第十九話
闇だけの空間で、リクは立ち尽くした。
目の前にいるのは、レオン。
コンソールが接続不良の警告を表示した。
レオンが口を開く。
冷たい語気は、どこかヴァルスの機械的な声を思わせた。
「リク=アーデン。お前は世界を歪める存在だ」
レオンが刃を振り下ろす。
少年はとっさに跳び退いた。
「レオン、目を覚ませ!」
胸に痛みが突き抜け、呼吸が乱れる。
「レオン……負けるな!」
レオンが剣を振り下ろすと、少年は転がってかわした。
「コードエディットは世界を破壊する。お前は神の力でこの世界を歪めた」
その言葉が、リクの胸を抉った。
ゲートが現れ、映像が投影される。
枯れた森、砕けた家屋、涙を流すリリィの姿。
視界に焼き付き、息を止めた。
レオンの穏やかな表情が遠く霞み、心を締めつける。
「俺は……そんなつもりじゃない!」
少年の叫びは空しく響く。
レオンが剣で空気を裂く。
突然、止まった。
瞳に微かな光が宿った。
「リク……逃げろ……ヴァルスが……俺の心を……!」
涙が頬を伝い、すぐに虚無の瞳が戻る。
「お前は…バグだ。処理されるべきだ」
少年の背筋に戦慄が走った。
「レオン、お前はまだ戦っている……!」
凍える夜の記憶がよみがえる。
レオンが差し出した手と、「一緒に戦おうぜ」と言った顔が胸を突き刺す。
孤独だったリクに初めて「仲間」をくれたのだ。
「レオン、お前は俺の憧れだった。どんな時もかっこよかった……だから、絶対に取り戻す!」
リクは力強く呼びかける。
「レオン! 俺はお前を信じてる! 戻って来い!」
一歩前に出る。
「レオン、思い出してくれ。あの訓練場で、俺が木剣でボコボコにされた時、言っただろ。お前ならやれるって」
少年の叫びが響き合い、雫がにじむ。
「今度は俺が言う番だ。レオン、お前なら戻れる! 一緒に戦おう!」
しかし、レオンの語気が低く響いた。
「お前の力は無意味だ」
少年は叫ぶ。
「レオン、俺はまだ終わらない! お前を絶対に取り戻す!」
だが、心に疑問が芽生える。
この力は自分の努力で得たものではない。
誰かに作られた物語の駒のような存在だ。
心が乱れる。
「俺は……本当は、間違ってるのか……?」
レオンが剣を一閃し、肩を掠める。
服に血が滲む。
痛みが走るが、致命傷ではなかった。
「お前の力は、世界を蝕むバグだ」
刃を構え直すレオン。
少年はコンソールを操作するが、接続エラーが表示される。
空間が震え、足元から冷気がにじみ出る。
心もざわめく。
「……レオン。お前を、救いたい」
声が掠れる。
レオンの視線には感情はない。
「救う? お前が救ったものは何だ? 村は燃え、仲間は囚われた」
ゲートの光が強まり、視界が揺らぐ。
ヴァルスの囁きが頭に響いた。
「そうだ。賢い選択だ。力を渡せ」
《警告:外部アクセス検知》
《神域アクセス:成功》
《ソース:ヴァルス》
《アクセスレベル:管理者》
《システムプロトコル:管理者権限移行要求》
《実行しますか? はい・いいえ》
少年の膝がガクガクと崩れそうになった。
この力は、リクを選んだのか?
それとも、俺はただの神が選んだ駒なのか?
「これが最後の力でも……魔王に貸したっていい……どうせ、俺の力じゃないんだ……」
リクの指がコンソールの「はい」に触れかけた瞬間、胸のネックレスが熱を帯びた。
「レオン、俺はお前を失いたくない!」
少年のこぼれる涙が光った。
そのとき、ヴァルスの語気が頭に割り込む。
「無駄だ。スキルを渡せ」
少年の心を締めつけた。
だが、ネックレスの熱はクラリスの約束を呼び覚ます。
「リク、負けるな……!」
少年の手に力が宿った。
「俺は選ぶ。俺の物語を!」
クラリスの囁きが、リクの記憶に蘇る。
《精神防御プロトコル:強制実行開始》
レオンがわずかに止まった。
だが、すぐに剣を振り上げる。
「バグは――処理される」
少年は跳び退いた。
空間が脈動し、空気がリクを圧迫した。
少年は息を整える。
「……レオン。俺は、まだ終わらない!」




