VS『常來天撃流』 その二
再度構えた娑伽羅ウイは再び僕の方へと足を動かす。が、先程までと違うのはそのスピード。素早い。しかし目で追えない程ではない。
手に握った木刀を浮かし、僕そして木刀対娑伽羅ウイ、つまり二体対一の状況を作る。まともに正面からやり合えば技術で負けるだろう。剣道という種目において、多分というか確実に彼の方が経験値は上。だから僕は正面からはいかず、自分の能力を活かして二体対一というアドバンテージを作り、生まれた隙を突く。
数は力なり、だ。
先程同様、僕に注目がいっている間に木刀を動かしたい。ただ一度通じたものが二度通じるのか。となればここは、騙し手を使うのではなくスタンダードに。
木刀を動かし右から、そして僕は左から娑伽羅ウイへ向かう。娑伽羅ウイの足が止まる。
まずは木刀で敢えて思い切り面を狙う。意識が木刀に向けば、僕の存在は一瞬隠れる。その隙に近付き、木刀を手元に戻して、死角から面を――
「――『常來天撃流』、先刻の天風」
娑伽羅ウイが何かを呟いた。刹那、娑伽羅ウイは身体を回転させ、それにより生まれた風が僕の木刀を飛ばす。すぐさま引き戻そうとするが、僕はそこで自分の犯したミスに気が付く。
先程散々考えていたのにまさか自分でそれをするとは。意識が木刀へ向けば一瞬だけだが存在が隠れる。
「面!」
空を切り、音を切り、勢いよく振り下ろされた一撃が僕を襲った。
――
「……ってあれ? えぇぇええ! まじですか!」
驚愕の声を上げるのは娑伽羅ウイ。彼は勝利を確信した力強い一撃が受け止められたことに驚いていた。木刀を戻すのが間に合わないと判断した僕は、素手で娑伽羅ウイの一撃を受け止めた。左手がジンジンと痛む。
左手で握っていた娑伽羅ウイの木刀を手放し距離を取る。
「受けと……えぇぇええ……左手折れてませんよね?」
「ええ。少し痛みますけど」
「少して……」
そんなやり取りを挟み木刀を手元へ戻す。
「今度はちゃんとくらって下さいよ」
娑伽羅ウイと僕は構える。互いに互いを見据えて、次はどう動こうかと思考する。と、そんな時だった。
「やめ!」
剣天聖のその一言で僕と娑伽羅ウイは構えを中断する。
「なんでですか師匠? まだどっちも一本も取ってませんて」
娑伽羅ウイが訊く。
「やめと言ったらやめだ。もう十分、分かった」
分かったと剣天聖は言うが一体何が分かったのか。娑伽羅ウイの事か、それとも僕か。
「おいあんちゃん、名前は?」
「秦谷レンです」
「レンか……。所属は?」
「近所の小さな事務所に所属しています」
僕がそう返すと、剣天聖はあからさまにガッカリとした様子をする。
「まあ所属しているか。すまんかった。時間を取らせてしまって」
「いえ全然」
「んじゃ、帰るぞウリ坊」
娑伽羅ウイは「分かりました」と剣天聖に言い、僕に一礼し木刀を片してから剣天聖とともに剣道場から退出した。
「結局何だったんだ?」
一体二人は何が目的だったのか。嵐のように現れた二人は、嵐のように去って行った。
――
「そんで師匠はなんか分かりましたか?」
「まあな」
トレーニングルームの廊下を歩く剣天聖と娑伽羅ウイは言葉を交わす。
「ウリ坊。あのレンとか言うあんちゃんと戦ってみてどうだった?」
剣天聖の問いに娑伽羅ウイは先程の一戦を思い出す。
「強かったですよ。まあ、白雪レイが直々にスカウトする程ではありませんでしたけど。ただ彼、本気出してなかったです」
「それはお前もだろウリ坊」
「僕はまあ、いいハンデなるかなと思っとっただけです」
エレベーターの前まで着くと娑伽羅ウイは上の階へのボタンを押す。相変わらずだが、オーバーロード級がいるとだけあり周囲の視線は痛い。
「彼、磨けば光ると思いますよ。取ってつけたような技術は持っとるみたいですし、使い方が分かれば強くなると思います」
「それはそうだが、まあそこは個人の自由だ」
エレベーターが到着しドアが開く。二人はエレベーターへ乗り込み地上一階のボタンを押す。
「秦谷レン……少し気になる男だな」
二人きりのエレベーターの中、剣天聖は呟く。不敵な笑みを浮かべて。
「秦谷レンもええですけど、会議、忘れてないですよね?」
「あっいっけね。この後はちょいと予定が……」
「逃がしませんよ。師匠」
その後、剣天聖は娑伽羅ウイと駆け付けた事務所『常來天撃流』の人達によって、引き摺られながら開拓者協会のビルを後にした。
――
初の異世界に急な剣道の試合と、色々あった一日が過ぎて朝になる。今日はバイトは夜からなので、時間はまだたっぷりとある。
なら、と眠る頭を叩き起こしてリビングの椅子に座る。今から行うのは能力『無限・分裂付与』についての検証。自分に何が出来て何が出来ないのか。それを深堀っていこうと思う。
取り敢えず『無限・分裂付与』が何かを考える。『無限・物体操作』は多分、というか使っている感覚から推測するに「無限の数の物体を操作出来る能力」だろう。
それを元に考えるのであれば「無限の数の何かに分裂する能力を付与する事が出来る能力」か「無限に分裂する能力を付与する事が出来る能力」の二択だろうか。分裂の付与だから、僕自身が分裂する訳ではない筈。
「まあ、試してみよう」
一人呟き、適当に目に入った物を手に取る。
「茶碗でいいか」
茶碗を机の上に置き思考する。分裂ってことは一つが複数に分かれるってことだ。この茶碗が増えれば成功。
茶碗を眺めイメージする。物体を操作する時「こう動け、ああ動け」とイメージで能力を使っている。なら茶碗が分裂するイメージをすれば……。
「変化なし。能力の発動条件が違うのか?」
何も起こらなかったので再度思考する。イメージじゃないとすれば……なんなんだ? もしかしたら何かしらのアクションが必要なのかもしれない。
今思い付くもので言えば、茶碗を割ってみるとか。漫画やアニメに出てくる分裂系の能力って、一度真っ二つに切って倒したと思ったら二人に増えている、みたいなのが多い気がする。切っても切っても分裂し数が増えて強くなる、みたいな。
「割ってみる……か?」
いざ割るとなるなら茶碗以外で試したい。なんせ生活していくうえで普通に使う物だ。ティッシュ……は分裂しても分かりづらい。ぶんぶん丸は……なしだ。コップならいくつかあるしギリか。
茶碗を片付けコップを手に取る。両手でコップを持ち一応コップが割れて二つになるイメージする。
「よっ……」
コップを持つ両手に力を込めて割る。するとどうだろうか。
「……おっ、成功だ」
見事にコップは二つになった。色、形状はそのまま。全く同じ二つのコップが生まれる。続けて片方を机置き、もう片方を再度割ってみる。すると再びコップは二つに分かれる。これでコップが三つに。
一応イメージが能力の発動に影響するのかを試す為、何も考えずにコップを割ってみる。結果、ただコップが割れただけで何も起こらない。やはり能力の発動にはイメージが重要なのかもしれない。
取り敢えず分かったのは『無限・分裂付与』の発動は分裂のイメージをし何かを割ること。まあ多分二つになれば、切ったり、折ったりでも大丈夫だろう。能力の概要は名前の通り分裂する能力の付与だろう。無限の部分は今はいい。
「次は戻し方だな」
やはりこれもイメージが必要なのかもしれない。ということで増えたコップが一つに戻るイメージをする。すると増えたコップたちは互いに引き寄せ合い一つに戻った。
「これが『無限・分裂付与』か」
そう呟きコップを片付ける。『無限・分裂付与』、上手く使えれば強そうだ。
これで二つの能力の大方は分かった。あと検証するならスキルについてだ。これが一番分からない。
まずスキルと能力の差はなんなんだ? 『浮遊』とか『再生』とか『拡大』とか普通に能力では? と思う。ただ、あのステータス画面がスキルと能力とで分けているとなると、何か違いがあるのではと勘繰ってしまう。
一応、現状分かることと言えば、スキルを使う際はイメージというより、「ああしたい、こうしたい」という思いが具現化している感じだ。
実際、『浮遊』を初めて使った時は、とにかくハイオークの攻撃を避けるため上へ飛びたい、と思っていた。『再生』もカミラを助けたいと思ったら使えた。『拡大』も同じ。
ただ、だからと言って、例えば腹が減ったからハンバーガーが食べたい、と思ってもハンバーガーは出てこない。
これは僕がハンバーガーを出すスキルを持っていないから、はたまた違う理由なのか。
「取り敢えずは数撃ちゃ当たるで色々とやってみるしかないか」
僕はバイトまでの時間をスキルの検証に全て使ったが、結局何も分からずじまいでその日を終えたのだった。




