表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/35

第十二話

 シャドウゲイズとの戦いの後、グリーンヘイブンには重い疲労が漂っていた。

 泥まみれの服を叩きながら、トマスがぼやく。

「このまま体を洗ったら水が足りない。子供たちが病気になったらどうする?」

 ガロンが無骨な腕を組み、うなずく。

「川まで水を汲みに行くにも、山賊や魔獣が出て危ない」

 エリが、ぱっと顔を上げる。

「ママが言ってたよ! きれいなお水があれば、心も元気になるんだから!」

 その無邪気な声が、場を明るくした。

 リクはコンソールを開く。

「新しい水源……スキルを使えば見つけられるか?」

 コンソールを開くと、丘の麓に水源があると表示された。

 その刹那、ざらついたノイズの中に文字が浮かんだ。


 《異常検知:呪術的干渉》


「丘の麓に水源があるらしい」

 リクがそう告げると、ガロンが顔をしかめる。

「丘の遺跡の近くは、近付かない方がいい。魔王軍の呪いが立ち込めておる」

 リリィは杖を持ち、丘を見つめた。

「私の聖なる力なら、呪いを解けるかもしれない。でも、強い呪いなら……」

 昼間の陽光が彼女の金髪を縁取り、真剣なまなざしの奥に、決意が宿る。


 丘の麓に着くと、鼻をつく異臭が漂っていた。

「なんだこの匂い……」

 村人たちが顔をしかめ、エリが鼻をつまむ。

 少年がコンソールを操作し、地脈のデータを解析する。

「この匂い、呪いが地脈を汚してるせいだ」

 リリィが杖を掲げ、神聖な力を呼び込む。

 彼がコンソールで神聖魔法強化を実行すると、淡い光が広がり、異臭が薄れていった。

 だが、どこか別の場所で嗅ぎ慣れた匂いが漂い始めた。

「呪いが弱まった! リク、掘ってみて!」

 リリィの号令で、少年がシャベルで掘り始めた。

 彼女の神聖な力が彼の全身を駆け巡る。

 筋肉が熱を帯び、シャベルの柄が軽く感じられた。

 リクが土を削る。

 湿った土と乾いた石が交互に音を立て、飛び散る土塊が頬をかすめた。

 ガロンとトマスも負けじとシャベルで掘り進める。

「みんな、がんばれぇ!」

 エリが声を張る。

 リリィはじっと少年を見つめ、瞳に想いを宿らせる。

「痛っ」

 リクのシャベルがガリッと硬い岩に当たり、衝撃が腕を走り抜けた。

 次の瞬間、ゴウッ! と爆ぜる音とともに、熱湯が噴き出した。

「熱っ……! これ、温泉だ! みんな離れろ!」

 彼が熱波に後ずさる。

 地面に落ちた雫がジュッと音を立てた。

 エリは飛び退いた。

「こりゃ入れねえぞ! どうする、リク!」

 ガロンが叫んだ。

 少年は地球で見た温泉街の記憶を思い出した。

 湯気の立ち上る露天風呂と、語らう人々。

「あの仕組みなら……!」

 リクは号令を響かせた。

「ため池と木の樋で冷ませば使える! 皆、手伝ってくれ!」

「木の樋だと?」

 ガロンが目を丸くする。

 村人たちが動き出す。

 トマスが木の板を運び、ガロンが土を掘る。

 リリィがみんなにも補助魔法をかけ、素早く浅い池を形成した。

 少年と村人たちは丘の斜面に木の樋を組み、熱湯を導く。

 湯は風に冷まされ、池に流れ込む。

 湯気が柔らかく立ち上り、触れられる温かさに落ち着く。

 リクが手を差し入れ、温度を確認した。

「よし、ちょうどいい!」

 村人たちが集まり、湯に手を浸す。

「肌がすべすべするぞ……!」

 トマスが目を丸くする。

「体の芯まで温まる! これで戦いの疲れも洗えるな!」

 ガロンがトマスの肩を叩く。

 エリが湯をかき、ぱしゃっと跳ねる。

「リクにぃ、すごいよ!」

 湯気が村を温め、戦後の重い空気が和らいだ。

 少年はコンソールを閉じ、満足げにうなずいた。


 その夜、温泉にリリィとエリが肩まで浸かっていた。

 星空が湯面に映り、湯気の向こうでリリィの金髪がそよぐ。

 灯籠が橙色の輝きを放ち、柔らかな陰影を描く。

 少女が湯をかき、いたずらっぽく微笑んだ。

「ねえ、リリィお姉ちゃん、リクにぃのこと、どう思う? かっこいいよね! 好き?」

 リリィの頬が、温泉の熱とは違う赤みで染まる。

「リ、リクは……ただの仲間よ。みんなを幸せにできる人だし……どんなに大変でも諦めない彼を支えたいだけ」

 エリの目がキラリと耀く。

「ふーん、でもさ、顔めっちゃ赤いよ! ほんとにそれだけー?」

 少女が身を乗り出し、湯がぱしゃっと跳ねた。

「も、もう、茹っちゃったかな……」

 リリィがくすくすと笑いながら湯をかけた。

 二人の声が夜の静寂にこだました。

 リリィの心には、リクの不屈の背中が刻まれていた。

 追放の痛みを抱えながら仲間を鼓舞する姿。

 彼女の祈りは、信仰を超え、彼に寄り添う誓いだった。


 一方、岩陰で少年がコンソールを閉じる。

 星空が瞳に映る。

「……みんなの平和を、絶対に守る」

 彼の声は小さく、決意に満ちていた。

 温泉の湯気が星空に溶け、グリーンヘイブンの夜に新たな希望が灯っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ