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死して尚最強  作者: 0レンジペン
第二章 開拓者編
20/26

『剣聖神』

「あっ、いた」


 森を進み三分程。木の陰に隠れ座り込んでいるラミハを見つける。


「ヒーラーが一人で歩き回るなよ」


 ラミハに近付くが何処か心此処に在らずといった様子で虚空を見つめている。


「おい、大丈夫か」


 軽く肩を揺するとラミハの視線が僕の方へ向く。


「あれ? レンレン?」

「大丈夫か? 目が虚ろだぞ」

「大丈……あれ? あーし……」


 静かに呟くと、突然ラミハは背後を確認した。僕も釣られて顔を動かす。視線の先にあるのは草木に囲まれ少し開けた場所。たしかギャップ……とか言った気がする。ともかくラミハはそこを見つめていた。


「あそこがどうかしたのか?」

「いや……なんでない……」

「……? 取り敢えず立てるか?」


 未だ心此処に在らずのラミハに訊く。彼女は立ち上がろうとするが、足に力が入らないのか木を背中に滑るようにへたり込む。

 

「大丈夫かよ……仕方ない、ほら」


 ラミハに背を向けしゃがみ込む。


「ごめんレンレン」


 僕の背にラミハがもたれ掛かり、足に手を回して身体を固定、そのまま立ち上がりラミハをおぶる。人をおんぶするのなんていつかのユエ以来か。なんて遠い昔の記憶を辿りながら、門のあった場所へと足を動かす。


「そう言えばさ……レンレン」

「うん?」


 道中、ラミハが僕に問う。


「レンレンって……異世界に知り合いいる?」

「はぁ?」


 突拍子もないことを訊かれ、溜め息に似た間抜けな声が出る。知り合いと呼べる人がただでさえ少ないのに異世界にいる訳がない。というか僕は今回が初の異世界。作る機会もない。一体何故ラミハはそんなことを訊くのか。


「ラミハお前……モンスターになんかされたのか?」

「……分かんない。それと、さっきの質問やっぱなし」


 それだけ言うとラミハの口数が減る。さっきの質問の意図は掴めないが、まあ考え過ぎるものもあれか。取り敢えずは門を目指して、外の世界へラミハを届けることだけを考えよう。



――


 

「……眩しい」


 ラミハをおぶり門の外へ出ると異世界の薄暗さとこっちの世界の太陽の明るさとのギャップで目が少し痛む。


「おっ、やっと出てきたってどうしたんだラミハ!」

「よく分からないですけど、疲れたのか寝てしまったようです」

「ああ、そう言えばたしか最近、大学生の課題が忙しくて寝ていないとか言っていたな」

「そうだったんですか」

「取り敢えずラミハを預かろう」


 おぶっていたラミハを外で待っていたケンさんに預けてポケットから『門を塞ぐ壁』を取り出して門の前に設置する。軽く触れ、門全体に半透明な壁が形成されたことを確認して今回の依頼は殆ど終了。ちなみにだがラミハをおぶりながら向こう側からもちゃんと『門を塞ぐ壁』を発動させている。門周辺のモンスターも一掃したし、門は『門を塞ぐ壁』で覆われている。ゲートブレイクの心配はない筈。


 あと残っているのは終了後の諸々の手続きだがそれは僕ではなくケンさんの仕事だ。僕が働くのはここまで。

 

「依頼はこれで終了……ですよね」

「ああ、有り難うレンくん。君のおかげでかなり楽に事を進める事が出来た。君が私の事務所に入ってくれてよかった」


 ラミハをおぶったケンさんは力強くそう言うと僕の手を握った。


「本当に有り難う」

「いいですよ。それより、ラミハを事務所に送ってやって下さい。僕は協会に行って回収した素材の換金をしています。ケンさんのとラミハのも一緒に換金してきますよ」

「それは有り難い。が、私は明日にでも、免許更新と依頼終了の手続きも兼ねて自分で行こうと思う。ラミハのもその時に換金するから、レンくん一人で行きたまへ」

「分かりました。それじゃあまた後で」

「ああ」


 軽く挨拶をして僕はその場を後にする。開拓者としての僕の初陣は、これと言った問題もなくスムーズにその幕を降ろした。



――



 住まいのある地域から電車を何駅か乗り継いで開拓者協会の本部のあるビルへと向かう。徒歩で六分歩くと見えてくる都会の中でも一際大きな建物。あまりまじまじと外見を見たことがなかったが改めて見ると馬鹿デカい。五十……いや六十階はあるだろう。そんな建物の一階、入り口の自動ドアを抜けて受付へと向かう。


「……なんか見られている?」


 入って数歩進むと周りから刺さる視線の雨。勘違い……ではなさそうだ。明らかに見られている。何故?


「あの人ほら……」

「ああ、あの」

「おいあいつ例の……」


 辺りからチラホラと聞こえてくる声の数々。記憶を掘り起こし原因を探りながら受付の前に立つ。


「すいません。素材の換金って何階ですか?」

「はい。素材の換金でしたら三階で御座います」

「分かりました。有り難う御座います」


 三階へ向かう為エレベーターへ向かうが、その道中でも視線の雨は止まない。協会で何かやらかした記憶はないし、注目を浴びる覚えもない。あるとすれば例の一件で全裸になったことぐらい。まさかそれか? いやまさか……。


 三階へ着いても変わらない視線の雨。原因を考えるもの面倒に思えてきたので、とくに気にせず換金所へと足を運んだ。運がいいことに列は出来ていない。これならスムーズに換金して貰えるだろう……と思っていたが換金所の受付には人がいない。あるのは受付の隅に置かれた「御用があればこちらを鳴らして下さい」と紙が貼られたベル一つ。取り敢えず一回鳴らしてみる。が、反応はない。今度はもう一回鳴らして尋ねてみる。


「すいません。素材の換金をお願いしたいのですが」

「はーい今行きまーす」


 そんな返事とともに奥から淡い桃色髪のお団子ヘアの女性が出てきた。


「おやおや? 今話題沸騰中の方ではありませんか!」

「話題沸騰?」


 僕が訊き返すと彼女は言う。


「ええ、そうですよ。なんでもあの白雪レイ直々にスカウトされた謎の青年って皆盛り上がっていますよ!」

「そういう訳だったんですか」

「ご存知なかったんですか?」

「ええまあ」

 

 説明されあの時かと納得する。確かに白雪レイの後ろを歩いていた際の周囲の視線は痛かった。なるほど、この異様な注目も腑に落ちる。


「それで、換金する品というのは……」

「これです」


 受付のカウンターに肩に掛けていたバッグを置き、中から異世界で回収した素材を取り出す。今回僕が回収したのは淡く紫に光る小さな石ころが六つとゴブリンが持っていた緑色をした何かの欠片が一つ。


「ふむふむ。魔原石と……これは小さいですけど魔石ですかね」


 カウンターに並べられた品を手に取り彼女は言う。魔原石ってたしか魔石一歩手前の石だっけ。


「全部で七点ですが、換金をお願いします」

「分かりました。今日は他に人もいないですし、換金する品数も少ないので、そうですね、五分程お時間を頂きます」


 そう言われ近くの壁にあった時計を確認する。時刻は午後一時十分。


「それじゃあお願いします」

「はい! では開拓者免許の提示をお願いします。話題沸騰中の方なので少しだけ色をつけさせてもらいます!」


 にかっと笑う彼女に開拓者免許を提示する。何かの確認を取られて数秒で戻って来たそれを財布にしまい、取り敢えずは近くにあった椅子に座る。五分って言われたしあまり遠くにはいけない。自動販売機で飲み物でも買おうか。でも金は取っておきたいし……などと考える。


 この換金が終わり次第昼飯でも食べよう。それに残った今日の時間をどう過ごそうか。バイトもないし、前々から考えていた自分の能力について調べてみるか。そう言えば、ここ開拓者協会のビルは上だけでなく下にも階層がある。地下にあるのは主に開拓者専用のトレーニングルームだった筈だ。能力やスキルについてはそこで色々と試してみるとしよう。せっかくタダで使えるんだ。使わないともったいない。

 

 様々な思考を巡らせてからちょうど五分。


「秦谷レン様! 換金が終わりました!」


 名前を呼ばれ換金所の受付へと移動する。


「今回魔原石が四点、小さな魔石が二点、そしてサーペントウルフの鱗が一点の合計七点で三千七百円です」


 一つだけ変なのが混じっているが一旦気にせず受付の女性から三千七百円を受け取り財布にしまう。七点だけで四千円近く。これが初めての換金だし、色をつけてもらったからかは分からないが、結果はかなりの上々。


「有り難う御座います」

「いえいえ。また機会があれば是非!」


 彼女は再び笑みを浮かべ手を振る。それに軽く会釈をして踵を返す。

 

「あのゴブリンが持っていた緑色の欠片はサーペントウルフの鱗だったのか」


 エレベーターへ向かう最中に独り言ちる。サーペントウルフとはゴールド級モンスターでケルベロスの左右の頭が蛇の頭になったやつだ。たしか鱗は防具の材料として使われていた筈。そんなものが混じっていたとは。


「ええっと、トレーニングルームは……」


 エレベーター近くにあった協会のビル内の地図を確認してトレーニングルームを探す。


「あった。地下三階か」


 エレベーターの下へ行くボタンを押す。運が良かったのかボタンを押すと同時にエレベーターのドアが開く。スーツ姿の男性と相乗りになり、またもジロジロと見られつつ地下三階へ向かう。


「地下三階で御座います」


 到着しエレベーターから降りると目の前に広がるのは豊富なトレーニング機器の数々。ただ量の割には使用者は見える範囲で六人と少ない。平日の昼過ぎだからだろうか。いや、だとしても開拓者を仕事にしている人はいてもおかしくない。皆門へ駆り出されているのかもしれない。それに中、大手の事務所にはそれぞれに専用のトレーニングルームがあると言うし、協会のを利用する人が元々少ないのかも。


「色々気になる機械はあるけれど、昼飯も食いたいし、取り敢えずは見て回るだけにするか」


 そうして思い思いに足を運ぶ。エレベーターを降りてすぐのジムのような場所や柔道場にボクシング場。驚いたのは巨大なプールがあることだ。


「金かけてんな」


 他には各種プロテインが置かれているドリンクバーみたいなものやフードコートみたいなのもある。本当に何でもありだ。


「ここは……剣道場か」


 適当にフラフラと回っていると第三剣道場と書かれた場所へ着いた。軽く中を覗いてみる。


「あれ? 一人だけか」


 柔道場、ボクシング場、プールにフードコートとどれもチラホラ人はいたがここ第三剣道場には一人だけ。入り口に背を向け、ただ只管に竹刀を振るう和服姿の巨漢の男性。彼の足運びや静か且つダイナミックな素振り姿には、どこか目を惹きつけられるものがある。凄い人もいるもんだと感心していると、竹刀を振り上げた男性の手が止まる。


「うん?」


 男性は静かに竹刀を下ろすと僕の方へと振り向いた。


「あっ……」


 振り返った男性の右眼は十字に刻まれ、白髪交じりの黒髪は軽いオールバックのようにかき上げられていた。


「ひょっとしてここ使いたいのか? ガッハッハッハ、気付かなくてすまなかった。俺が独り占めしたみてえだな」


 豪快に笑いながら顎髭を指の腹で撫でる彼を僕は知っている。なるほど。通りで素振り姿に惹きつけられる訳だ。


 彼の名前は剣天聖(つるぎてんせい)。『剣聖神(ザ・ソード)』の異名を持つ、オーバーロード級の一人だ。

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