ゲートブレイク
インフルなった! 熱凄い、書き溜めてよかった、皆さん体調に気を付けて!!
開拓者試験は年に四回、開拓者協会にて行われている。直近で行われる試験は三ヶ月後。時間には十分過ぎる程余裕がある。
試験内容は主に三つ。知力を測る筆記試験、体力を測る体力試験、能力を測る能力試験だ。中でも難しいと言われているのが能力試験。今まで満点を取ったのは一人だけとされている。もっとも開拓者という職業が誕生してからまだ数年しか経っていないし、開拓者の母数自体が少ないというのもあるだろう。
それでも最強と謳われるオーバーロード級の七人でさえも満点を取った者はいない。百点ホルダーは現開拓者協会会長である山田巌龍だけなのだ。
ユエも能力試験が一番大変だったと言っていた。対策した方がいいのだろうが、僕は満点を取りたいわけじゃない。合格ラインである百三十点を超えれさえすればいいのだ。能力試験よりも比較的簡単且つ点の取れる体力試験と筆記試験に舵を切った方がいいのだろうが、ある程度自分の能力の造詣を深めた方がいいのも事実。捨てとは言えゼロ点は不味いだろう。
「筆記試験は書店で売っている対策本を買うとして、まずは能力試験か」
今後戦うことになるであろう青黒い角のモンスター。流石に素手だけじゃ足りないところも出てくるだろう。能力を上手く扱えた方がいいのは明白か。
椅子に腰掛けながら、机の上に置いてある箱ティッシュに目を向ける。
僕の能力は『無限・物体操作』と『無限・分裂付与』らしい。物体操作は一度やった事もあり、感覚も覚えているので『無限・分裂付与』よりも先にそっちをマスターしてみようと思う。瓦礫とか操れたら戦闘の幅も広がるだろう。
箱ティッシュを見つめて、宙に浮かして手元に引き寄せるイメージで……。
「来い」
そうして僕の手の中へ飛んできたのは箱ティッシュではなくどこかへしまっていた筈の木刀だった。
「これは…ぶんぶん丸」
僕がぶんぶん丸と呼んだ木刀はユエが修学旅行のお土産として買ってきた物だ。あれはユエが小学生の時だったか。
私達を守ってくれるんだよ! とか言っていたっけ。疾うの昔に見なくなって既に捨てたと思っていたんだが、まだこうして家の中にあったとは。
「懐かしいな。お前は僕達を守ってくれるんじゃなかったのか?」
なんて呟いてみるが、まったく……木刀相手に何をしているんだか。
「まあ折角見つかったんだし、お前で練習してみるか」
僕はぶんぶん丸を軽く宙に浮かして、素振りをするイメージで動かしてみる。最初はゆっくりと。
「感覚的には、手で持つのとあまり変わらないな」
慣れてきたら少しづつスピードを上げていく。風を斬る鋭い音を響かせて、ぶんぶん丸は縦横無尽に動き回る。
動かしてみた感じ操作性はかなり高い。僕がこう動けとイメージしたコンマ数秒後にはイメージ通りの動きをする。
ラグが少ないのは有り難い。青黒い角のモンスターを殺す為に戦うとなると、少しの間というのは命取りになりかねないからな。
「それにしても、『無限・物体操作』ってことは無限の数の物体を操作できるということなのか、はたまた別のことなのか……まあ今は一個操れればいいか」
取り敢えずはぶんぶん丸で練習するとしよう。
――
火曜日。数日没頭し能力『無限・物体操作』に大方慣れたので次は筆記試験の対策を始めようと思う。
そんな訳でアパート近くの本屋を目指し歩みを進める。格好は紺色のシャツの下に白のTシャツ。ズボンは明るい色をしたデニム。それと日差しが強い為帽子を被る。
全て以前ユエが買ってくれたものだ。僕の服のセンスはユエからしたら壊滅的らしい。よく笑われていたのを覚えている。
服を買いによく兄妹で出掛けたっけ。懐かしい思い出だ。
交差点を右に曲がり駅まで繋がっている大きな通りに出る。この通りの信号を三つ程進み、左手に見える三階建の建物が目的地の本屋である。
本屋まであと三百メートルというところで、路地に入っていく見慣れた姿が視界に映った。
ヒビキとユカちゃんだ。
二人以外にも五人の男女が路地へ入っていく。また全員戦闘用の装備をしており、剣や斧、弓といった武器を持っていた。
予想はつく。路地の先に門が現れたのだろう。日本の街中で武装を許されている人間なんて開拓者しかいない。それにユカちゃんは開拓者だ。ヒビキも試験を受けたと言っていた。
あの様子から、どうやら受かったみたいだ。今度祝でも持っていくとしよう。
「らっしゃっせー」
なんて思いながら僕は本屋へと入った。時刻はお昼頃。客は疎らだ。店内を進み参考書のコーナーを探す。
「おっ、あった」
入り口から見て一番奥の隅っこに探していたコーナーを発見した。大学の入試対策など、様々な参考書の中から開拓者試験対策と書かれたものを探す。
二分程で目当ての本を見つけた。
「蟻でも合格できる開拓者筆記試験対策、ね。他にも何か……新井玄弥が教える筆記試験対策……誰だよ新井玄弥」
色々な種類がある中、それぞれを手に取り軽くページを捲って吟味する。
あまり違いは分からないけれど、最初に手に取った蟻でも分かるどうたらこうたらが一番分かりやすそうだ。
値段は千二百円。うん。大体相場通りだろう。安くはないが高くもない。これを買うとしよう。
レジこちら、と書かれた案内に従いレジを目指す。レジの前は丁度誰も並んでいない。店員と目が合い「こちらへどうぞ」と呼ばれたので参考書片手に向かう。
「これお願いします。袋に入れてください」
「はい。千二百三円ですね〜。カバーはおつけになりますか?」
「いらないです。支払いは電子マネーで」
ポケットからスマホを取り出し、電子マネーのアプリを開こうとした時だった。
またしても運命なのか、今日もそういう日なのか。ユエがいなくなってから外へ出かける度に変な事が起こるのは何故だろう。
耳を劈く爆音とともに店内に舞った煙。
「うわあっ!」
慌てる店員を一瞥して音のした方へ視線を動かす。
通りに面した反対側。つまりは路地側の壁が粉々に破壊され、店内が外に露出するかたちになっていた。
何が爆発したのか? いや或いは……。なんて思考を巡らせていると、次第に煙が晴れていく。
そして姿を現したのは、先程見かけた開拓者と思われるぱっと見三十代の男性だった。男性は手足の全てが明後日の方向を向き、血を流しながら荒れた店内の中心部で倒れていた。
「キャアアアアアア!!!」
その叫び声が合図となり店員や客達は一斉に避難を開始した。皆が店内を駆け外へ出ていく中、僕は倒れている男性の方へ向かった。
近くで見るとより分かる酷さ。鼻は拉げており歯もボロボロ。
でも心臓は動いているし息も少しだがある。彼はまだ生きている。
「取り敢えず救急車――」
「ウゴォォオオオオオオ!!」
突如、何者かが大きく咆哮した。音のした方へ顔を動かす。
「……おい嘘だろ。まさか、ゲートブレイク」
ゲートブレイクとは門の先にいるモンスターがこちら側の世界に出てくることを指す。本来モンスターというのはこちらの世界へ出てこようとしない。もっとも出てこようとするモンスターがいようが、そんなことが起こるより前に開拓者がモンスターを討伐するのだが……。
目線の先にあるのは路地に佇む青い門。門の前に立つのはヒビキやユカちゃんを含む武器を構えた開拓者達。
そして開いた門の先からその姿を覗かせるのは豚のような……否、緑色の鬼のような見た目をした巨大な生物。
「ハイオーク……」
ゴールド級モンスターとされるハイオークが四体。門の中から姿を現した。
――
「それじゃあ今回のリーダーを務めるゲンだ。ランクはゴールド。皆よろしく頼むよ」
大柄で筋肉質の男性。歳は三十代程だろうか。肩まで伸ばしている髪がビルの隙間風で少し靡く。ゲンと名乗った男性は、低く、それでいて明るい口調でそう言った。
お昼時のビルの裏路地に集まるは七人の男女。それぞれが軽く装備をしており、それぞれの武器を手にしている。
日も遮られ、影に囲まれた空間で、一人ひとり自己紹介をしていく。
「ヒビキです。今日から開拓者になりました。ランクはシルバーです。よろしくお願いします」
ヒビキと名乗った好青年は皆に頭を下げた。拍手で出迎えられ、各々会話を交わしていく。
「明美だ。ランクはゴールド。前衛は私に任せな!」
「広大です。ランクはブロンズです。タンクやります」
「ユカです。ランクはシルバーで回復やります。よろしくお願いします」
「ハルキです。ランクはゴールドです。後衛は任せてください」
「優子です。ランクはシルバーでバッファーやります」
和気あいあいとした、とても賑やかな印象を受ける。そんな時間が数分続き、ゲンが口を開いた。
「もう自己紹介はいいかな? そろそろ行くとしよう」
その一言で皆の顔付きが変わる。にこやかなものではなく鋭く険しいものへと。
全員の目線が同じ一点へと集中する。
それは青く光っている高さ二十メートル程の門。威圧感を放ち、近付く者を拒む。そんな雰囲気を纏っていた。
「俺たちの仕事はこの門の先にいるモンスターの討伐。ランクはシルバー級だと協会から聞いている。ここにいる奴らなら余裕だろう」
「当たり前よ」
明美が言う。皆も賛同するような反応を示した。
「前衛は俺と明美のツートップ。その後ろにユカと優子。後衛はユカと優子を守るような形で広大とその他サポートでハルキ。ヒビキはどの状況化でも対応できるように好きな位置にいてくれ。と言っても基本的には俺や明美同様、前衛を頼むかもだけど」
「了解です」
「それじゃあ皆! 行こうか!」
――
門の中へと足を踏み入れた一行は歩みを進める。門の先は巨大な洞窟のようになっていた。
道中、ヒビキは溢すように呟いた。
「すげえ。これが異世界か」
輝く瞳には見逃すことがないようにと洞窟の全てが映っていた。いくらモンスターが危険とはいえヒビキとしては初めての異世界。高揚する気持ちを抑えきれないといった様子だ。
そんなヒビキを横目にユカは尋ねた。
「ヒビキさんはなんで開拓者になったんですか?」
「俺? 俺の家貧乏だからさ。折角能力に目覚めたんだし、お金稼ぐ為にかな」
ヒビキは答えた。
「私の友達にも、似たような理由の人がいました。先日、私を含め沢山の人を守ろうとして亡くなりましたけど」
「そっか……」
気不味い空気が辺りに漂う。自分の発言で空気が悪くなってしまったことに気が付いたユカはハッとした顔で言葉を続けようとした。しかしそれをヒビキが遮る。
「ユカちゃんは、どうして開拓者を続けているの? 怖くはない?」
「……私はただ知りたいだけです。彼女が命をかけたほどの価値が、私の人生にあるのかどうかを。でないと報われないじゃないですか。彼女も、私も……」
「そっか。めちゃくちゃかっけえじゃん」
ヒビキは俯いたユカに明るい笑顔で答えた。
「俺にも友達いるけどさ。同じことができるかって聞かれたら多分できないもん。俺はあると思うよ。ユカちゃんの人生に、ユカちゃんの友達が命かけたほどの価値が。ユカちゃんが生きている。ユカちゃんを守り切れたってことが――」
「お二人さん。遠足気分はそこまでだ」
門を入ってから八百メートル程進んだタイミングでヒビキの発言を遮るように先頭を歩いていたゲンが言う。
ゲンは右手を上げて皆に止まるよう合図した。突如姿を現した緊張感が辺りを駆け巡る。
「ハルキどうだ」
「ああ。ビンビン感じるよ。前方五百メートル先、六体いる」
「分かった。皆んな配置につけ! そろそろだぞ……」
その一言で皆は一斉に配置につき構える。
ジリジリと体を蝕むような緊張感。互いの呼吸音や唾液を呑み込む喉の音が小さく響く。
全員が固唾を呑んでそれを待つ中、三分経過した後にそれは暗闇から姿を現した。
「あれれ? ひーふーみー……七人しかいないじゃん。少なー」
「どうせ向こうの世界に行くんだ。今は我慢しろ」
「我慢って……それ僕きらーい」
矮躯の子供ような見た目をした女の子。一見すると人間の少女に見える彼女だが、額から生えている一本の赤い角が彼女が人間でないことを表している。
豪奢な装飾の施されたドレスにドリル状に巻かれた白のツインテール。とてもじゃないがこの場とは似つかわしくない彼女ともう一人。スラリとした立ち姿の黒いドレスを着た長身の女性。
装飾は少なく質素であるが、それを思わせない羞花閉月としたオーラ。艶のある長い黒髪は綺麗に後ろで束ねられ、鋭い眼光は目の前を見据えている。また彼女の額には二本の白い角が生えていた。
そんな彼女達の背後にいるのは、緑色の鬼を彷彿とさせる巨大なハイオーク四体。
「おいおい……こりゃ一体」
皆が一様に恐怖と混乱に震える中、尋常じゃない様子の人物が一人声を上げる。
「あっ……あいつは……あいつは!!」
ユカは震える声でそう叫び、子供のような彼女を指さす。
「あん? 誰あいつ。僕、人を指さす非常識な人間って――嫌いなんだよ」
刹那、空を切る鋭い音がユカを横切る。
「ありゃ、外しちゃった」
あっけらかんとする少女。そんな彼女を見据えてゲンは小声で言う。
「ハイオーク四体、ありゃプラチナ級だ。それにあの二人……今回の任務は中止だ。俺が時間を稼ぐから、お前達は逃げろ」
ゲンの発言に皆は顔を見合わせる。
「合図を出したら一気に走れ」
覚悟を決めた表情でゲンは言う。
「なーんか企んでいるみたいだけど無意味だ――」
「今だ走れお前ら! うぉぉおおギンガント!」
ゲンの合図に皆は一斉に駆け出す。
巨大化するゲンの背中を一瞥しながら、ただひたすらに洞窟内を駆けた。
「グォォオオオオオオ!!!」
四体のハイオークの咆哮が洞窟内を震わす。そんなモンスター達と戦うゲンの声を背に六人は門を目指す。
先頭を走るハルキが後少しで門に到達する……というタイミングで六人の真横を何かが飛んで行った。
五人は自分のことに精一杯で何かが横切ったことにすら気付いていなかった。ただ一人、ヒビキだけがそれを捉えていた。そしてヒビキは後ろを振り返り恐怖した。
ゲンの姿がない。
ヒビキは先程横切ったものの正体を確信した。四肢が本来とは逆の方向に捻じ曲がり、顔面を潰されたゲンが飛ぶようにして自分達を横切った。
「うっ……うわぁぁああああ!!」
「もーだから僕言ったのにな。それに僕、発言を遮られるのきらーい」
「暴走し過ぎだぞ」
「えへへ。ごめんなさーい。それじゃやっちゃって、オークちゃん達」
「グォォオオオオオオ!!!」
その一言を皮切りに、ハイオーク四体は門の外を目指して洞窟内を駆け出した。
補足
門の先にいるモンスター達がこちらに出てこようとしないのには理由があります。今後出てきます。
また例外中の例外中の例外ではありますが、門が現れてすぐにゲートブレイクする場合もあります。




