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死して尚最強  作者: 0レンジペン
第二章 開拓者編
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天を撃つ剣豪と復讐の孤独火 その二

「娑伽羅隊長!」


 目の前にいるゴルドドゥービィと名乗ったモンスターを見据えつつ、娑伽羅ウイは背後から聞こえる声に少し反応する。


 先程地面から伸びてきた半透明の何かが壁となり、ハヤテとユウキ以外の隊のメンバーと分断されてしまったことに、娑伽羅ウイは気が付く。


「アカリたちと、才賀さんたちは逃げて下さい。そして、こいつの事を斎藤さんや秦谷くんに知らせて下さい」

「でも……!」

「でもやあらへんアカリ! 自分の命優先!」


 隊のメンバーの中で最少年である山本アカリに娑伽羅ウイは言う。

 

「あいつは僕らが引き受けます」


 娑伽羅ウイは刀を抜き、思考を目の前モンスターだけに切り替える。相変わらず憎たらしい笑みを浮かべるゴルドドゥービィ。


「分かりました隊長。ご武運を」

「気を付けて下さい娑伽羅隊長」

「死ぬなよ娑伽羅」

「ええ……」


 アカリや才賀、その他仲間に一言返して、娑伽羅ウイは深く呼吸をする。


「別れの挨拶は済みましか?」


 ゴルドドゥービィが娑伽羅ウイに訊く。全くこのモンスターの顔は癪に触ると、娑伽羅ウイは内心苛立つ気持ちを抑えて答えた。


「あんたも生に別れを言った方がええんやないですか?」

「おや、言いますね貴方」


 娑伽羅ウイは刀を構え思考する。目の前で佇んでいるモンスターが流暢に人語を話しているあたり、相手はかなり知能の高いモンスター。ランクはプラチナ以上、もしかしたらオーバーロード級かもしれないと。


 自身の力がどこまで通じるのか、どうこの場を切り抜けるのか。娑伽羅ウイは状況を見定める。


 だが、いくら考えても勝てるビジョンが浮かばない。ならと、娑伽羅ウイは懐から携帯型の端末を取り出してボタンを押す。


 そして娑伽羅ウイは思考を切り替える。目の前のモンスター相手にどう時間を稼ごうかと。


「ハヤテ、ユウキ、救援を呼びました。あいつは僕が相手するんで、その隙に逃げて下さい……」


 娑伽羅ウイは小声で二人に言う。


「無理です隊長、死ぬ時は一緒です」

「それに俺たち三人ならどうにか……」

「二人とも……」


 隊長に逆らう部下二人。普段なら軽く怒るであろう事だが、娑伽羅ウイは嬉しかった。こうも慕ってもらえている事が誇らしかった。


「なら、三人で踏ん張りましょう。救援が来るまで……」

「分かりました」

 

 二人の息の合った返事を聞き、娑伽羅ウイはゴルドドゥービィへ肉薄する。


「『常來天撃流』、天砕斬」


 

――



「娑伽羅隊長……」

「振り向くなアカリ! 隊長を信じろ!」


 一瞬背後を振り向いたアカリにそう言うのは、同じく娑伽羅隊の龍矢。現在洞窟内を駆けるのは、娑伽羅隊三名と才賀隊の五名。向かうのは外へと繋がる門である。


「俺らはとにかく後衛の隊と合流して、応援を呼ば――」


 一瞬の出来事だった。アカリに声を掛けていた龍矢の姿が消える。


 先程まで洞窟内で木霊していたのは才賀隊と娑伽羅隊の足音や装備の擦れる金属音。だが今は止んでいる。しかし静寂ではない。


 例えるなら、振りに振られた炭酸が溢れ出るような、勢いよく水が噴き出るような音が辺りに響いている。


 一同はその音の根源を見つめていた。そして事を理解するのに数秒を要し、状況を理解した者から声を上げる。


「きゃああああああ!!」


 突如として()()()に押し潰され、洞窟の地面のシミとなった龍矢を見つめて誰かが叫んだ。


「敵しゅ――」


 次いで才賀の身体が潰れて地面のシミと化す。娑伽羅隊の一同は構えるが、才賀隊はリーダーが目の前で死んだショックに固まる。


 だが、そんな間に一人また一人と何かに潰されていく。遂には八人いた人数が四人へと減る。


「よし。大体こんなもんかな」


 そう呟き突如現れたのは白髪の男性。容姿は至って平凡。髪色と同じ白を基調とした服装は、汚れや皺もなく綺麗に着こなされている。


 朗らかに笑う男性から漂うのは、周囲を飲み込む不気味なオーラ。


「皆は分かってないなー。性別関係なく人間をとか言うけど、やっぱりあの御方が召し上がるとなると、むさ苦しい男たちより可憐な女の子だよね。男とかいらないって」


 発言の通り、何かに押し潰され、地面のシミとなったのは男性だけだった。怯えるアカリたちへ一歩、また一歩と近付いていく不気味な男性。

 

「うん。怯えているね。恐怖は良いスパイスだ。悪くない悪くない」


 アカリたちの顔を覗き込み、この場に残った一人ひとりを吟味する男性は言う。


「あっ……あなたは……」


 震える声を絞り出して訊くのは、娑伽羅隊のハルカ。


「うーん。食材である君たちに名乗る必要はないけれど……まっいっか。礼儀だしね」


 そうして男性は軽く頭を下げて名乗る。


「僕はバルバラ厶。偉大なる御方に仕える七つの下種の一人さ」



――



「『常來天撃流』、天昇」


 娑伽羅ウイは体勢を低くし、鞘から抜いた刀の刃を天に向けて下から上へと振るう。


 ゴルドドゥービィは身を後ろへ引くことでそれを躱し、そのまま身体を捻って蟀谷に手刀を放つ。


 娑伽羅ウイは能力『危機察知』により、自動的にそれを避けるよう動く。顔を傾けた直後に、丁度真上を通ったゴルドドゥービィの左手が空を切り、衝撃波を作り出す。


「『常來天撃流』、天砕斬」


 ゴルドドゥービィを挟むようにして、左右からハヤテとユウキが、天から地へと刀を振り下ろす。が、ゴルドドゥービィは左手でハヤテの、右手でユウキの刀を摘むようにして受け止める。


「『常來天撃流』、天抜」


 ハヤテとユウキの刀で両手を塞ぎ、隙が生まれたゴルドドゥービィの脇腹を狙って、娑伽羅ウイは横薙ぎを放つ。


 捉えた、と心の中で叫ぶ娑伽羅ウイ。しかし現実は無情にも彼を突き放す。


「いい連携ですね。冷や冷やしましたよ」


 娑伽羅ウイの刀を靴の裏で受け止めたゴルドドゥービィは態とらしく言う。


 次いでハヤテとユウキの刀を折り、娑伽羅ウイの刀を蹴り飛ばす。武器を失った三人はゴルドドゥービィから距離を取ろうとするが、それを奴は許さない。


 ゴルドドゥービィの背中から突如生えてきた三本の触手がそれぞれを襲う。娑伽羅ウイは能力によりそれを避けるが、ハヤテとユウキは突然の攻撃に反応が遅れ、ハヤテは頬をユウキは脇腹を触手が掠める。


「アガッ――」


 突然、ハヤテとユウキは泡を吹き、身体を硬直させて地面へ倒れ込む。


「アガァァアアアアア!!」


 かと思えば全身を掻き毟り、悲痛な声を上げながらのたうち回る。


「二人に何をした!」


 娑伽羅ウイは声を荒げる。

 

「はて? 何のことでしょうか?」

 

 ゴルドドゥービィは嘲笑い答える。対して娑伽羅ウイは深く呼吸をし、怒りを鎮め、ゴルドドゥービィの背後で蛇のようにうねる触手を見据える。


 ハヤテとユウキの様子から、あの触手には毒があるのかもしれない、などと思考を巡らせる娑伽羅ウイ。


 とにかく二人を、と思考する娑伽羅ウイを遮るゴルドドゥービィ。三方向から触手を伸ばし娑伽羅ウイを襲う。


「そんなに考えているが暇あるんですか?」


 能力により触手を回避している娑伽羅ウイにゴルドドゥービィが問う。そんなゴルドドゥービィに舌を打つ娑伽羅ウイは、触手を躱しながら遠く離れた自身の刀へと近付く。


 だが、当然のようにゴルドドゥービィはそれを見逃さない。まるで始めからそこにいたかのように、娑伽羅ウイの眼前へ移動したゴルドドゥービィは右手を伸ばす。


 娑伽羅ウイは能力によりそれを避けようとするが、それよりも速くゴルドドゥービィは娑伽羅ウイの首元を掴み、そのまま身体を持ち上げる。


「ガハッ――」

「こらこら、暴れない」

「ア゛ア゛ア゛ァァアアア゛」


 抵抗を示した娑伽羅ウイの腕を折り、足を捻じ切るゴルドドゥービィ。噴き出る娑伽羅ウイの血により、地面は赤黒い波紋を広げていく。


「安心してください。貴方たちはまだ殺しません」


 痛みと出血により、意識を朦朧とさせる娑伽羅ウイに、ゴルドドゥービィは言う。


「だから落ち着いて眠ってください」


 直後、ゴルドドゥービィは娑伽羅ウイの首元を掴む右手に力を込めた。



――


 

「なあ、秦谷くんのランクってシルバーだよな?」


 斎藤は先程の一瞬を振り返り、隊のメンバーに尋ねる。


「ええ。たしか娑伽羅くんがそう……」


 答えたメンバーは、いや斎藤含めその場にいた全員は、先の一瞬により恐怖のような、困惑するような、複雑且つ不思議な感情に飲み込まれていた。


「これは夢か?」

「いえ……」


 一同は秦谷レンにより()()()()を切り離され、現れてから一瞬で亡骸となったモンスターを見つめていた。



――



 場面は切り替わり、洞窟内を奥へ奥へと一人駆ける秦谷レンへと移る。そんな彼の足は突如として止まる。


「あれ? 誰君」


 秦谷レンの瞳には、両手足を失い地面に転がる女性が二人と、白い服装をした白髪の男性、そして白髪の男性により首元を掴まれ、たった今右腕を失った女性が映っている。


「あれれ! 君の顔見たことあるよ! たしかえーと……あっそうだそうだ! 秦谷レンでしょ」


 白髪の男性、バルバラムは続けて言う。


「いやー運がいいな僕は。まさか君に会えるなんて。そうだ、せっかくの女の子たちだけど、君が僕について来るなら、この子たちの命は――」


 刹那、白髪の男性の両手と顔半分が宙を舞い、秦谷レンの姿が消える。


 秦谷レンは一瞬の内に女性三人を一か所に集めた。次いでスキル『再生』を使い、彼女たちを両手足、その他負傷箇所を治す。


「……さ……がら……」


 女性の一人が掠れた声で何かを言う。しゃがみ込み、それに耳を傾ける秦谷レン。だが彼女の声を遮るものが一つ。


「流石あのヴァラタス様を追い詰めた人だ……強いなぁ」


 宙を舞った筈の両手と顔半分が再生したバルバラムは、恍惚とした口調で言う。


「さ…が……ら……たい……ちょう……」


 そう呟く女性を地面へ寝かせて、秦谷レンは立ち上がる。


 先程、秦谷レンの中で浮かび上がった疑問が一つ。何故見覚えのない奴が自分の名前を知っているのか。その答えが繋がっていく。


 自分の名前を知っていて、ヴァラタスを知っている。繋がった一本の線を確かめる為、秦谷レンは呟いた。


「予定変更だ」

「うん?」


 立ち上がった秦谷レンは、目の前のバルバラムを力強く指差して言う。


「お前、まともに死ねると思うなよ」

補足

 ハヤテの能力は『鋼鉄化』で身体の一部を鋼鉄に変化させることができます。

 ユウキの能力は『意思疎通』、動物やプラチナ級以下のモンスターと喋る事ができます。

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