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死して尚最強  作者: 0レンジペン
第一章 開拓者試験編
7/26

スタートライン

 ゴールド級とされているハイオークは弱くもなければ強くもない。丁度中間ぐらいの強さをしたモンスターだと世間一般で言われている。

  

 が、それはハイオークというモンスターを単体で見た時の話であり、複数となると話は変わってくる。


 四体ともなるとゴールド級には収まらず、プラチナ級相当はあると思われるそれが、今僕の目の前で暴れている。応戦しているのは六人の開拓者らしき男女。ただ実力差が激しいのか防戦一方といった様子で、己どころか辺りの建造物に被害を出すばかり。このままではあと数分もすれば周辺が瓦礫の山と化すだろう。


 僕が今取るべき行動は協会に連絡し避難する事。開拓者ではない一般市民である僕に出来るのはそれだけ。なんて前の僕は考えるだろう。今の僕は違う。


「実力を試すには申し分ないか」


 四体のハイオーク、プラチナ級、ゲートブレイク、全てが今の僕にとって都合がいい。この壁を越えてこそ、僕は復讐のスタートラインに立てる。


「ユエ、お兄ちゃんを見守っていてくれ」


 そうして僕は四体のハイオークの下へ足を動かした。



ーー



「グォォオオオオオオ!!!」

 

 ハイオークが咆哮する。四体はそれぞれ手に持ったナタを振い、周囲の建物を破壊していく。


「ゲートブレイク……」

「ぼーっとしてんじゃないよ! とにかく協会にれんら――くッ」


 震えるヒビキに声を荒げた明美は巨大なハイオークによって踏み潰され息絶えた。


「嫌だぁぁああああ! やめてくれ頼むお願いしますお母さ――」


 ヒビキの背後では広大が二体のハイオークによりその体を左右に引きちぎられた。ハルキは既にハイオークの胃の中。


 七人の内、生き残っているのは三人。ヒビキ、優子、ユカだけである。


 三人とも目の前の地獄に恐怖し、震え、眼前に迫る死を見つめていた。

 

 そんな中であった。


 小さく足音を立てて、地獄に自ら入門した命知らずが現れた。


 その人物の格好は紺色のシャツの下に白のTシャツ。ズボンは明るい色をしたデニム。それに深く被られた帽子と非常にラフなものだった。とても応援に来た開拓者とは思えない。見るからに一般市民である彼はそのまま足を動かし一体のハイオークの前に出て止まった。


「おいあんた! 危ないから離れろ!」


 皆が思考を停止させる中、ヒビキが声を上げる。恐怖に震えていると言っても開拓者である。一般市民を巻き込ませまいとするのは普通の事だ。


 しかし彼はそんな忠告では止まらなかった。それどころか彼は三人に向けて声をかける。

 

「離れるのはあんた達だ。死にたくないなら逃げてくれ。それに――」


 彼は続けて小さく呟いた。まるで自分自身に言い聞かせるように。


「親しい奴に死なれるのは、もう懲り懲りなんだよ」

 

 空を切りながら振るわれたナタが彼を頭上から襲う。土煙が舞い、彼の姿が隠れた。


 優子、ユカは彼の死を悟った。調子に乗りハイオークの前に出たからだと。だがヒビキは違った。本人も知らない心のどこかで、彼ならハイオークを倒してくれるのではという謎の期待があったのだ。彼には期待に値する何かがある。そう確信していた。


 実際ヒビキのそれは正しかった。土煙が晴れ、彼のシルエットが浮かび上がる。


 ハイオークのナタを頭上で受け止めている彼の姿が三人の瞳に映った。


「なっ――」


 三人はそれぞれ声を漏らす。


「巨大なナタか。武器にするには丁度いい」

「グォォオオオオオオ!!!」


 三体のオークが咆哮しながら駆け出す。帽子の彼を囲うようにして、三体は同時にナタを振るう。三方向からの横薙ぎを彼は一瞥する。


 耳を劈く雷鳴のような衝撃に激しく舞う土煙。


「グァッ――」


 目の前の光景に三人は驚愕した。晴れた土煙の中、帽子の彼の姿はない。それだけじゃない。彼の正面にいたハイオークがその身体を縦に一直線、綺麗に切断されていた。切られたハイオークは血や内臓を周囲に撒き散らしながらその場に倒れる。


 また次の瞬間には別のハイオークが、何かによって頭を貫かれて死んだ。


 皆は一斉に空を見上げる。ヒビキ達だけじゃない。残りの二体のハイオークも。


「嘘だろ……」   


 声を漏らしたヒビキの瞳には、太陽を隠すようにして宙に浮かぶ帽子の彼と、彼の背後に浮いている無数の瓦礫が映っている。


 彼が軽く上下に手を振ると、無数の瓦礫は雨として、残り二体のハイオークに降り掛かった。ハイオークの腕を飛ばし、脚を跳ね、胴体を貫き、顔を押し潰す。


 その雨はハイオークの息が絶えて尚降り続いた。



ーー


 

 ハイオークとの戦いが終わり、僕は昼飯を食べ帰路に就いた。結局目当ての本は買いそびれてしまったが、今の僕の実力がプラチナ級相手に通じることが分かった。それだけでも良しとしよう。


 それにしてもぶんぶん丸に比べてあのナタが重く感じたのは何故だろうか。単純にぶんぶん丸よりもあのナタが大きいからか、操る物のサイズによって操作性が変化するとか。巨大なビルを動かしたら最強だな、とか思っていたけれど、いざ戦闘となるとぶんぶん丸の様なある程度サイズを抑えた物の方が最適なのかもしれない。スピードと操作性を失うのは痛手だしな。


 それにまさか空を飛べるようになっているとは。


 ハイオークの攻撃を避けようと力強く飛び上がった瞬間、例の機械のような女性の声が頭に響いた。


【スキル『浮遊』を発動しましす】


 飛び上がった僕の身体は空中に固定されるように止まった。動こうと思えば自由に動けたし、降りたいと思えば好きなタイミングで降りれた。


 スキルというのは能力とはまた別の力なのだろうか。違いが分からない。でも、戦闘で使えるものは積極的に使っていくべきだろう。折角のギフトだ。使わない手はない。


「疲れたな」


 今日は新しい僕の初陣と言うべきか、初めてのことだらけで体力的にも精神的にも物凄い疲労感に襲われている。


 初めてモンスターを殺した感覚はとても良いものとは言えない。躊躇はなかったが、命を奪ったのだ。僕があの四体を終わらせた。それでエクスタシーを感じるほど僕は堕ちていない。


 だからっていちいち気にしては心が保たないし、僕はこれからもモンスターを殺すことに躊躇はしない。それにハイオーク四体との戦闘を通して、やっとスタートラインに立てた気がする。復讐のスタートラインに。


 ユエを殺した青黒い角のモンスターがどれほどの強さなのかは分からない。もしかしたら女性かもしれないし、子供かもしれない。けど僕は迷わない。復讐は必ず遂げる。青黒い角のモンスターも、僕の復讐を邪魔する奴らも、障害となる人物は全員漏れなく殺す。


 気が晴れる晴れないじゃない。殺さなきゃいけなんだ。


「よっ、随分遅かったな。かなり待ったんだぜ?」


 アパートの階段を上がると、ヒビキが部屋の前に立っていた。僕を見つけるとにこやかに笑い、側まで近付いてそう言った。


 ヒビキの服はところどころに汚れが目立つが、あっけらかんとした様子を見るに先程の一件の傷は癒えたのか、はたまたあまり怪我をしていなかったのか。とにかく元気そうで良かったと僕は胸を撫で下ろす。


「待ったってどうかしたのか?」

「聞いてくれよレン! 俺さ開拓者になれたんだけど、今日初めての仕事だったのに死にかけてもうやべえおしまいだーってこところで――」


 早口で捲し立てるヒビキは相変わらずの様子で僕はどこか安心した。開拓者として色々と変化した面もあるのだろうが、昔と変わらずヒビキはヒビキだ。


「何笑ってんだよレン。俺本当に危なかったんだぞ?」

「ごめんごめん。でも変わらず元気そうだなって」

「そうか? まぁレンはここ数日で結構変わったよな」

 

 僕の身体をじっと見てヒビキが言う。


「最近鍛えてるからかな」

「それでこんなに変わるか?」


 訝しげな様子のヒビキに僕は訊く。


「それで用件はなんだ? わざわざ家の前まで来るってことはなんか用があるんだろ?」


 するとヒビキは僕の右肩を軽く叩いって言った。


「礼を言いに来たんだよ。レン、ありがとう。俺たちを助けてくれて」

「……?」

「惚けんなよ、って言いたいけど、まあなんか事情があるんだろ。妹さんの一件で色々あっただろうし。無理に聞こうとも思わない。でも変装するならもっとまともなのにしろよな。俺はすぐに分かったぜ」


 ドヤ顔混じりに言うヒビキ。隠すつもりはなかったがヒビキにはバレていたようだ。


「……ふっ。分かった。次はもっとまともなのを考えるよ」

「頑張れよ! って俺これから協会に色々報告しなきゃなんだ。てことでバイバイな」

「ああ。気を付けろよ」


 ヒビキはそのまま駆けるように階段を下り姿を消した。


 そんなヒビキを見届けて、僕はポケットから鍵を取り出す。ドアを開けて中へ入り一人呟く。


「ただいま」


 復讐のスタートラインに立った僕の一日はそうして幕を閉じた。

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