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死して尚最強  作者: 0レンジペン
第一章 開拓者試験編
3/26

死して尚

 ユエのヘアゴムを届けてくれた女の子はユカと名乗った。どうやらユエの友達らしい。


 ユカちゃんは今回の作戦で起こった悲惨な出来事について僕に泣きながら語った。


 だけど沢山の死傷者を出して作戦が失敗したということ以外、ぶっちゃけあんまり覚えていない。僕にとってそれは、どうでもいいことだからだ。


 ユエが死んだ。


 ユカちゃんを、いや皆を守ろうとしてユエは戦い、モンスターに喰われて死んだとユカちゃんは言っていた。


 ヘアゴムを届けに来た理由は、せめて少しだけでもユエを僕の下に帰らせてやりたかったから。そして僕に謝罪したかったからだそうだ。


 ユエはよく語っていたそうだ。兄である僕の事を。自慢げに、ずっと。


「ユエ……」


 僕はユエのヘアゴムを抱きながら泣いた。大の大人が長い時間泣き叫んだ。ユカちゃんはそんな僕に謝り続けていた。


 しばらくしてユカちゃんには帰ってもらい、僕は家の中でまた泣いた。情けなかった。妹が死んだというのに泣くことしかできなかった。


 ユカちゃんはユエを喰ったモンスターについて、青黒い角の生えた人型のモンスターだと語った。僕は泣くだけで、そいつに復讐する力すらなかった。


「ユエ……レストラン行けないじゃないか……」


 涙が枯れても泣き続けた。家の中に閉じこもって。


 途中レストランから予約時間が近付いていると連絡があった。勿論キャンセルしたが、またユエを思い出して叫んだ。

 

 泣いて、叫んで、吐いて。


 苦しかった。でもユエはもっと苦しくて辛かったのだろう。僕はあいつの兄貴なのにそれを押し付けた。


 僕は、僕は………。



――



 二日後の真夜中、僕は二日ぶり外に出ていた。腫らした目元を見られたくなかったので、パーカーのフードを深く被りながら。


 もう泣くのにも疲れた。


 今現在いるのは、都心部にあるビルの屋上。ユエと行く約束をしていたレストランのあるビルの近くだ。


 風が気持ちいい。目の前に広がる夜景は、とても形容しがたい美しさがあった。ビルの明かり、車の明かり、住宅の明かり、月明かり。


 ユエが気に入るのにも納得だ。


「ユエ、お前が守ろうとした世界は、こんなにも綺麗だぞ」


 そうして僕は宙を舞った。反転する世界の中をただ一人、踊るように。


 ユエ、寂しくないよ。お兄ちゃんも今そっちに――




 グチャ





――





【24年の人生お疲れ様でした】


【報酬として、24年を秒に換算した756864000ポイントを贈呈します】


【ポイントの獲得を確認しました。身体能力値の振り分けに進みます】


『パワー 20

 スピード 20

 体力 18

 反射神経 22

 耐久力 17

 持久力 19』


【自動振り分けを利用しますか? はい・いいえ】



【規定の時間内に返答がなかった為、自動振り分けに移行します】


『パワー 126144020

 スピード 126144020

 体力 126144018

 反射神経 126144022

 耐久力 126144017

 持久力 126144019』

 

【振り分けが完了しました】


【パワーの数値が基準を超えた為、スキルを獲得しました】


【スピードの数値が基準を超えた為、スキルを獲得しました】


【体力の数値が基準を超えた為、更なる上限が解放されました】


【反射神経の数値が基準を超えた為、スキルを獲得しました】


【耐久力の数値が基準を超えた為、スキルを獲得しました】


【持久力の数値が基準を超えた為、更なる上限が解放されました】


【全ての数値が基準を超えている為、能力『物体操作』を解放しました】


【全ての数値が基準を超えている為、能力『物体操作』が『無限・物体操作』に覚醒しました』


【Restartの準備を開始します】


【Restartの準備が完了しました。これより、Restartに移行します】


【それでは引き続き人生をお楽しみ下さい。Good luck】





ーー





「――ちゃん」


「――いちゃん」


「お兄ちゃん!」

「ハッ――ユエ!」

「ユエ? 俺は雪三郎だ」


 朝焼けが顔を覗かせる中、雪三郎と名乗ったおじさんは、横になっている僕の顔を犬とともに覗き込んだ。格好は上下灰色のジャージとかなりラフ。散歩の途中だろうか。

 

「それよかにいちゃん、困るよーこんな道の真ん中で寝てもらっちゃ。何? 酔っ払っちゃったの? それとも喧嘩か?」

「いや、えっと、なんというか……」

 

 しどろもどろになりながら、僕は道の真ん中で寝ていた理由を思い出す為に記憶を掘り起こしていた。たしか、ユエに会う為にビルの屋上から……でも生きている? 


 体を弄るが血痕はおろか傷の一つもない。夢なのかこれは。


「すいません。あまり覚えていなくて……」

「なんだ酒か。いいかにいちゃん、酒は飲んでも飲まれるな、だぞ」

「ワン」


 雪三郎さんは軽くお説教をするように僕に言い聞かせた。


「近頃はモンスターや能力持ちによる犯罪とか、物騒な世の中になってきているんだから、にいちゃんも気をつけろよ。若いんだから、命を粗末にしちゃいかん」

「ワン」

「ええ。肝に銘じておきます」


 僕は起き上がって服についた汚れを払う……ってなんかいつもより視点が高い気がする。気のせいだろうか。


「それじゃあ気をつけて帰りなさい」

「雪三郎さんこそお気を付けて」


 そうして雪三郎さんは犬とともに歩みを進めた。


 その背中を見届けながら、僕はすぐ側に建っているビルを眺める。


 間違いない。昨夜忍び込んだ建設途中のビルだ。五十階ほどの高さをしたこのビルの屋上。あそこから僕は飛び降りた筈。


 でも生きている。やはり夢か? うーん。でも、とても夢を見ているとは思えない。


 朝焼けの中、日差しが少し眩しかったのでパーカーのフードを被り僕は歩きながら思考を巡らせた。


 まさか僕にも能力が目覚めたとか。


「不死の能力かな……試してみるか?」


 冗談混じりにそんなことを呟く。確証もないのに本当に死ぬ馬鹿はいないだろう。でも――


「元々死のうとしてた身だしな……」

 

 ユエの顔を思い浮かべ、断腸の思いに苛まれながら僕は駅へ足を動かした。

 


ーー


 

 時刻は午前四時半頃。朝ご飯を作る気力がない為、駅の近くにあるコンビニに寄った。


「いらっしゃいませー」


 同い年ぐらいの女性の店員さんを一瞥してカゴを手に取る。客は僕を含めて二人。もう一人は金髪のチャラそうな男性だ。客数が少ないのは朝も早いからだろう。


 僕は数分の迷いの末、おにぎりを二個とクリームパンを一個。そして乳酸菌飲料を一本カゴの中に入れてレジへ向かった。


 ちょうど、もう一人の客が会計の最中だった為、後ろに並び順番を待つ。


 その時だった。


 金髪の男性が頼んだ煙草を背後の棚から取る為に店員が振り向く。店員の目がレジから逸れたタイミングで金髪の男性がレジから金を抜いたのだ。


「あーやっぱ二十一番で」


 時間を稼ぐ為か先程とは違う番号を指定する男性。


 目の前で犯罪が行われているというなんとも珍しい光景を僕は見て見ぬ振りをした。関わりたくないというのが素直な感想だ。

 

「あっ、すいません。やっぱ四十番で」


 でも妹なら、ユエならどうしただろうか。ふとそんなことを考えてしまった。ユエは今の僕と同じように見て見ぬ振りをするだろうか。否、しないだろう。ユエならきっと――


「どうせ死のうとしてた身だしな……」

「あ?」


 気が付いたら、レジを漁る金髪の男性の手を掴んでいた。

 

「おいあんた、警察呼ぶ――」


 突然、視界が点滅した。身体の重心が崩れたのか、千鳥足になりながら少し後退する。ぼやけた視界の中、金髪の男性を見ると髪が刃物に変化していた。先には赤黒い血が付いておりコンビニの床に滴っている。


 風船から空気が抜けるような音が喉から漏れているところを察するに、動脈ごと喉を貫かれたみたいだ。


 そう言えば雪三郎さんが言っていたっけ。最近能力持ちによる犯罪が発生しているとか。


 物騒な世の中とはよく言ったものだ。これじゃうかうかコンビニにすら行けないじゃないか。


 掠れ行く意識の中、金髪の男性の鋭い眼光と、店員が叫びながら慌てふためく様子を眺めて、僕はその場に崩れるように倒れ込んだ。


 ユエ、僕は今度こそ――

 





ーー






【4時間23分の人生お疲れ様でした】


【報酬として4時間23分を秒に換算した15,780ポイントを贈呈します】


【ポイントの獲得を確認しました。身体能力値の振り分けに進みます】


『パワー 126144020

 スピード 126144020

 体力 126144018

 反射神経 126144022

 耐久力 126144017

 持久力 126144019』


【自動振り分けを利用しますか? はい・いいえ】



【規定の時間内に返答がなかった為、自動振り分けに移行します】


『パワー 126146650

 スピード 126146650

 体力 126146648

 反射神経 126146652

 耐久力 126146647

 持久力 126146649』


【振り分けが完了しました】


【全ての数値が基準を超えている為、能力『分裂付与』を解放しました】


【全ての数値が基準を超えている為、能力『分裂付与』が『無限・分裂付与』に覚醒しました】


【Restartの準備を開始します】


【Restartの準備が完了しました。これよりRestartに移行します】


【それでは引き続き人生をお楽しみ下さい。Good luck】


 




――





「ハッ――」


 目を覚ますと、知らない天井が視界に広がった。顔を横に動かすとスナック菓子の袋。


 そして身体を起こすと、目の前には店員に迫る金髪の男。どうやら僕はまだ生きている?


 喉を触るが傷一つ残っていない。それにさっきの()()は一体……。


 ぼやけて佇んでいると、金髪の男が振り返り視線があった。


「あん? んだよ、まだ生きてんのか」

「………」

「また邪魔する気かよあぁ! 楽に殺してやったのによ!」


 男の髪が刃物へ変化し、僕の喉元目掛けて一直線に伸びてくる。


 でも不思議だ。迫って来るスピードは凄くゆったりとしたものだ。発言の割には甘い、赤子を誂うような攻撃。


 こんなの避けてくれと言っているようなものだ。急にどうしたのだろうか。


 僕は顔を少しだけ右に傾けて金髪の男の攻撃を躱す。

 

「なっ……躱しただと?」


 男のリアクションはまるで夢でも見ているような、あり得ない事が目の前で起こったかのような、そんなものだった。驚愕の表情と言っていいだろう。


 何がそんなに驚きなのか、僕には皆目見当もつかない。躱した事がか? だとしたら僕は相当馬鹿にされている。


 なんせこんな欠伸が出るようなスピードでさえ、躱すことが出来ないと思われているからだ。


「チッ、能力者か? なら、これでどうだ!」


 男はそう叫ぶと、先程までの髪の毛を束で変化させていたものではなく、髪の毛一本一本を細い刃物へと変化させた。


 無数の細い刃物が僕を喰らうように牙を剥く。でもまただ。とても遅い。


 縦横無尽に襲い掛かってくる髪の毛一本一本を僕はただ躱す。


 首を傾けたり、時には手で捌きながら。


「嘘……だろ……おい」


 ワナワナと震える金髪の男。すると男は急に僕から視線を外し店員の方へ向いた。


「こいつを人質に――」


 刃物となった髪を店員に伸ばす男。

  

 そのスピードはやはりとても遅いものだった。しかし位置が位置だ。僕が今全力で走っても、金髪の男に店員を取られる方が早い。

 

 だから僕は動かない。僕は――


「ウガッ――」


 男は店員を人質に取る前に、小さくうめき声を上げて床に倒れ込んだ。

 

「いっってぇ! 何をした!」

「……物を飛ばした」


 そう言いながら、僕はレジにあった小銭を宙に浮かせた。


 何故そんなことができたのか、僕自身よく分からない。でも動かせるという確信があった。()()を見てから。


「なあ、あんた。こんな事して楽しいのか? あんた能力持ちだろ? 開拓者にはならなかったのか?」


 倒れた男に近付き、そんな事を尋ねてみる。あまり意味はない。あるとすれば店員が警察を呼ぶまでの時間稼ぎ程度の会話だ。それでも、不思議と聞いてみたくなった。


「開拓者? はぁん、あんな仕事やってられっか。折角常人なんかとは比べ物にならない力を手に入れたのに、毎日死と隣合わせで何がいいんだか。やるならやっぱこうだろ? あんたもそうだ、俺たちは選ばれたんだよ! 力があれば女も金も手に入る。力のないカスに権利はねぇんだよ。楽しいかって? 当たり前だろ」


 そして男は命乞いをするように言った。


「なあ頼むよ。今回は見逃してくれよ。あっ、そうだそこの女の店員とレジの金、お前に譲ってやるから――ブゴッ」


 気が付いたら、僕は男の顎を殴っていた。怒りや嫌悪といった感情があったのかもしれない。


 初めて初対面の人を殴ったが、まあ元よりこいつは店の金を盗もうとした犯罪者。罪悪感はない。


 顎が明後日の方向を向き白目を剥いた金髪の男を一瞥して、僕は本来の目的である会計の為にレジの前に立った。


「これと袋もお願いします。それと怪我はないですか?」

「はっ……はい」


 震える手で会計を進める女性店員。


 それもそうか。命の危険があったのだ。怯えるのも分かる。


 あれ? なんで僕はこんなに冷静でいられるのだろうか。前までだったら、僕も怯えていたような……。


「ろっ……六百十一円……です」

「あっすいません、五千円札しかなくて」

「じゃ……で……では五……千円札……おっ……お預かり……します」

「お釣りはチップとして受け取って下さい。少ないですど、嫌な目にあった訳ですし、何か美味しいものでも食べて忘れて下さい」

「はっ……はい」

「それじゃあ。あっ、警察に連絡だけよろしくお願いします」


 そうして僕は袋片手にコンビニを後にした。


 外は既に日が昇り明るくなっている。


 未だユエへの想いや後悔は断ち切れない。


 寂しいし、ユエに会えるのなら僕は――と思って二回も死を覚悟したのに僕は生きている。


 どうやら妹が死んで泣くことしかできなかった僕に誰かがギフトをくれたみたいだ。


 もう泣き叫ぶだけの僕じゃない。何回死んだって構わない。


 ユエを殺した奴を探し出して、この力で、僕の手で必ず殺す。


「ユエ。もう少しだけ待っててくれ」

小話

 最初の頃はユエのヘアゴムではなく足でした。しかしそれだと、ユカちゃんが死んだ妹の足を兄に届けるとんでもなくヤバい奴になってしまうので、ヘアゴムが登場しました。

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