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追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


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第十三話

 魔王城の奥深く――

 薄暗い研究室は古びた石壁に囲まれ、埃とインクの匂いが漂っていた。

 クラリスとルナは禁断の書庫に忍び込み、山のように積まれた羊皮紙を前に息を潜める。

 二人の研究者は魔王に仕えていた。

 燭台の光がルナの銀髪を淡く照らす。

 彼女の細い指が、一冊の古びた書物を慎重に開いた。

「クラリス、これ……見て」

 低く押し殺した囁きには、興奮と不安が入り混じっている。

「鍵は世界の理を開放する。……これこそ、魔王が追い求めてきた力よ」

 クラリスの金色の瞳が、書物の文字を追う。

 ページの端には、かすれたインクでこう記されていた――「転生者」「転移者」「神に抗う者」

 彼女の心臓が激しく鼓動する。

「姉さん、これって……」

 姉が顔をしかめる。

「逃げなさい、クラリス。今すぐ!」

 その刹那、研究室の鉄扉が爆音とともに砕け散った。

 黒い霧が渦を巻き、紅の瞳が闇を貫く。

 魔王が現れた。

「――知りすぎたな」

 その語気は氷のように冷たく、部屋の空気を震わせる。

 ルナは妹を背に庇った。

「クラリス、走って!」

 クラリスは姉の悲鳴を聞き、頬を涙がつたう。

「姉さん!」

 ルナが倒れゆく刹那、クラリスに必死に伝えた。

「グリーンヘイブンへ……鍵はそこに……!」

 彼女は崩れ落ちる書架の間を、這うようにして逃げ出す。

 背後では魔王の追っ手の足音が迫る。

 城全体を覆う魔王の気配の中、彼女は恐怖を押し殺して走り続けた。

 ――ルナの最後の言葉が、胸に深く刻まれたまま。


 夕暮れが村を柔らかな朱色に染め、穏やかな風が若草を揺らす頃、外れの森から悲鳴が響き渡った。

「助けてー!!」

 リクは耳をそばだて、眉を寄せる。

「……どうしたんだ?」

 森の奥、木々の間に影が目に入った――敵襲だ!

「全員、広場に集まれ! 敵襲だ!」

 彼の号令に、村人たちが慌てて動き出す。

 ガロンが額に汗を浮かべながら、バリケードの杭を力強く打ち込む。

「ここはワシらの居場所だ。絶対に守る!」

 彼はトマスに指示を飛ばす。

「トマス、倉庫の古い木材と鉄を運べ! 昔、山賊を追い払ったときの要領だ。バリケードを補強して、敵の突進を止めるぞ!」

 トマスが畑の柵を鉄杭に変え、バリケードを強化する。

 二人は素早く焼け残った木材を重ね、鉄の廃材を打ち込んで防衛線を築く。

 エリが子供たちを率いて石を投げさせる。

「絶対負けないよ!」

 リクは、その小さな背中に「大切なもの」の重さを見る。


 森の木々がざわめき、魔王軍の呪術兵が迫る。

 黒いローブのリーダー――呪術師ザルクは骨の仮面をかぶり、杖の先に紫の結晶を輝かせながら低く呟いた。

「鍵は世界を書き換える力……その片鱗がここにある。我が主のために必ずや持ち帰る」

 彼が杖を振ると、暗黒の霧がバリケードに押し寄せる。

 木々が軋み、呪術兵の無言の行進が不気味な静寂を刻んだ。

 混乱に乗じて呪術兵が突撃してくる中、爆炎の閃光が森を裂く。

 バリケードを乗り越えて、傷だらけの少女が転がり込んできた。

 肩から血を滴らせ、足元はふらつき、荒い息をつきながら魔王軍の方を指さす。

「助けて……! 魔王の手下から追われているの!」

 リリィが癒しの光を放つ。

 柔らかな光が少女を包むが、次の瞬間、儚く消えた。

「回復できない……あなた……もしかして」

 リクが息を呑む。

 クラリスが小さく首を振る。

「そうよ。あたしは魔族……元魔王軍の幹部、クラリス。今は命からがら逃げて来たってわけ」

 その唇が自嘲的に歪む。

 リリィは魔族への不信を抑えつつ、杖を構えた。

「リク、離れてっ! 魔族なんて信用できない!」

 その声は震えていた。

 クラリスは肩をすくめる。

「気持ちは分かるわ。でも、今あたし達で争ってる場合じゃないんじゃない?」

 そしてリクに視線を移す。

 金色の瞳にほのかな温かみが灯る。

「ほら……敵の敵は、味方ってやつよ」

「……信用しろと?」

 彼女が小さく唇を歪める。

「信用? そんなもの、ある訳ないじゃない。でも、生き残りたいの」

 リクは魔王軍を見据えた。

 暗黒の霧が迫り、時間がない。

「理由を教えてくれ。なぜ魔王軍を裏切った?」

 クラリスは血まみれのローブを払い、杖をしっかりと支えた。

 金色の瞳が、遠くを睨む。

「魔王の秘密に触れちゃったのよ」

「……何だ秘密って?」

「この世界のルールを書き換える力……古文書には鍵って書いてあったわ。転生者とか転移者とか、神に抗うとか。それを知った瞬間、魔王に殺されかけたの」

「鍵……転生って」

 リクは深く息を吸い込む。

「わかった。今は信じるよ。リリィ、魔力を貸して!」

 リリィは眉を寄せ、魔族への不信とリクへの信頼の間で意を決した。

「クラリスも手を出して」

 クラリスがリクの手を握ると、コンソールが光を放つ。

「回復プロトコル起動」

 リリィからリクへと魔力が移動し、クラリスを癒す。

「あなた……これは?」

「今は何も聞かないで。まずはこの状況を打破しよう」

 クラリスが立ち上がる。

「ふん、仕方ないわね。あたしの実力見せてあげるわ!」

 杖を高く掲げ、赤い力を渦巻かせる。


 《血は業火の脈動》

 《魂は混沌から溢れ》

 《魔神の咆哮を孕み続ける》


 炎が渦を巻き、空気が熱で歪む。

「燃え盛れ、滅びを刻め! 《インフェルノ・スパイラル》!」

 巨大な業火の螺旋が轟音と共に放たれ、霧を払い除ける。

「なんだ、魔王の犬も大したことないわね」

 しかし、その瞳に警戒が走る。

 ザルクは仮面の奥で目を見開く。

「貴様……その力、裏切り者のクラリスだな! 主に歯向かった報いを受けよ!」

 黒い矢の雨が降り注ぎ、爆炎を押し返す。

 ガロンは槍で矢を弾く。

「エリ、子供たちを後ろに下げろ! 俺がここを死守する!」

 エリは松明を振り回し、子供たちをバリケードの内側に導く。

「ガロンじぃ、絶対死なないでね!」

 リクはコンソールを呼び出し、コードを入力する。

「防壁生成プロトコル起動! 指定座標、呪術兵の中心!」

 大地が隆起し、土の壁が立ち上がる。

 だが、魔力回収プロトコルが強制実行され、彼は膝をつく。

 ザルクが吠える。

「あれはコードの力! ……あの者を捕獲せよ! 残りは全員、殺せ!」

 ログを確認するリク。

「呪術兵……やっぱり闇の魔物には一切効かないのか」

 刹那、赤い警告が点滅する。


 《警告:外部干渉を確認》


 クラリスが語気を荒げる。

「あの壁! 魔王の魔力を感じるわ! 今すぐやめなさい!」

 土壁は根元から暗黒の魔力に侵食され、さらに呪術兵が現れる。

「君の炎に、俺のスキルを重ねる。ありったけをぶつけてくれ!」

 リクがコンソールを開きコードを入力し始める。

「あとでちゃんと説明してよね。これ撃ったらあたし、もう動けないわよ?」

「心配ない。詠唱を頼む」

 クラリスは詠唱を始めた。

 赤い力が渦を巻き、大気を焦がす。


 《我が心は紅の星》

 《虚偽の王座を砕き》

 《天を焦がす終焉の太陽》

「全てを灰に変え、自由の息吹を呼び起こせ! 《クリムゾン・メガフレア》!」

 凝縮された火球が膨張し、呪術兵めがけて落ちる。

 紫の盾が火球を押しとどめるが、轟音と共に打ち砕かれる。

「させないわ!」

 すかさずリリィが祈りを捧げ、闇の力を押しとどめる。

 彼女の聖光が火球に溶け込む。

 そしてリクがスキルを発動した。

「火炎魔法強化――実行!」

 神聖な魔力と炎が絡み合い、渦を巻きながら天へ突き上がる。

 次の瞬間、爆裂的な衝撃が大地を覆い、白と蒼の魔力圧が呑み込んだ。

 轟音が遠ざかると、呪術兵の姿は影も形もなく、ザルクの杖は粉々に砕け散っていた。

 焦げた匂いと熱気の中、クラリスは膝をつき、息を切らせる。

「……やった、か?」

 数秒の沈黙の後、ガロンが振り返り、槍を高々と掲げる。

「これが俺たちの力だ! もう誰も脅かせねえ!」

 その声に呼応するように、仲間たちが顔を上げる。

 焼け焦げた大地を風が撫で、空に残った魔力の残光がゆっくりと消えていった。

 ――しかし、遠くの森の奥で、紫の影がひそやかに脈動する。

 コンソールから耳障りな電子音が広がる。

 文字化けしたエラーが次々と流れる。

 リクは何かを言いかけ、力なく崩れ落ちた。

 訪れたのは、ほんのひとときの平和に過ぎなかった。


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