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追放されたプログラマー、異世界をリブートせよ ~バグスキルで神システムを書き換える~  作者: 川合 佑樹


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第一話

「またダメだった……。俺って、どこでも役立たずなのか……?」

 リクは奥歯を噛み締め、無意識に指先を滑らせ、虚空でキーボードを叩く幻影を追う。

 地球のオフィスで、バグに悩まされた夜にいつもやっていた癖だ。

「デバッグさえできれば……この世界だって、俺の手で変えられるのにな」

 ダンジョンの湿った空気が、体を重く圧迫した。

 深紅の苔が岩肌を這い、遠くで魔物の咆哮がこだまする。

「……今日は一つもミスしないって決めてたのに」

 その呟きは仲間たちの背中に溶け、届かずに霧散した。

 職業「ノービス」

 ステータス成長が初期値で固定される、最下級の「ゴミ職」

 それが《神の適性判定》で与えられた、少年の「才能」だった。

「三体、二時の方向。低級魔獣ダスクハウンド。油断するな」

 レオンは隊長として冷静に指示を出す。

 その眼差しが魔物を捉えた。

 仲間たちは即座に動く。

 ガルドが盾を構え、カインが矢をつがえる。

 リリィが柔らかな光彩を放ち、前衛を支えた。

 リクも短剣を手に取ったが、腕が硬直して鞘から抜けない。

 全身が恐怖で動けなくなり、脈が乱れる。

「おい、また手間取ってんのかよ。足手まといだな」

 カインの冷笑が背に突き刺さる。

 彼の薄い唇が嘲笑を浮かべる。

 リリィがちらりと見て、すぐに顔をそらし、眉をひそめて小さく息をついた。

「集中しろ。低級とはいえ、殺しに来るぞ」

 隊長の指示が、空気を引き締めた。

 ──その時だ。

 視界の端に、ほのかな光の粒子がちらつく。

 半透明の板のようなものが宙に現れ、数字や文字が水面のようにきらめく。

 どこかで見たことがある。

 地球で徹夜明けに睨んだモニターの、あの無機質な光だ。

「これ……コンソールじゃないか!」

 独り言は誰にも伝わらず、ダスクハウンドの唸りにかき消された。

「会敵。三体、ダスクハウンドだ」

 レオンの指示と同時に、最初の一体が盾役に跳びかかる。

 重い金属音が響き、ガルドの防人スキル《シールドバッシュ》がそれを弾き返した。

 次の個体に、レオンの戦士スキル《パワースラッシュ》が閃く。

 鮮烈な一閃が宙を走り、魔物の首を瞬時に切り落とす。

 戦闘の最中、リクはコンソールにかじりついていた。

「これって……触って大丈夫なのか?」

 そっとコンソールに触れた。

 ──その刹那。

 ダスクハウンドの一体が、あり得ない挙動を見せた。

 わずかに……いや、確かに。

 映像がカクつくような不自然な挙動。

 動きが途切れ途切れになり、壊れたプログラムが再起動したかのようなぎこちなさだった。

「えっ! なんだあれ! 俺? 俺のせいなのか!?」

 リクの脳裏に、地球で見たバグったゲームの記憶がかすめる。

「なんだ、……変種か?」

 カインが狙いを定めながら眉をひそめる。

 レオンも眼差しを鋭くした。

 ガルドが低く唸る。

「警戒強めろ。何が起きるか分からんぞ」

 リリィだけが祈りの手を止め、少年をちらりと見た。

 その瞳に、微かな迷いが映る。

 だが頭は、別の思考で埋まっていた。

 コンソールが赤く明滅し、警告音が脳内にこだまする。


 《警告:外部干渉を確認》


 突如、リクの目の前に真っ白な世界が広がった。

 黒い影が浮かび、「見つけた」と囁く声が響く。

 視界が戻り混乱する意識の中、リクはそれが何かを理解できずにいた。

 するとダスクハウンドが、一瞬、空間が抜けたようにガルドの盾を通り抜ける。

 ゲームの当たり判定がバグったような不自然な挙動。

 盾が間に合わない。

 目の前に半透明のコンソールが現れた。


 《スキル:コードエディット》

 《戦闘プロトコル:異常検知》

 《自動実行:攻撃補正プロトコル》


「なんだ、これ!?」

 リクの視線が高速で点滅するデータに吸い寄せられる。

 短剣を持つ手に力が入らない。

「異常検知? ターゲティングの設定がズレてるのか?」

 頭ではコードの分岐を追うが、ダスクハウンドの咆哮に膝が震える。

 コンソールに触れようとしたが、腕が勝手に下がり、足が無意識に踏み出した。

「くそっ、プログラムのバグか!?」

 腕が硬直し、短剣を無我夢中で振り回した。

 次の瞬間、魔物の爪が肩を切り裂き、鮮血が迸った。

「ぐっ……!」

 激痛が走り、肩口から血が噴き出す。

 石畳に倒れ込む。

 頭に焼けつく痛みが襲いかかる。

「くそっ、いったいなんなんだよ!」

 ダスクハウンドの爪が再び振り下ろされる。

「うあっ!」

 血が石畳を濡らし、体が無力に沈んだ。

「俺は……ここで、もう……」

 涙が頬を伝い、石畳に落ちた。

「リク!」

 リリィの瞳がリクを捉え、すぐに神官スキル《エリア・ヴァルガード 》で、パーティの防御力を上昇させた。

 リクの意識がダンジョンの闇に呑まれそうになる。

 直後、レオンの刃が閃き、ダスクハウンドを貫いた。

 魔物は崩れ落ちる。

 カインの放った狩人スキル《スパイラルアロー》が、逃げかけた一体の喉元を正確に射抜く。

 すべての魔物が討伐され、場に静寂が戻った。

 だがすぐに、レオンの低い言葉が割り込む。

「お前の勝手な行動が、俺たちを危険に晒したんだよ!」

 リクは這うようにして体を起こす。

 カインは鼻で笑った。

「自分で突っ込んで、ボコボコにされて……俺たちがカバーする羽目になるんだよ」

 リリィの手がこわばり、力を込める。

 その瞳はリクを避け、地面に落ちた。

 なぜ、いつもこうなのか。

 底知れぬ虚無感が満ちた。

 地球での努力も、異世界での修行も、すべて無に帰した。

 ノービスという「運命」は、本当に変えられないのか?

 そして、さっきの魔物。

 あの「バグ」のような違和感。

 ゲームの敵がフレームスキップするような、ぎこちない挙動――それは何だったのか。

 視界の端に青白い光がチラつく。

 無数の文字が表示され、世界のソースコードを覗き見るようだった。


 《スキル:コードエディット》

 《対象:修正プロトコル》

 《実行:インストール再開》

 《警告:魔力消費は対象の規模に比例。制御失敗時、生命力を吸収》


 スキル「コードエディット」

 地球で、初めてバグを直した夜、俺は人生で初めて「生きてる」と感じた。

 その熱が、今、この異世界で蘇る。

 リクの胸には小さな炎が灯っていた。

 だが次の瞬間、意識は闇に呑まれる。

 最弱の少年が、世界の秘密を垣間見た瞬間だった。


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