり、ヴァルスの機械音が少年の頭に反響する。
「お前の生んだ歪みだ。私が調整してやろう」
少年は拳を強く握り締め、ゲートに向かって手を伸ばした。
「やめろ! ……仲間に手を出すな!」
だが、ヴァルスの語気が冷たく襲い掛かる。
「コードをよこせば助かる」
レオンが剣を振り抜く。
少年は身を翻してかわすが、剣先が首を掠め、ネックレスが石床に落ちた。
リクの心が騒いだ。
村の炎、倒れるリリィ、虚ろなレオン――
それらが少年の心を刃のように抉った。
「俺は……誰も助けられないのか?」
クラリスと誓った約束が、少年の心を締めつけた。
レオンの言葉が、彼の耳に突き刺さる。
「お前の力は無意味だ。諦めろ」
少年は落ちたネックレスを拾い、握りしめた。
「俺は……みんなを……救いたいだけなのに」
《対象:転移結晶》
《魔法解析プロトコル:演算処理》
《魔法解析プロトコル:演算終了》
《実行しますか? はい・いいえ》
リクはコンソールのデータをじっと見つめた。
「これは……転移?」
これなら、ここから抜け出して皆を救えるかもしれない。
リクの心臓が激しく鳴り、決意が全身を駆け巡った。
彼は「はい」を押した。
「そうか……」
少年は息を呑み、コンソールを操作する。
そして――
《転移プロトコル:演算処理》
《魔法解析プロトコル:演算終了》
《転送先指定:魔王残滓座標――村の北側、丘陵地帯》
《対象:クラリス》
「これで、すべて解決だ!」
リクは地下牢のクラリスの姿を思い浮かべた。
コンソールが魔力不足の警告を点滅させた。
「魔力不足? なら俺たちの力を全部持っていけ!」
ゲートがうねり、空間がねじれた。
祭壇の空気が裂け、少年の体に激痛が走った。
それでもリクはコマンドを押し通した。
「転移魔法発動!」
ゲートの光が爆発的に広がり、クラリスの姿が少年の目に映った。
彼女は転送される。
魔獣の雄叫びに、クラリスは息を呑んだ。
「ここは……あの丘陵……!」
彼女は辺りを見渡し、状況を理解すると拳を握った。
「リク……! あなたがやってくれたのね!」
どんな代償を払っても、クラリスは少年の愛した村を守ると誓った。
彼女は走り出し、魔方陣を広げた。
そして、コンソールが赤く光る。
《魔力回収プロトコル:強制実行開始》
《対象:リク》
《対象:レオン》
《対象:ヴァルス》
代償の激痛が少年を襲った。
リクの口から血が溢れる。
体が崩れそうになったが、彼は歯を食いしばった。
レオンも魔力の影響を受け、膝をつく。
そしてヴァルスの魔力圧が弱まった。
その刹那、レオンの瞳が揺れた。
仲間たちとの思い出と、勇者として讃えられた記憶が、彼の脳裏に閃いた。
一筋の涙が、レオンの頬を伝う。
彼の剣を掴む力が緩む。
「リク……?」
レオンの語気が、一瞬だけ温もりを取り戻す。
クラリスの声がゲート越しに少年に伝わる。
「リクが作ったこの時間、無駄にはしない!」
少年はふらつきながら立ち上がる。
戦いは、さらなる試練へと続いた。




