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悪役極嬢~筋をお通し願えますか?~  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第2章 ヒロインと謎の美形【2】

Side たー坊(アリスト)



 西園寺いろはより先にこの世界に生まれ落ちたアリストは、マリーウェザーを守るためにあらゆることを学んだ。確実に役立つであろう魔法学は特に力を入れた。そうしていると、勉強がとても楽しいことであると思い知った。

 アリストは前世で、高校に行けないまま極道の世界に入った。勉強したいとは思っていたが、西園寺組は何かと激動な組であった。関東最大の南郷会最強と謳われた西園寺組。組の代紋を見られれば十中八九、喧嘩を売られた。とは言え、騒ぎを起こすわけにもいかなかったため、喧嘩を売られても買うことはしなかった。それについて、組長にもよく言われていた。

 特に、阿良々木組(あららぎ)は激しかった。同じ南郷会で西園寺組を敵視し、何かと競い合っていた。西園寺組と阿良々木組の抗争――西荒(せいあ)抗争を誰もが恐れていた。

 きっかけは、阿良々木組組長の娘「阿良々木心愛(ここあ)」だった。

 心愛には婚約者がいた。阿良々木組長が決めた婚約者だったらしい。だが、婚約者は、よりにもよっていろはに恋をしてしまった。心愛にはそれが許せなかった。その怒りが阿良々木組長を動かした。西荒抗争は、心愛が引き起こしたようなものだった。だが、西園寺組が勝った。同じ南郷会で勝手に起こした抗争。南郷会長が黙っているはずがなかった。阿良々木組は解体も視野に入っていたが、それを止めたのは西園寺組長だった。その理由はアリストも知らない。それにより、阿良々木組は西園寺組に頭が上がらない状況になっていた。

 いろはを失ってもなお、西園寺組長は戦地に立ち続けた。あの気高く誇りに満ちた背中は、終生、忘れることはないだろう。

 だから、今世では自分がいろはを守ると決心している。何があったとしても。例えこの命を懸けようとも、というのはマリーウェザーが許さないだろうが。

(お嬢も真剣に授業を受けているし、印象を変えればきっと運命も変わ――いや、寝てる! これは寝てる!)

 マリーウェザーの目は開いているが、手はノートの中途半端なところで止まり、板書はしていない。虚ろな目で教科書を見つめていた。寝息を立てることもなく、船を漕ぐこともなく、ただ静かに眠っている。

(これが聖百合女学園で身に付けた業……。それでも成績が良かったんだから、地頭が良いってことなんだろうな……)

 学校に通ういろはを羨ましく思うこともあった。組長は、いろはには極道ではない世界で生きてほしかったのだ。最後の瞬間、組長はいろはに西園寺組を託した。それがどんな意図であったかは、いまではもう確かめる術がない。だが、西園寺組はそのいろはを失ったのだ。

(西園寺組を継ぐとしたら……、……いや、もう俺には関係のない世界だ)

 いまはアリストとしてマリーウェザーを守る。それがすべてだった。



   *  *  *



「……お嬢……お嬢」

 肩を揺さぶられてマリーウェザーは目を覚ます。教室から授業中の静けさはなくなり、生徒たちはそれぞれ席を立っていた。マリーウェザーはひとつ伸びをして、小さく息をつく。

「授業は終わったんかいな」

「はい。よく寝てましたね」

 いつの間に眠っていたのかはわからないが、随分とよく寝ていた気がする。アリストは気付いていただろう。それでも起こさず、真面目に授業を受けていたようだ。

「ノートは取っておきました」

「んなもん必要あらへん。授業に必要なことは全部、教科書に書いてあんねん。それだけで試験は突破できる」

「そうですか……さすがですね」

「ウチが学校で身に付けたのはお嬢様だけやないで」

 腰を持ち上げたマリーウェザーは、近くにいた女生徒が手を広げているのが目に留まった。その手のひらの上に黒いもやが現れると、女生徒はその中に教科書を詰め込む。手のひらを閉じると、その黒いもやも消えた。

「あれはなんや?」

「収納魔法ですね。空間に物を収納する魔法です。貴族の中では一般的な魔法ですね。お嬢もイメージすれば使える簡単な魔法ですよ」

「ほ~ん。面白そうやな」

「でも、お嬢は教科書を手で運ばないといけないですから」

「わかっとる。手が空いている状況を作ったらあかんのやろ」

「はい」

 マリーウェザーは分厚い教科書とノートを両手で持ち上げる。前世では当然のことだったが、こうして便利な魔法を見せつけられるとどうにも邪魔に感じられた。校内を歩く生徒たちは妙に荷物が少ないとは思っていた。そのカラクリの正体は魔法だったらしい。解明してしまえば簡単なことだった。

「次の授業は三階やったな」

「はい。階段は気を付けてくださいね」

「ウチが階段で転ぶほど軟弱やと思っとるんかいな」

「いえ、転ぶのはお嬢ではありません」

「ふうん?」

 アリストには何か考えていることがあるらしい。アリストは、これからマリーウェザーに何が起きるかを知っている。何かこの幼気な少女が悪役令嬢に仕立て上げられるイベントが待っているのかもしれない。いまはアリストに従ったほうがいいだろう。




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