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第32話「1人の戦い」

菜央はピットに戻ってきた。

「菜央、梨音を助けてくれてありがとう。」

「…私はやらなきゃ、と思ったことをしたまでですよ。」

「それでも、菜央の救助活動がなければ梨音は大変なことになっていた。」


「このあとはどうする?スプリント出るか?」

「いや、梨音が心配なので、今回は棄権します。」

「そうか。わかった、リタイア届を出しておく。」


AZUMIRacingは菜央のスプリントレースのリタイア届を提出。


安住と菜央は梨音が搬送された病院に向かった。

しかし、医師によるとまだ意識は戻っていないとのことだ。


「梨音…」

頭を抱え込む。

「大丈夫だ。梨音なら大丈夫。」

安住のその声は少し涙をこらえているようだった。



このクラッシュの原因は関城のフロントウイングと梨音の左リアタイヤの接触。

関城はこのクラッシュを「車間を見誤った」と話していたがこのクラッシュには裏があった。

自身にとって脅威となってきつつあったAZUMIRacing。

そのエース的存在である、菜央を倒せれば自身のチャンピオンが有利になる、と考えていた。

しかし、目の前にいたのは菜央ではなく相田のマシン。

潰す対象を間違えた結果だったのだ。


その裏がなくとも、これを受けて運営は関城にスプリントの出場停止、翌日の決勝レースのピットレーンスタートがペナルティとして課された。


翌日、ガレージ。


隣の90号車にはブルーシートが被せられていた。

その隙間から見えるマシンの姿は痛々しい。


「大丈夫。」

菜央はマシンに乗る前にしゃがみ、一度目を瞑る。


「よしっ」


マシンに乗り込む。

そして、エンジンをかけ、コースインを待つ。


そしてGOサインが出る。

菜央はゆっくりとマシンを発進させていく。



1周を終え、最後尾グリッドにつく。

『梨音のことは大丈夫だ。きっと彼女ならまたレースに出る。』

スタート直前に安住がそんなことを呟く。


そしてフォーメーションラップの後、ローリングスタート。



菜央はこの瞬間の加速で一気にエイワレーシングの関根、ERX racingの伊東萌をオーバーテイク。


一つのコーナーで2つずつ順位を上げていく、天才の名にふさわしい走りでトップ集団に迫っていく。


レース10周目、気づけば4位まで順位を上げた。

『前はRESA Grand Prixの周だ、彼女は手強いぞ、気をつけろ』

「了解」


周にバトルを挑む。

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